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06 セットデザイナーになる方法

どんな世界でも一人前になる為には下積みが必要だ。ベタな言い方をすれば花を咲かすための根っこだ。それはスポーツ選手でも証券マンでもヘアスタイリストでも全てに共通している。ではセットデザインの世界ではどんなことが下積みに必要なのか?

『経験値をつける』
セットデザイナーとして仕事をするには経験が不可欠となる。どんな仕事でもそうだが、特にセットデザイナーは他のジャンルよりずば抜けて経験が必要な気がする。それはなぜか。。?答えは簡単。経験がないとデザインができないのだ。鼻歌で作曲をする、昼ごはんを作る、野原に座ってスケッチをする。初めてでもなんとなく形にはなる。もちろん上手い下手はあるが。しかしセットデザインは劇場空間のこと、流れる時間のこと、台本を読み込むということ、知らなければならないことが山のようにあり、それらの経験がないと何をデザインすれば良いのか想像がつかない。もちろん雰囲気で舞台セットの絵を描くことはできる。しかしそのセットの中で時間やストーリーが流れるようにするには様々なテクニックが必要なのである。そしてそれは経験からしか得られない。 まずは現場を知ること。最初は観客席からでも良い。その後実際のセットがどうのように生み出され、どのように実現化し、どんなふうに見えるかを体に染み込ませることが大切である。

『自分の事として考える
経験を積むにはどうしたら良いか?現在の日本のセットデザイナー経験を積むにはいくつかの方法がある。

・現役のデザイナーに弟子入りして美術助手として経験を積む

僕はこの「美術助手」という言葉と「弟子入り」という言葉がすこぶる嫌いで、これに関しては次回あたりで不満をぶちまけようと思っている。w   ま、それはおいといて。一線で活躍するデザイナーの門をたたくのも選択肢の一つだ。この時に門をたたく人がどんなセットをデザインするのかを当然知ってから門をたたくべきである。デザイナー1人1人に違ったデザインセンスがある。自分の感覚に合うデザイナーにつく方が良いに決まってる。僕のところに尋ねてくる人もいるが、たまに全く僕のセットを見たことがないのに門を叩きにくる人がいる。どんなデザインをするか知らない人のところへ来て何を学ぼうというのだろう。。?

・大道具会社へ入る

テレビや舞台、イベントなどの大道具製作会社へ就職し経験を積む。ただしこれらの会社は直接的にセットデザイナーの経験をつめる場所ではない。デザイナーがプランしたセットを実際に作る側の人間として経験を積む事になる。もちろんここで基本的なセットの構造や図面の書き方、素材のことやコストの事など様々な知識を学べる。そしてその知識はデザインする上で確実に役にたつ。でもセットデザイナーを目指すのであれば期間を決めて集中して学ぶ事がおすすめだ。イベントやコンサートのデザインに興味がある人はこうゆう大きな会社に入り、その中にあるデザイン部で働くのも良いと思う。

・劇団に入る
「劇団」という事で言うならば日本で一番大きいのは劇団四季であろう。四季には「装置部」と言う部署があり、そこへ入り経験を積むというのも一つの手だ。実際四季の装置部出身のデザイナーは多い。文学座などの劇団に入りそこで経験を積む方法もある。ただ、コロナ以降劇団もだいぶ減ってしまったように感じる。

・演出部で経験する
舞台には必ず舞台監督というポジションの人がいる。その下に演出部と呼ばれるチームがいる。稽古場で演出家や役者と舞台を作り上げていくプロ集団だ。そこでは小道具などを作る人もいるし衣装の面倒を見る人もいる。劇場でセットを立て込む際にも仕込みに参加し、本番のランニングもする。一つの作品がどのように作られるかを経験するには一番の場所と言えるだろう。セットデザインとはちょっと離れるかもしれないが舞台作品の事を隅々まで経験できるのが利点だ。

そのほかにも完全に独学で経験を積む人もいる。知り合いの劇団などの仕事を受けて自分で作ってデザインをしながら経験値を上げていく。ちなみに僕は「劇団に入る」以外の全てやった。 深夜イベントの設営のバイトで学び、大道具会社の背景(絵描き部署)でバイトし、演出部で特殊小道具を作ったり本番のランニングもやった。知り合いの劇団のデザインをやり自分で作って色を塗り、仕込みから撤去までやった。そう考えるとやはり下積みは長かったなあ。
どの方法を取るにしても本人の心がけ次第だと思う。それでもデザイナーになるのを目標とするなら一線で活躍しているデザイナーの下につくのが一番良い。
この時にとても重要なポイントがある。冒頭にも書いたが、「自分の事としてやる」という事だ。 誰かデザイナーの下についている人から「私のデザインじゃないからどうすればいいかわからない」とつぶやくのをたまに耳にする事がある。正直こうゆう人はデザイナーとして自立するのは難しいと思う。誰のデザインであれ自分のことに置き換えて仕事をしなくては自立して飛び出すことはできない。昔弟子入りしている頃、師匠が読む台本を同じように読み自分もデザインを考えてみた経験がある。密かに師匠が生み出したデザインと比べてレベルの違いを痛感した。現場でも常に「自分の現場」と意識して動くように心がけた。そうすることで色々な受け答えや判断ができるようになってくる。すると周りからは「あいつに聞けばいい」と信用され、「ちょっと予算はあまりないんだけどデザインやってみる?」と声をかけてもらう事も多々あった。なんの仕事もそうだが能動的に考え動き、常に意識を高く持つ事で夢が近づいてくる。

『スキルをつける』
スキルとは技術のことである。経験とはまた別の技の事だ。自分の頭の中を形にし、相手に伝えるためにもスキルアップは必然となる。セットデザイナーに求められる主なスキルは大きく分けて下記の3つだ。

①図面のスキル。構造や素材を理解し図面化するスキル。ソフトはVector WorksやCADを使う.
②描写のスキル。相手に伝えるための方法。弊社ではVectorworks 3DとPhotoshopを併用する。ほかにSketchupやCinema4Dなど使えると便利。
③模型製作のスキル。 ベクターを使って模型図面を引き、製作する技術。手先が不器用な人は(自分、、)レーザーカッターや3Dプリンターを併用するとよい。

大体はこんな感じ。スキルは誰もが必ず上達する能力だ。やればやるほど自分に返ってくるので是非磨き続けてほしい。僕もまだまだ磨き中だ。



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