見出し画像

私と彼とリリスクと

 私たちの暮らしの中では、往往にしてその場において馴染むという行動があると思っております。例えば、葬式ならば喪服に身を包み、悲しいような表情をしつつ黙々と式が終わるのを待ちます。それがたとえ一度も会ったことのないような親戚だろうと変わりはしません。では、アイドルのライブ所謂、「現場」ならばどうでしょう。物販のT シャツに首にはマフラータオル、手にはペンライト、叫ぶコール。そんなイメージでしょう。実際そうです。しかし、私は例外を二つほど観たことがあります。
 
 一つは『坂道グループ合同研究生ツアー』です。「坂道グループなのに!?」とお思いの人もいるでしょうが、実際例外に該当した人物は私の観測上では一人おりました。まあ、私と一緒に行った人なんですけどね。彼はアイドル現場は初めてではありますがTシャツはおろか、ペンライトすら持っていないのです。まあここまでならば、全然他にもいるでしょう。しかしこの男は曲がかかるや否や、ポケットに手を突っ込み、縦ノリをし始めたのです。なんならちょっと斜め下も向いている感じで。クラブかここはと。確かに、Zepp divercity tokyoではありますが、坂道という超ビッグネームのドがつくほどの王道アイドル現場で縦ノリはないでしょう。セトリ的にも1〜3曲目が「制服のマネキン」「サイレントマジョリティー」「キュン」となかなかにブラックミュージックによってはおりますがそれを持ってしても、縦ノリをさせないのが坂道アイドルなのです。後にも先にも、坂道のライブで2時間ぶっ通しで縦ノリし続けたのは彼が最後でしょう。

 そして二つ目。こちらがメインです。それは、清純派ヒップホップアイドルユニット『lyrical school』です。私が今まで見てきたアイドルというのは、ひらひらの可愛いスカートの衣装に揃ったダンスというのが定石でした。しかしこの『lyrical school』はストリートファッションに身を包み、ダンスというよりは曲に合わせてその場で踊っているような感じ。それはライブでも変わらずに、ファンの人も曲に合わせて体を動かします。まるで、私の友人の『彼』のように。「アイドル」と「ヒップホップ」という中々に珍しい組み合わせではありますが、彼女たちはアイドルファンからもヒップホップファンからも人気を博しております。やはりそれらは彼女ら自身のラップの実力、そして楽曲のレベルの高さが、そしていい意味でのアイドルという敷居の低さこの3つが要因だと考えられます。実際、私もラップをきちんと聞いたのは『lyrical school』が初めてでした。ラップ特有のメッセージ感の強さというのがとても私には苦手で、正直嫌いなジャンルでさえありました。あと、嫌いな奴が軒並み『フリースタイルダンジョン』を見ていたというのも一つです。聞いていたラップといえば小沢健二feat.スチャダラパーの『今夜はブギーバック』くらいのものでした。
 つまり、そんなラップが嫌いや苦手という人でも聴きやすいのがこの『lyrical school』なのです。まず、メンバーが若い女の子で怖くない。基本的に私のような偏見に人間の皮を被せたような人間にとって、ラッパーというのは怖い人種なのです。怖くないのはMC.wakaくらいです。そまた、何より楽曲の聴きやすさが他のラップと比べて頭一つ抜けていることです。『lyrical school』のラップはメッセージを伝える手段としてのラップではなく、音楽として口当たりのよさや、聞いたときの気持ちよさなどを追求していった結果のラップになったようにも思えます。なので、いい意味で作詞者の顔が出てこず、アイドルとしての一面を立てているという完璧な「ヒップホップ」と「アイドル」の共存関係がなされているのです。また、『lyrical school』はこの中に「カルチャー」というものを混ぜることによって完成します。80年代や90年代の音楽や映画、芸能などを歌詞の要素として大きく入れており、それで韻を踏むという気持ちよさと元ネタを知っているんだぜというオタク的優越感。実際にアルバム「WORLD’S END」に収録されている「常夏リターン」という曲では、歌詞に様々な小ネタが詰め込まれており、さらに、スチャダラパーが作詞をされているという『今夜はブギーバック』しか聞いてこなかった私にとって運命とも思える出会いもありました。
 
 「アイドル」と「ヒップホップ」そして「カルチャー」この3つが複雑怪奇に絡み合い、ターゲット層がきちんといるわけでもなく、ただ好きなものが詰まりに詰まったもしかしたら、「カルチャー」の面ではメンバーでさえ、置いてけぼりになっているかもしれないというとても稀有なアイドルグループ『lyrical school』。三つのうちどれか一つでもお好きなものがあれば是非、聞いてみていただきたいです。そして、現場に足を運んだ際は『彼』を見習って縦ノリを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?