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無口な生徒とのコミュニケーション

私は塾講師のアルバイトをしている。生徒とコミュニケーションを取ることは新鮮で、何かしら影響を受けることも多々あり、それが塾講師アルバイトのやりがいの一つと考える。

今回は、とある無口な生徒のお話。

彼は高1の男の子で、最近入塾してきた。担当初日、彼は一言も喋らなかった。

喋りはしないが頷いたり、首を振ったりはしてくれるためなんとかなけなしのコミュニケーションが取れた。時には、ただ僕を見つめて不敵な笑みを浮かべることがあり、何を伝えたいのかわからず、少し怖いなと思っていた。

何回か授業を重ねると、不安そうで無表情な彼に笑顔が見られるようになった。笑いのツボはわからないが、僕の授業で笑ってくれてすごく嬉しかった。

でも、僕は彼の声を聞いたことがない。

そんなある日、いつものように数学の解説をしていると、いつもは熱心に頷いている彼が、目の前にあるホワイトボードに直方体を何個も書いた。

そしてその上に「大都会」と書いてニヤニヤしながらこちらを見てきた。正直、意味不明である。

僕は「大都会wwwどこの話?東京?」と言った。

すると彼は、某という字を付け加え、「某大都会」と書き直した。

更に意味が分からなくなった。

意味が分からなくて僕は素で笑ってしまった。彼はそれを見て調子に乗ったようにホワイトボードになにやら色々書き始めた。

I want to do math.

彼は英語でそう書いた。僕はすかさず

「数学やりたい?今やってるやん!笑笑

なに、英語が好きなの?」と尋ねた。

彼は中国で11年間育って、日本には5年前に来たんだと英語で書いた。

ここで僕は彼の素性を初めて知った。今までほとんどロクなコミュニケーションも取れず、何者かわからないままだった。

彼は生粋の帰国子女だったのだ。

頭の中で色々繋がった気がした。

日本語を理解はしているようだが、喋らないのか、なにも話さない。

その後も英語による筆談は続いた。自己紹介のようなものをされて、僕の血液型は何なのかとか、好きなアーティストは誰かとか色々話した。

その後、数学の解説を再開したが、彼はまだ何か話したいことがあるようでソワソワしていた。

その日以降、今も彼の声は聞いたことないが、彼はホワイトボードに字を書き僕とコミュニケーションをとっている。



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