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不意に、かくてものしはべるなり〜と旅烏は呟く

こんにちは、ベルリン特派員の水谷川優子です。

ミラノから思いっきりプレッシャーとバトンが飛んできましたが、あちらの特派員と同じくnote初心者、いまひとつ使い方も流儀もわかっておらず、ちとドキドキしながら書いております。ええと、私は長らく【チェロ弾き旅烏日記】

というブログを書いているのですが(このところ開店休業状態‥)チェロを背中に旅から旅へ〜という自分をやや揶揄した「旅烏」という言葉に、誰よりも反応したのがクロアキでした。 

 思えば、それぞれ長年ヨーロッパの都市と日本を拠点にして行ったり来たり、飛行機をバス、新幹線をマイカー(死語)のように使ってあちこち演奏に出かける生活、それから「東ニ待ツオ客サマアレバ行ッテ演奏シ 西ニオモシロイ曲弾コウトサソウ人アレバ…」という感じで、呼ばれるとすぐ弾きに行ってしまう(お座敷芸者的?)ところもなんだかリンクする。オモシロイことが閃くと実行に移さずにはいられない習性も、妙にリズムがあう。似ていないようで似ているような…この2人の間には、実は古のご縁もあるのですが、それについてはまたいつか。いずれにしても、周りの音楽仲間たちが帰国したり、どこかの機関におさまったりと、ちょっとずつ落ち着いた生活をしていくのを横目に、2人ともなかなか守りに入らず(れず)、「タフだなあ〜いつまで続くかなあ」と呆れあいながらも歩みは止まりませんでした。(止まったら死ぬで〜と誰かが呪いをかけたのかもしれない)

 さてクロアキとのコンサートについて:2人のコンサートはなんだか毎回チャレンジな内容となり、一筋縄にはいかないけれど刺激的で飽きない。個人的なことをいうと、私は子どもの頃からトレースするのが大の苦手、「同じことを繰り返す」のが耐えられないのです。だから、いまでも腹筋を含む反復練習をするときには脳内のちっちゃな自分と会話して頑張ります。だから、もしも共演者が毎回、同じテンポで同じフレーズ(節回し)さらに同じ間合い、すなわち「意図的に昨日と同じように」弾こうとしたら…と想像するだけでゾッとします。これは気まぐれに勝手な解釈で弾くのとは全く違うことなのだけど、誤解を生みそうなテーマなので、これ以上は止めておきますね。ええと毎日、同じ山を同じルートで登っても、見える景色やそれを受け止める自分は変わる、だから無理に同じ景色を見つけなくて良いんだ、とそんな風に思ってくださったら嬉しい。

 と、いうことで知的でありながら即興性を備えた黒田亜樹という演奏家は私にとって有難い存在なのです。大人になって切磋琢磨できる仲間を得るのは本当に幸運なことなんですもの。例え、必ず珍道中付きとなろうとも!

さてさて、そんな2人が一緒にCDを作ろうと口に出したのは実に自然な成り行きのこと、何年前か前のことでした。それで実はレコーディングも決まって、リハーサルも行い、飛行機もとった、というタイミングで録音予定地の中央イタリアでまさかの大地震が!!それどころか録音場所のヴィラは震源地エリア…これは流石のわれわれもどうすることも出来ず。幸運なことにオーナー夫妻はご無事でしたが、スタジオごと北イタリアへ…そのプロジェクトはなんとなく流れてしまいました。それから色々あって、アメリカのレーベルでまったく違うプログラムをイタリアのアドリア海に面した街でレコーディングしたのが、ちょうど約一年前の9月。練りに練った構想にプラスして、例によって『その時、風が吹いた』的な即興がスパイスとなって面白いものになったのではないかと思います。はい、自画自賛。

 実はこのCD、本当は5月にワールドリリースの予定だったのですよね、ちょっと遠い目。思いもよらず世界中が膠着状態となったこの半年とすこし、二人も泳げない回遊魚みたいにちょっと心が疲弊していましたが、やっと今月リリースに漕ぎつけました!この間、待っていてくださった方々の存在がどれだけ支えになったことか。。。世界中に散らばる制作チームがそれぞれ大変な中で底力を出してくれたおかげでやっと出来ました。大きな声で叫びたい、みんな有難う!!

う〜ん、CDでとりあげた南米の巨匠ヴィラ=ロボスについて書けって言われたっけ。。。クロアキと私というテーマで終わってしまいそう、ごめんなさい。

さてヴィラ=ロボスの親方といえばウイスキーを片手に葉巻を煙らせるマエストロ、本人も作品も人をくったようで一筋縄にはいかない感じ。でもその中に大きくて暖かいハートの脈動が聞こえてきます。聴き手をニヒルな気持ちに斜に構えさせたと思ったら、次には宝物を見つけた子どものようにわくわくさせる、そんな音楽っていままであったかな。

 今年はずっとどの国でも誰の上にも灰色の分厚い雲が立ちこめているような、すっきりしない時期が続いています。こんな時だからこそ、音楽を楽しんで心を自由にしていただきたい、すこしでもそのお手伝いができたらと心から願っています。

 それでは、次回は黒鳥ジャーナルLive  Vol.1をお送りします!


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