僕はブラジリアン柔術をやってます。

僕はブラジリアン柔術をやってます。
僕だけがブラジリアン柔術をやってます。
最初はお父さんに無理やり連れていかれました。
もう4年は通ってます。
中学校の部活と違って、先輩、後輩の嫌な上下関係もないです。
指導も素人が教えてないしね。
ブラジリアン柔術は楽しいです。

格闘技を勧めてくれたお父さんは試合の観戦が大好きです。
先日もテレビに向かって一人で喋ってました。
ほらほら後ろ取られるよ。ほらバックからチョークきた。
１発くらいパンチ出せよな〜。

タオルじゃなくて、ビール缶を片手にセコンドをしてます。
チョークを簡単にやられちゃってダメだな〜。
やっぱりMMAは打撃の前に寝技やらないとな。
お前はその点安心しとけよ。
今、柔術やってるからな。
こちらを見て上機嫌になるお父さん。

お父さんは僕をUFCの世界王者にするのが夢です。
いつも国内のMMAはレベル低い。UFCが最強と言っています。

お父さんは普段の練習も見に来てくれます。
自分はやらないけど横からアドバイスをたくさんしてくれます。
格闘技は未経験でも教えてくれます。
たまに的外れなアドバイスをされて
他の子に笑われちゃうのはいやだけど。

いつも練習の帰り道の時に僕に夢を語ります。
中学までは寝技をして高校からはレスリングと打撃だな〜。
高校卒業くらいにはプロMMAになるんだよ。で国内は無敗でUFCに参戦。
SAPIXの代わりに格闘技ジムへ通わせて夢を語るお父さん。
高卒の親が子供は最低MARCHにって感じで
運動経験のないお父さんも僕を最低でもUFC選手を望んでいます。

僕はブラジリアン柔術の試合にも出てます。
お父さんは画面越しではなくて、リアルにセコンドができて嬉しそうです。
この前の試合では、僕は下から足をきかせて相手のパスを防いでました。
お父さんの声が聞こえました。
「えびしろ！えびしろ！がんばれ！動け！」
お父さんが前に覚えた寝技の攻防のえびしろってアドバイス。

指示通り僕はえびをしました。
相手を止めていた足のフレームを解除してえびをしました。
試合に勝つよりお父さんの指示を聞かなきゃって体が反応してしまったのです。
案の定、相手に押さえ込まれて負けました。
お父さんの期待に応えられませんでした。


負けメダルを貰う表彰式が終わったあと
気分転換に1人で隣の公園を眺めていました。
お父さんとキャチボールをしている小さい子たち。
僕もあれくらい小さい頃はお父さんと楽しく遊んでました。

今は2人で僕がプロの総合格闘家になる夢を追いかけています。
お父さんに、なんでお父さんは柔術やらないの？って聞いたら
俺はもう若くない。やりたくてもできないんだよ。と言われました。
今も会場ではお父さんより年上の人達が試合してるけどね。

お父さんの夢は僕の夢
お父さんの夢が僕の夢

井上尚弥みたいになれるかな
那須川天心みたいになれるかな
総合格闘技でプロになれなかったらどうしよう

「おーい、そろそろ無差別級はじまるぞ戻ってこい。次は負けるなよ。」
父が僕を呼ぶ声が公園に響いていました。