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ノルウェーでの9週間実習指導体験 ~第2・3週~患者さんを受け持ち、トライ&エラーを繰り返す週

ノルウェーの理学療法学科では、最終年度に3か月間の実習期間があります。私も現在の職場である回復期リハビリ施設で4〜5人の実習生を担当した経験があります。ここでは、ノルウェーでの理学療法実習指導の体験を数回に分けて紹介します。

前回の記事はこちら → [第1週: 「はじめまして」の週]

第2・3週: 患者さんを受け持ち、トライ&エラーを繰り返す週

実際に担当患者さんを持つ

第1週目で職場の雰囲気に慣れてもらった後、第2週目からは実際に患者さんを受け持ってもらいます。患者さんの疾患はさまざまなので、学生の興味や過去の経験を参考にして担当を決めます。例えば、スポーツ理学療法に興味がある学生には、大腿骨頚部骨折の患者さんを、心臓・呼吸リハビリテーションに興味がある学生には慢性閉塞性肺疾患の患者さんを担当してもらいます。

定期ミーティングに参加

  • ケアワーカーさん・患者さんやご家族とのミーティング

  • 多職種連携ミーティング

これらのミーティングに参加することで、学生は理学療法の専門知識だけではなく、実際の現場でのコミュニケーションや評価方法、患者さんやご家族の希望を明確にしていきます。この週で学生さんはよく、「あ、教科書通りに物事って進まないんだ・・・」と気づき始めることが多いです。理学療法の専門知識だけでは患者さんへのリハビリ・QOL向上への貢献は出来ないという認識もつくようになります。

同僚セラピストの見学・意見交換

学生には、私以外のセラピストのリハ現場を見学し、意見交換を通じて他の視点も学んでもらいます。これにより、私の言うことがすべて正解ではないということを理解してもらいます。

指導方法やフィードバックの確認・修正

第3週目に入ると、学生の得意分野や力を入れるべき分野が明確になってきます。そのため、フィードバックの内容もより具体的になっていきます。

実習中に学生がつまづく典型的なポイント

多くの学生が「なぜその検査をするのか?」や「なぜその運動療法をするのか?」といった理由づけで悩みます。その場合は「なぜそう考えるか言語化できる?」と学生に、何をどう改善したらよいのか、カリキュラムにそって、分かりやすく伝えるようにしています。オススメの方法はまずはリスト化すること。

回復期リハ転院理由のサマリー例

患者: XX歳の男性/女性で、XX年XX月XX日にXXXのために回復期リハ施設に転院。レントゲン/MRI/CTの結果、XXXXXXXが判明し、XX年XX月XX日に手術/保守的治療を行いました。XX年XX月XX日に回復期リハ施設に転院し、痛みの緩和、モビライゼーション、リハビリを継続しています。

過去/現在の病歴: 重要な病歴のみを簡潔に記載します。

入院前の患者さんの状態:

  • 家族構成: 既婚/未婚/未亡人。XX人の子供とXXX人の孫がいる/子供はいない。

  • 職歴: 以前はXXXとして働いていた。

  • 趣味: XXXXXが好き。

  • 居住状況: 一人暮らし/XXと同居。アパート/連棟住宅/一戸建てのXX階に住んでいる(エレベーターの有無を記載)。

  • バリアフリー状況: 浴室の入り口に段差がある/段差がない。安全装置/トイレ椅子/介護ベッド/立ち上がり機能付きの椅子がある。

  • 歩行補助具の使用状況: 室内では補助具を使用しない/使用する。外出時にはXXXを使用。

  • 在宅介護サービスの利用状況: 1日XX回の訪問介護を受けている(介護内容を記載)。/以前は公的な介護サービスを利用していない。

  • リハビリ状況: 週XX回の地域理学療法士とのトレーニングを受けている/日常生活リハビリを受けている。

現在服用中の薬: トレーニング中の副作用に配慮するための記載。

患者の目標: 患者が何を達成したいのか(必ず患者に確認する)。

例:

  • 足の筋力をつけたい

  • ベッドでの移動をもっと自立したい

  • 適切な歩行補助具を使って安全に歩きたい

  • トイレまで自分で歩きたい

  • 室内を安全に移動したい

目標の達成によって何をしたいのか

  • 自宅に戻りたい

  • 家族と一緒に別荘に行きたい

  • XXXに住む家族を訪ねたい

  • デイセンターでの社交活動に参加したい

目標は現実的に達成可能であることに注意

なぜ今それができないのか?

疾患名・診断だけでは理由づけは不十分。「脳卒中/骨折/癌だから」という理由では説明が不十分です。例:患者の目標は歩行器で安全に歩くことですが、脳卒中後の左側麻痺により歩行機能が低下しているため現在は達成できません。この辺までリスト化できたら、ほとんどの学生はあとはわりとスムーズに次のステップへ勧めます。上記の例で言えば、そこから歩行分析に進んで、筋力テストやROM検査などをしたり。

あるある談
学生が陥りやすいパターンは、THE深く考えすぎて関係ない方向へいってしまう!です。スーパーバイザーとして気を付けていることは、言語化することをあらゆる方法で手伝うことです。ほとんどの学生は頭ではなんとなく理解できているけど言語化できず、不安になっておどおどしてしまったり、これは正解なのかな?バイザーが求める正解ってなに?と考え込んでしまいがち。必要なのは、とにかく繰り返しこの作業を色んな患者さんのタイプでトライ・エラーをさせて、学生の経験値もあげていくということです。実習で大切なことは、今まで大学で学んだことを生かして、≪学校≫ではなく、≪職場≫という環境の中で自分で考える力を鍛え議論ができる状態にしとにかく言語化させていくこと。自分の頭の中で分かっているだけでは意味はないですからね。頭が混乱しているなぁと感じたら、「なぜ患者さんは家に帰れないと思う?」「患者さんの目標はなに?」と専門的なことは話さずとにかく基礎に戻ります。

スーパーバイザーの私ができること・やったこと
私が実践していたのは、実際に私が同僚(例えば同じチームの医師)のところへいって、患者さんの件で議論したいことがあるので、とそこで上記のリストを使って話し合う姿を実際に学生に見てもらうことをしています。心にとめていることは、分かりやすく、堅苦しいPTのみしか分からない用語はなるべく使わないこと。使ったとしても、それがどういう意味なのかの説明ができる状態に特訓すること。回復期リハでは多職種連携が欠かせないため、PT専門用語を達者に使えたとしても、周りの人が理解できないため、患者さんのQOL向上にはつながらないことがほとんどです。この作業、じつはとっても大事で、この作業を繰り返していくと自分自身の頭の中もスッキリしていきます。おすすめです!

最後に

第2・3週目は、患者さんを受け持ち、トライ&エラーを繰り返しながら学ぶ週です。担当する患者さんの数は学生のレベルに合わせて調整します。第4週目は中間実技試験の週です。次回の記事でその内容について紹介します。

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