誕生日(甘・恋愛)

今、俺は目の前にある書類を死に物狂いで片付けている。
今日は、今日だけは残業になるわけにはいかない。
1年で1度だけの大切な日に、残業なんて許されない。

必死に書類に取り組んでいると、隣の仲の良い同僚がこちらを苦笑しながら見ていた。
それに気付いて顔を上げて奴を睨んでみる。

「こわ。そんな睨むなよ」
「こっちは必死なんだ!」
「今日は誕生日だもんなあ……」

手だけは必死に動かしながら、同僚の言葉に言葉を返した。
分かってるなら笑ってるんじゃねえよ!

「オレからの祝いだ」

そう言って同僚は、俺の書類を半分程横から持っていく。

「早く終わらせて帰れ」

何処まで良い奴なんだお前は。
同僚の言葉に甘えて半分になった書類に、先程より更に必死に取り掛かる。
後2時間で終わらせてしまわなければ。

黙々と進め、やっと書類を終わらせて、急いで部長の所に持っていく。

「終わり!ました!」
「お疲れ。今日は大切な日なんだろ。上がって良いぞ」
「ありがとうございます!お先に失礼します!」

ブラック企業が溢れるこの世の中で、こんなホワイトな会社に入れた俺は幸福者だ。
本当に、部長と同僚には感謝しなくては。

同僚の優しい視線に見送られて、俺は急いで会社を出た。
ケーキ屋に向かい、予約していたタルトを受け取って、急いで電車に飛び乗る。
駅に着くまでの時間が長く感じる。

駅に着いたら徒歩15分の道を全力疾走してマンションへ。
早く。早く。

「ただいま!」
「おかえりー。早かったね?」

彼女が笑顔で迎えてくれた。
そう、今日は彼女の誕生日。
結婚して初めての彼女の誕生日だ。

「これ!ベリータルト!」
「わざわざ買ってきてくれたの?ありがとう」

柔らかな笑顔の彼女。
この笑顔が見たくて頑張ったんだ。

「誕生日おめでとう!」
「ふふ、ありがとう」
「これ。前に欲しがってたネックレス」
「覚えててくれたの?」

目を輝かせ嬉しそうに笑う彼女。
ああ、本当に愛しい。

「当たり前!」
「本当に、ありがとう。こんな嬉しい誕生日は生まれて初めてだよ」

俺はそんな嬉しい言葉は生まれて初めてだ。

「私、幸せだよ」
「俺もだよ」

君の大切な日を祝えるなんて幸せだ。
これから先も何年も。
ずっと隣で祝わせて欲しいな。

誕生日
(生まれて来てくれてありがとう。)

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