【ボクシングコラム2023-vol.10】1日も早くあの熱気を

 まだまだ予断を許さぬものの、スポーツ界はすでに「コロナ後」に向けて動き出している。サッカーJリーグがいち早く「スタジアムでの声出し応援」解禁を決断すると、プロ野球界もそれにならうかのように各球団がその方向性を打ち出し始めた。

 中日ドラゴンズファンの私は、毎年、野球場へと足を運ぶ。普段はほとんど飲まない酒も、球場では進んで飲む。(節度を持って)酔いながら大声を出して気合をかけたり応援したりする。ストレス発散。こんなに心地よいことはない。

 だが、コロナ禍になってマスク着用が義務付けられた上、声出し禁止、拍手のみの応援となったここ数年、やっぱりとても物足りなさを感じてきた。目の前で彼らが躍動しているのに、おとなしく見守ることしかできないからだ。そりゃあ目いっぱいの拍手で讃えたりはできるけど、素晴らしいプレーを目にしても、思わず出てしまう声すら抑えなければならないのだから。それだったら、テレビ観戦にして、家で大声を出した方がマシかもしれない。

 ボクシングも同じことが言えるだろう。見ることを職業にした私は、もちろん声を出すことはできない(中には応援しちゃってる人もいるけどそれはアカンて)が、それでも思わず反射的に呻いてしまうようなことはある。けれども、それすらも我慢しなければならない。
 近年は昔のようなヤジこそ飛ばせなくなった(野球もサッカーも、全体的にそういう世の中になった)が、節度ある応援、叱咤激励すらできない観客のみなさんのフラストレーションたるや、である。後援会員や友だち、推している選手ならいざ知らず、そうじゃないニュートラルなファン、純粋なボクシングファンが思わず惹き込まれて声を出してしまう。これもまた、ボクシング観戦の大きな醍醐味のはずなのに。

 テレビやネット配信は様々な技術を駆使して細部を伝えてくれる。だが、現場、生でしか味わえない熱気、雰囲気というものは間違いなく存在する。それは決してブラウン管やPC、ましてやスマートフォン観戦では体感できない。けれども“コロナ禍”観戦では、本来ボクシングが、スポーツが持つ本当のライブ感が半減してしまった。以前、『ボクシング・マガジン』の「I THINK」で宮崎正博さんが書いていたとおり、「コロナ禍以降、軒並み集客に苦戦しているのは、ここにも一因がある」と私も思う。

 JBC(日本ボクシングコミッション)、JPBA(日本プロボクシング協会)ももちろん「コロナ以前」の形に向けて、日々話し合い、検討を繰り返している。ボクシングの場合、サッカーや野球のスタジアムのようにオープンエアではない(ドーム球場もあるけれど)、というところもネックなのだろう。後楽園ホールをはじめ、会場側の主張もあるはずで、一筋縄ではいかないのかもしれない。

 海外の会場はとうにマスク着用もやめ、大いに歓声を上げている。すっかり“以前”を取り戻している。現地にいるのとでは比べるべくもないが、それでも“熱さ”はビシビシと伝わってくる。羨ましいことこの上ない。

 あの雰囲気の中に身を置きたい。選手たちに大歓声を受けてほしい。選手も観客も、ここ数年味わえなかった醍醐味、力をきっと得られるはずである。

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