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賃貸も自治の時代?「FUBU」精神で躍進を続けるアメリカ南部のニッチな不動産事情

最近の#wokeな有色人種(POC=ピーポーオブカラー、と略されること多し)の若者達と話しててビンビン感じるのは、わざわざ自分たちを理解しようともしないようなレイシストなビジネスにくれてやるカネはビタ一文ないし、団体として行動することで「不特定多数のパワー」(主に不買運動などで如実に効果が現れる)を発揮するのだ、という団結感。噂によると、初の黒人オーナーによるワイナリーがナパに登場したらしい。こんど西海岸に行ったら表敬訪問+売上に貢献しに行こうか、って話になってるところ。

そのことを知ったのとほぼ同時期に「ボルチモアの若い黒人夫婦が2012年に初めて1万ドル(日本円で100万円くらい)の頭金で不動産投資をし、そこからたったの7年で20戸以上の物件を抱えるビジネスオーナーとなり、さらに今やブロック一体を所有するまでのスピード成長を達成中」というニュースを小耳に挟んだ。その若夫婦の赤ちゃんはまだよちよち歩き。もともとの地価が安かったんだろうとはいえ、すごい。

さらに畳み掛けるように、昔マライアその他アーティストのNY取材の際、レーベルに提供するオフィシャル映像(「めざましTV」なんかでアーティストがカメラ目線で『軽部サーン!』とか言うやつなどなど)の撮影クルーとして一緒に組んでいた、義妹の当時の彼氏から旦那のところに連絡があったのが昨夜。

彼は元々ノースキャロライナ出身で、ドキュメンタリーの監督を目指して若い頃にNYに出てきた男なのだが、90年代から00年代初期までは、黄金期のNYヒップホップの数々の記録映像を撮りまくり、2パックやビギーが死んだ時には未公開映像ばかりを集めたコンピレーションを持ち歩き、BETやMTVに売り込みをしていたという「目の付け所がシャープ」なハスラーだった。

一時期はこの家で義妹と同棲していたこともあったので、00年代前半頃にはよく「これからはこのビジネスや!」みたいな妄想セッションで盛り上がっていたものだが、当時彼がいきなり「地元ノースキャロライナに投資しようと思うんだけど、一緒にやらないか」と持ちかけてきた時、土地勘がないと不動産投資は怖い(=故にBKにこだわった)、という理由で断ったことがある。

ところがどっこい。その後彼と義妹が別れてしまい、我々も子育てやらなんやらで忙しかったので彼とは疎遠になってしまっていたのだが、10数年を経た今知ったところによると、彼はあのまま自力で資本金を貯め(彼が撮影した未公開映像をたくさんフィーチャーしたVH1のビギー特番のおかげでがっつり儲けたそうだ!)、誰も見向きもしなかったノースキャロライナの古いビルを予定通り破格で買い、15万ドル(1500万円)の融資の範囲内でできるだけの修繕を加え、できるだけたくさんのアパートを作ったのだそうだ。

ここまではまぁ、不動産ハッスル話によくある感じ。だけど目の付け所がシャープなハスラーはやっぱり一筋縄ではいかないのよね。

彼は、それまで典型的な不動産会社では相手にしてもらえなかった経験を持つ黒人ファミリーや若者達を主な顧客とし、彼らに率先して物件を貸し出すというビジネスを始め、それに感激した人々の口コミであっという間に地元で一番人気の不動産会社となっただけではなく、その影響力と反響の大きさから、今や地元の議員にまで選出されていた、という驚きのオチだった。住宅だけでなく、マイノリティがトップを勤めるスタートアップなどにも積極的に融資しているとのこと。義妹、逃した魚はデカかったなー。

住居を賃貸する際のスクリーニングでの不公平や不当な扱いを受けていたり、クレジットスコアや職歴がどうしても見劣りしてしまう人々はたくさんいるけれど、既存のビジネスで彼らを主な顧客としよう、という発想はなかったと思う。でも、貸してもらえなければ履歴もつかないし、信用を積んでいくための一歩ですら踏み出す機会を逃すことになってしまうのだ。

そこに「目をつけた」、というよりも、自身もマイノリティであるという当事者の彼らにしてみれば「自分の想いや才能を発揮しながら同胞をサポートしつつ、それでいて決してボランティアには終わらせず、きちんとした経済として成り立たせるというビジネスモデルの提案」、なのだ。素晴らしいじゃないか。

この「マイノリティによるマイノリティのための不動産マーケット」が、実は各地で盛り上がっているらしい。あのTIも、生まれ育ったエリアの物件を買い上げ、彼が思うところの開発事業を始めようとしているという話だ。故郷に錦を飾るのが大好きなラッパー(RIP NIPSEY!)がいかにもやりそうなことだけど、どうせなら業界内で「故郷にどんなポジティブなインパクトが残せたか」競争に発展してくれりゃいいのに。

これ、すごく興味ある。そもそも、もう高級化に歯止めのきかなくなったBKに投資する予定もなければそんな資金もない。だけど、まだびっくりするような破格で売り出されている物件が地方にはある。ノースキャロライナの彼が連絡してきたのも、次に考えている計画に乗らないか、というお誘いだったようだし。旦那も定期的に「早期退職した後の俺」妄想に励んでいるようだが、この名案にはかなり鼻息が荒い。近々夫婦で彼のプロジェクトを視察しに行こうではないか!とにわかに盛り上がっております。

あのFUBU(For Us By Us)ブランドの創始者も、今では素人のビジネスアイデアを審査し、気に入ったビジネスがあればそこに審査員として集められた投資家ジャッジらが自己資金を投じて支援するというNBCの大人気TV番組『Shark Tank』のパネリストになった。差別を受けながらも頑張って手にした給料を使うなら、それがどんなビジネスオーナーのどんな活動をサポートするのか/しないのか、という選択を自らの手に取り戻したい、という当たり前の要求を満たすあのFUBU精神は、(ブランド自体は局地的人気だけで終わってしまったが)実は別のところでまた発揮される場所を待っていただけだったのかもしれないぞ。FUBU不動産。FUBU都市開発。

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