少し切実な問題

ジェンダーという言葉だけれど、医学的な用語としてのジェンダーと社会学的な意味合いでのジェンダーとがあるらしい。

性同一性障害にかかる文脈では前者のジェンダーのことを指しているけれど、当事者である私はその治療の過程で、後者に近いところでの課題に遭遇することになった。

少し小難しく言うと、ジェンダーにまつわる行動様式への適応について。

ホルモン療法を開始して一ヶ月ほどが経過していた。

クリニックから言われたとおり7〜10日ごとに通院して、四回目の摂取の前に血液検査をしていて、五回目の摂取を終えた後でその結果の説明を受けた。

まず気にしていたのは副作用の方で、特に血栓症は気になっていた。
GID診断を受ける前から個人でホルモン摂取をしていて、前回の血液検査のときは血栓症の検査はしていなかったこともあって、まずはそれについて説明を求めた。

Dダイマーという指標で分かるようで、気をつけなければいけない上限値を下回っており、まったく問題はないとのことだった。
血栓症予防のためにオメガ3脂肪酸が効果があるらしいため、亜麻仁油をほぼ毎日大さじ2杯を摂取していたのだけれど、それが効果あったかもしれない?

その他の一般的な健康診断なんかで検査する生化学項目についても、全て基準値内でこちらも問題なさそうだった。

あとは、効果がちゃんと出ているかだった。
先生によると、効果はバッチリ出ているから次からは2週間ごとの摂取で充分とのことだったが、いつもどおり詳しい説明はしてもらえなかったので、あとで自分で調べることにした。

摂取しているのが女性ホルモンの一つである卵胞ホルモンであるため、何も考えずにエストラジオール(E2)の数値を見ればよいのかと思っていた。
検査結果の数値は男性の基準値内でもあり女性の基準値内でもあり、これは効果が出ているのか出ていないのか?・・の判断がつかなかった。

あれこれ調べているうちに、どうも男性ホルモン(テストステロン)の方の数値を見るべきだということがわかった。
そもそも身体的に男であるため内分泌的には卵胞ホルモンよりも男性ホルモンが優勢になっているのを、定期的な卵胞ホルモンの摂取によって男性ホルモンの分泌を抑制することでホルモンバランスを逆転させて、身体的な女性化を促すことがホルモン摂取の主目的のようだ。
逆に卵胞ホルモンは摂取直後の数値は激しく大きく、時間が経てばだんだんと下がっていくもののようだ。

テストステロンの数値は女性の基準値すら少し下回っていたので、むしろ少し効果が出すぎていたから、先生が2週間ごとに間隔を空けるという判断をしたということかな・・と理解した。

とにかく、期待どおりの効果は出ているようだったので少し安心した。

実際に胸の膨らみが少し大きくなってきていて、身体的にもちゃんと効果が出ているということに、心なしかホッとするような嬉しいような気持ちがしていた。

でも一つ問題があった。

胸の成長とあわせて乳頭も大きくなってきていたため、服の上からでも少し目立つようになってきていた。
それで、服に擦れたり、たまに何かに少し触れただけでけっこう痛い。

これ「胸ポチ」というらしい。(なぜかWikipediaにも説明がのっていた)

少し切実な問題だった。

まだ、社会生活上は完全に性別移行していたわけではなく、ブラジャーするほど胸も大きくなっていたわけではなかったが、胸ポチを隠したり保護することもそうだが、本体も何ヶ月後にどれくらいの大きさになっているのかも予測できないので、そろそろブラジャー着けることも考え始めなければいけないなと思った。

そういえば、ブラジャーって何のために着けるんだっけ?
ちゃんと理解していなかったことに気がついた。

キーワード「女はなぜブラジャーをする」で検索してみた。
調べていくうちに少し混乱した。

まず、シスジェンダーの女性はみんなブラジャーをするものだと思っていたけれど、どうもそうではないらしかった。

例えば、ドイツとかヨーロッパの幾つかの国のシス女性は、ブラジャーしない人の方が多いみたいな話だった。
普通に胸ポチしてて、周囲も特に気にしないらしい。

また日本でも、普段からブラジャーしていない人やプライベートでは近所のコンビニへちょっと出かける時くらいであればブラジャーしていない人など、一定数いるようだ。

何がなんでも着けなければいけないものでもないらしい。

ブラジャーを着けることの理由や効果については、胸ポチを隠すこともあるが、まずは胸を保護するということがあった。
大きくなると、少し走ったり動いたりすると揺れるので、そのたびに重力を受けて、胸を支えているクーパー靭帯というのが伸びたり切れたりして、胸が垂れやすくなるということらしい。(これはコワい・・)
なので、下から支えて重力の影響を受けにくくして、靭帯の保護をするために着けるものらしい。

確かに胸が大きくなってきて、少し走ったりすると胸が揺れてちょっと痛いなぁと実感があったので、これはとても腹落ちした。

あとは見た目の話で、形を整えたり、持ち上げて大きく見せたりするということがある。これも、まあもっともらしい理由だと思った。

また、利用シーンに合わせて、スポーツブラとか、ナイトブラとかあるみたい。
私の場合は、スポーツはほぼやらないので前者は不要だったが、後者については、寝る時はほぼ仰向けにならずに横向きか、たまにうつ伏せになって寝ていて、胸が押さえつけられてだいぶ痛みを感じていたりしているのもあるので、型崩れを防いだり痛みが少し緩和するなら試してみてもいいかもと思った。

元々のきっかけである胸ポチ対策としては、ブラジャーでなくともニップレスとか二重インナーとか胸ポチを目立たなくする方法はいくつかあるようだった。

せっかく手に入れた胸を大事にするために、やっぱりブラジャーした方がいいと思ったけれど、着ける・着けないの選択の自由があるということがわかったことは一つ発見だった。


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