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YURIホールディングスPresents プレイヤーズヒストリー特別編 吉田謙監督インタビュー

2024シーズンのチームが始動しました。
ブラウブリッツ秋田公式noteにてプレイヤーズヒストリーを執筆いただいている土屋雅史さんによる、吉田謙監督の特別インタビューをお届けします。
昨シーズンの振り返り、そして今季へ挑む思いなど様々なことを聞いていただきました。

――今はシーズンが終わって1か月ぐらい経っていますが、最近は何をされてらっしゃいますか?(※インタビューは2023年12月9日に実施)

「サッカーを見ています。Jリーグを見ていることが多いですね」

――何にフォーカスしてご覧になっているんですか?

「選手もチームも、ですね。あとは時間がある限り、試合を見に行きます。J1昇格プレーオフは全試合を観戦しました。可能な限り、練習も見させていただきたいなと」

――他のクラブの練習をご覧になって、気付きがあった部分はありますか?

「練習方法や内容よりも、クラブの伝統やスタッフ、選手が作り出す空気を楽しみにしています」


――ここからは改めて2023年シーズンのことを伺わせてください。12勝12分け15敗、37得点44失点で13位というのがブラウブリッツの結果でしたが、この数字はどういうふうに捉えてらっしゃいますか?

「秋田一体で戦った結晶だと思います」

――まずシーズン前に『53泊54日』という、数字的にインパクトのあるキャンプを送られたわけですが、ブラウブリッツ以外のチームはなかなか経験しないような泊数と日数のキャンプですよね。これは実際に経験されている当事者の方からすると、どういうものですか?

「終わりを思い描くことから始めて、選手たちがなりたい自分に向かって宣言し、自分とチームの約束をやり抜く挑戦と成長。武器磨きとして最高の日々だと思っています。サッカーに集中させていただける環境に、感謝しかないです」

――チームをマネジメントする立場として、2か月近く続く長いキャンプの中で、大事にされていることはどういうことですか?

「プロであること」

――もうちょっと具体的にお願いします。

「チーム勝利への貢献と結果。選手、スタッフの個人が主体的にチーム勝利への貢献を考えることと、日常から高い精度で結果を出すために妥協なく準備すること」


――公式noteでも素敵な表を作っていただきましたが、キャンプ地の高知から開幕戦のある群馬に行き、また高知に戻り、2節は熊本へ移動して、また高知に戻ると。そこから藤枝に向かって、ようやく秋田に帰るというのが開幕3戦までの行程だったと思います。これは、さすがに大変ですよね?

「開幕は楽しみしかないので、集団生活の中で助け合って積み上げてきたことが表現できる素晴らしい時間。秋田だからできる、秋田にしかできない、チームが成長できる行程です」

――特筆すべきはそんな厳しい行程の中で、開幕からの4試合は3勝1分けと負けなしです。これは素晴らしい結果ですよね。

「素晴らしいですね。徹底した証ではないでしょうか。一体感でチャンスを掴む生命体になった証だと思います」

――いわゆる『開幕ダッシュ』と呼んでいい4試合だったと思うのですが、これがシーズン全体に与えた影響はどのように考えてらっしゃいますか?

「自信を持って臨んで、それが確信に変わって、さらに磨きをかける決意ができた4試合だと思います」

――今年のホーム開幕戦のジェフユナイテッド千葉戦は、コロナ禍以降で初めてスタジアム全体での“声出し応援”が可能になった試合で、試合後の会見で吉田監督は「生声は心に刺さる」とおっしゃっていましたが、この試合で感じたことと、この試合に勝った意味をどういうふうに感じてらっしゃいますか?

「秋田で暮らしていく中で、地元の声援を受けて、秋田を背負って戦っている選手とチームがいる。チームを信じてくださる皆様の生声は大きな力になります。声援は『声の援護』。声によって心に火をつけて躍動させていただけるのは、本当にありがたいです」

――第8節では6連勝中と無双状態だったFC町田ゼルビアとアウェイで対戦して、84分に阿部海大選手が挙げたゴールで、開幕から無敗だった首位を撃破しました。この試合は今からどう振り返りますか?

