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#2.22 パパ活編:最強女子大生、咲良さん③──おねだり名人芸

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◎物語の説明とあらすじ
妻とはセックスレス、ここ数年は婚外恋愛の出会いもない40男、浦野けいすけ。2児のパパ。風俗以外でセックスできない「性の砂漠」に苦しむなか、昨今の自粛ストレスが加わり、「今までしたことのない経験がしたい」と、パパ活に手を染める。そんなアラフォー男の性と愛のサバイバル物語。
すでにパパ活アプリをはじめて10日。女性たちからのたくさんのオファーで気が大きくなるなか、「パパ活の猛者」を思わせる大学生、咲良さんとの顔合わせに臨む。会ってみると、当初に警戒したような感じではなく、気さくで親しみやすい女性だったが、ついに彼女の本領が発揮される──。


◆油断と欲望


アナログカフェトーキョーに来て、1時間が過ぎようとしていた。
彼女との軽妙なやりとりが心地よい。

僕は、会話中に女性の体はできるだけ見ないようにしているのだが、ふと、彼女の胸元に目が行った

(やはり、でかい──)

こんな巨乳の女性は、めったにお目にかかれるものではない。
しかも、彼女は色白で、雪のような肌をしており、つい脱いだ彼女の姿を想像してしまう。

彼女もこの間、とても楽しそうである。

今日の「顔合わせ」は成功で、この先、定期的に会うことになるだろう。
彼女のような女性が、「大人なし」とは思えなかった。
「最初から大人はお断りします」と、プロフィールには書いてあったが、ここで押すのもありではないか。時間は、まだ9時前である──。


「大人とかって……、ありなのかな?」

こんな言葉が、つい口から出てしまった。
我ながら、ストレート過ぎて芸がないが、言ってしまったものは仕方がない。僕は、余裕ぶった目を、彼女に向けてみた。

「え……、今日?」

「できたら……」

彼女は、少し考えて、こう言った。

「いいですよ。その前に、もう一杯、もらってもいいですか」

(やったー!!!! 言ってみるもんだ!!!)

僕は、内心小躍りしながらも、表面では余裕を繕う。

「じゃ、僕ももらおうかな」

また少し談笑したあと、彼女がテーブルに置いたスマホに目をやり、「あっ!」と小さく叫んだ。

「レポートの提出期限、明日だ!」

彼女が、急に焦った顔をしはじめる。

「ごめんなさい、今日は難しいかもしれません。レポート書かなきゃ。次回でもいいですか?」

と、困り顔で、うるんだ瞳を僕に向ける。

ここまで来て、焦ることはない。大人な男は、そういうもんだ。

巨乳の胸元



◆蜘蛛の巣


「もちろん、今度でいいよ。でもレポート、今からで大丈夫なの?」

「それが、困ったことがあって……、昨日ちょうどノートパソコンが壊れたんです。モニターがほとんど映らないの。明日、朝イチで、新しいの買うか、新しいモニターだけでも手に入れないと……。データもそのパソコンに入ってるんですよね……」

そう言って、彼女はスマホで、画面の大半が真っ黒になったPCのモニター画面の写真を見せてくれた。

「これじゃあ、何も作業できないね……。これは大変。朝イチで、間に合うの?」

「レポートは、もう半分以上できてるので、朝イチで買えれば……。でも……、お金がないんです……

そう言って、彼女は上目遣いで、僕を見つめた。いや、見つめたというほど、露骨ではない。困った顔を僕に向けた、というのが正確だが、瞳は確実に僕をとらえていた。

「うーん……」

「このレポート出さないと、必修落としちゃうんです。困ったな……」

僕は、迷っていた。流れからすれば、僕がいくらか出すという流れになっている。彼女は、あからさまにおねだりをしている訳では全くなかった。しかし、全身で「助けてほしい」と訴えている。彼女の曇った顔、困る様子とその仕草は、妖しい可憐さと色気を発して、僕を絡めとる。

ここで、「それは大変だね、頑張って」と突き放せる男が、いるだろうか。
しかも、彼女は次回、体を合わせるかもしれない女性である。

僕は迷った挙句、「ちょっとなら……」と言ってしまった。
そのあとの彼女の「芸」は、絶妙だった。

はむねずこ1


◆非情のライセンス


「本当ですか!」

急に彼女の顔は晴れ渡り、愛くるしい顔を僕に向ける。

そして、彼女は待つ。僕が出すのは、いくらなのかを ──。

「うーん、モニターだけだったら、3万円ぐらいで買えるだろうから、3万円で大丈夫そう?」

「ちょっとそれだと心配な気が……、あ、次回の分の前払いってことで、5万円いただけると……うれしいですけど、どうですか?」

次回の分とは「大人の分」ということである。
彼女は、今度は悪戯っぽい表情をして、僕を拝む仕草をする。

「うーん、分かった! はい」

僕は、財布から5万円を出して、彼女に渡した。
顔合わせのお手当が1万円だから、今日の彼女の上がりは6万円ということになる。

もう、これは「芸」だ。しかも、最高のおねだり「芸」。
華の東京で、華麗な大学生活を送ると、ここまで芸が磨かれるのか──。
寄席で名人の古典落語を聞いて、感服したような気分になっていた。
彼女のおねだりから、逃れられる男は、果たしているのだろうか。

この話には、オチがつく。

彼女とLINEを交換し、「次はカウンターのお寿司でも」と別れたのだが、その後、彼女にLINEを送っても、一向に既読はつかなかった。2週間後、もう一度、送ってみたが、それも同じだった。別れた後に、すぐにブロックされたのかもしれない。

話しているときには、彼女も楽しそうで、次回がないとは全く思わなかった。だから、「大人」と言った瞬間に、今日、お金をできるだけ取っておくという方針に切り替えたのかもしれない。

いや、しかし、あの芝居は、その場ですぐできるものではないから、前々から準備してあったのか。しかも、真っ黒になったPCのモニターの写真まで用意して……。

謎は、深まるばかりである。

パパ活を始めて、10日。
すっかり調子に乗っていた僕に、冷や水を浴びせる出来事だった。

やはり、女性は分からない。

ビル街を見上げる_イラストAC

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※写真はイラストACの無料素材、女性のイラストは「はむねずこ」さんの作品です。

ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