「狂犬的という感じでした。ノーマルポジションではなくて、全員がピンチとチャンスでボックスからボックスというより、ゴールからゴールへ勇敢にボールを奪い切る力と、ゴールに直結させる気持ちが表現されていた試合でした」

――この勝利が周囲に与えたインパクトは絶大だったと思います。

「いえ、そういうことは全然考えておりません。選手、チーム、スタッフが挑戦・成長しているかということにフォーカスしています」

――阿部選手はあれがリーグ戦で実に5年ぶりのゴールでした。

「セットプレーからでしたが、粘り強く守備をし続け、攻撃でも走って、チーム全員で奪ったゴールだと思います」

――第16節からは6試合も勝利に見放されます。このなかなか勝てないという事実は、チームの雰囲気に影響を与えるものですか?僕はこういう時ほど、吉田さんが普段からおっしゃっているようなことが大事になってくるんじゃないかなと。

「徹底した中で、研ぎ澄まされた感性が出てきた時だと思います。徹底する基軸があると『こういうところが凄くいい』『もっとこうした方がいい』となっていく。そういう選手たちの積み上げてきた言葉や行動が、良い方向に向かう前の段階だったかなと思います」

――この6試合未勝利が続いた次の試合が、中3日でのアウェイの清水エスパルス戦でした。この試合でようやく7試合ぶりの勝利を挙げたわけですが、この勝利はシーズンの中でも非常に大事なものだったのかなと。

「積み上げて良い方向に進んでいく中で、徹底を徹底できた試合だと思います」

――アウェイのエスパルス戦というのは、J2でも屈指の難しい環境だと思うんですね。ああいうスタジアムで、ああいうサポーターがいて、相手も昇格争いをしているチームで、しかも中3日という状況で臨んで、勝ったということが凄いんじゃないかなと思うんです。

「ブレない、揺るがない。ミスはみんなで助け合い、走力で問題を解決し、さらに良い方向に成長しようとする、力強い芽を出したなと思っています」

――ちなみにスコアは1対0でしたが、シュート数は2対18でした。

「それも粘り強さの真骨頂で、やられているように見えているけど、実は支配している感覚もあり、走り続けてボールを奪い、チャンスメイクすることが多々あったので、人としての強さ、結束力が滲み出ていました」

――「気持ちでつかんだ根性の勝ち点3」と試合後の会見でおっしゃっています。

「快適、便利、安全の感情が優先の世の中で、泥臭さ、泥にまみれても這いつくばって前に行く根気の美徳。『やり切る集団・秋田』だと感じました」

――続けて「選手はどんな時も気持ちをぐらつかせることなく、本気の基準を毎日上げようとしている。これからも粘り強く、気持ちを込めて戦いたいと思います。平日の夜にもかかわらず、熱量を込めて選手を後押ししてくれたサポーターの皆さま、本当にありがとうございます。これからも秋田一体で共に戦っていただけたら幸いです」とおっしゃっています。

「本気の選手とサポーター。本気は本当に大事だと思います。感情を全部出して、熱いけれど、冷静でリスク認知し、仲間へのリスペクトもある。本気が人を変えて、影響も与えていくと思います」

――7月には秋田が大雨の災害に見舞われました。町田とのホームゲームも延期になって、アウェイで臨んだレノファ山口FCとの試合は、終盤に先制して、追い付かれて、90分に丹羽詩温選手が土壇場で決勝ゴールを挙げて勝ちました。秋田がそういう状況の中で、ブラウブリッツが勝利したことは、やっぱりブラウブリッツが秋田にある意味を凄く示したのではないかなと思うのですが、その状況下での山口戦の勝利は、今から振り返るとどういうものでしたか?

「街を背負っている責任感。全力のプレーで恩返しする。チームがその熱を帯びていました。団結の中に底力は宿る。秋田一体で心と足を止めずに、追いつかれてからもさらに粘りの強度を上げて、走り勝つことができた試合でした」

――それこそ吉田監督が就任時からずっとおっしゃっている『秋田一体』を示すべきゲームで、それを示せたんじゃないかなと。

「元気を届ける、感動を届けるには、全力プレーを超えた全力だと伝わる。選手たちの勝ちたい願望、秋田のみなさまに貢献したい気持ちが一体となった結果だと思います」

――山口戦に勝った試合から、9戦未勝利に入ります。ここがシーズンの中で一番勝ちのない時期だったのですが、これはチームにとってどういう時間でしたか?

「徹底と継続で積み上げた力を付けることに対して、反省と検証を繰り返して、やるべきことを整理して、さらにチームがより良い方向へ向かうために、チームは苦しみながらも強くなっていましたし、選手たちがブレない、揺るがなかったことが素晴らしかったです」

――この9戦未勝利の間には、第32節の清水エスパルスと第33節のジュビロ磐田とホームで連戦があって、どちらも追い付かれてのドローだったんですね。この2チームはずっと昇格争いをしていた強豪ですが、この引き分けた2試合に関してはいかがでしょうか?

「チームが勝つための本質を追求しながら、良い駆け引きが生まれていました」

――その『良い駆け引き』をもうちょっと具体的に教えてもらえますか?

「試合中に起こる難しい難問に対して、状況を的確に見抜いて、自分たちのペースに引きずり込む駆け引きが素晴らしかったと思います。たとえば、1人で奪いに行くのか、2人で奪いに行くのか。それとも、トリオか、ユニットか。決して命令されたものではなくて、自分たちで主体的にピッチ上で解決する力が向上していましたし、一番大切な、勝つために走って貢献解決するという気持ちが良かったです」

――それが勝ち点1に繋がったということでしょうか?

「選手たちが、人として人の意見を聞き入れて、それを解釈、咀嚼して、前向きな言葉に変換してまとめる力であったり、仲間の心に潜水していって、チームを束ねていく選手たちが、良い方向に進んでいきました」

――シーズンを考えると、ホームゲームは15試合勝ちがないまま終了しました。3勝11分け7敗がホームの結果で、5月7日に行われた第14節の栃木SC戦の白星を最後に、半年近く勝利がなかったと。このことについては、率直にどのように考えてらっしゃいますか?

「秋田一体となって、街の誇りとなるべく、我々は勝ちを共有して、シナジーを生み出す熱原体でなければならない。勝ちを届けられなかった責任は、監督にあると思います。最後の5分を勝ち切るには、日常がすべてである。勝利の神は日常に宿る。だから、日常力が足りなかった」

――それが如実に出たのが最終節の徳島ヴォルティス戦で、あの試合に勝っていればシーズンの最後にみんなで喜べた試合を、1点リードしながら90+4分の失点で引き分けてしまったことが、今季のホームゲームを象徴してしまうような試合だったのかなと思うのですが、あの最終節に関してはいかがですか?

「ゲームを閉めることの大切さ。交代選手のゲームを変える力、閉める力、チーム一体の心のスタミナ。入りから終わりまで全てが本当に大切だと痛感しています」

――最終節が終わった後の会見で、「どんな時もゴールを目指し、前に行く。その意志は躍動していました。1センチ、ボール1個分の執念は悔しさから出てくるものだと思います。さらに、良い選手、良いチームになると信じています」とお話しされています。それを聞いて、僕は1センチ、ボール1個分が届かなかった悔しさを、吉田監督も感じられたんじゃないかなと。

「本気の基準を上げながらも、さらなる本気に到達できなかった。本気でやるから気付きも多くなり、次へのパワーが生まれる。自分の力のなさがすべてです」

――2024年シーズンも吉田監督がブラウブリッツ秋田の指揮を執ることが発表されています。さらに日常を突き詰める毎日がスタートすると思うのですが、これからやってくる2024年シーズンにはどういう期待を持ってらっしゃいますか?

「信じる力を、信じたい。それのみです」

――どういうシーズンにしたいですか?

「選手とチームが人として成長すること」

――それはずっと変わらない信念ですね。

「そうです。日常を大切にして本気で信じれば必ず成長すると思います」

――新しいシーズンが来るのは楽しみですか?

「楽しみですね。落としていい試合はないし、落としていい日常はない。日常を信じたいです」

文:土屋雅史
1979年生まれ、群馬県出身。
Jリーグ中継担当や、サッカー専門番組のプロデューサーを経てフリーライターに。
ブラウブリッツ秋田の選手の多くを、中・高校生のときから追いかけている。
https://twitter.com/m_tsuchiya18

YURIホールディングスPresents プレイヤーズヒストリー
ピッチ上では語られない、選手・スタッフのバックグラウンドや想い・価値観に迫るインタビュー記事を、YURIホールディングス株式会社様のご協賛でお届けします。
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