見出し画像

【ボクシング】2・28『PROBOX TV』(アメリカ・プラントシティ)3試合批評&考察


☆2月28日(日本時間29日)/アメリカ・フロリダ州プラントシティ/ホワイトサンズ・イベンツセンター

マドゥエニョの“ゆったリズム”に合わせたポールド初黒星

WBAコンチネンタル・ノースアメリカ・ライト級王座決定戦10回戦
○ミゲール・マドゥエニョ(25歳、メキシコ=61.19kg)
●ジャスティン・ポールド(29歳、アメリカ=61.19kg)

※使用グローブ=REYES黒(マドゥエニョ)、EVERLAST黒(ポールド)
判定2-1(95対94、94対95、97対92)

 正中線を突くように、これ以上ないほどまっすぐにジャブ、右ストレートを打ち込む先制攻撃を仕掛けたマドゥエニョ。特に上から打ち下ろす形の右に対し、ポールドはなかなかつかみきれていない様子だった。

 マドゥエニョは、体全体の動きがゆるやかな、メキシカン特有のリズムを持つ選手。打ち込むコンビネーションは決してコンパクトではないが、体の動きに対して速く感じ、このギャップに相手は戸惑わされる。ポールドは実際にそういうラウンドを重ね、どうしても受け身、後手に回ってしまった。
 ポールドは瞬間的にカウンターを合わせたり、ハンドスピードを生かしたヒットを奪ったりするなど、要所でポイントを奪えていると考えていたのだろうが、中盤まではマドゥエニョの迫力を相殺、もしくはそれ以上を示せているとは思えなかった。5ラウンドにマドゥエニョはラビットパンチでクリストファー・ヤング・レフェリーに即減点を喰らった(そんなにひどいものとは思えなかった)が、流れに影響するような-1には見えなかった。

 よく言えば冷静、悪く言えばおとなしすぎる。そんなポールドがようやく元気を見せたのは8ラウンドだった。接近戦で肩をうまく使ってマドゥエニョを押し、積極的な攻撃を仕掛けていく。肢の安定感に乏しいマドゥエニョは、フラつきを見せながらボディブローを返して反撃するものの、ポールドの巧みな右ショートアッパーが目立った。

 マドゥエニョは、前戦でスティーブ・クラゲット(カナダ)のテンポの速い攻撃に完敗したが、中盤までの“ゆったリズム”にポールドが付き合ってくれたおかげで勝利を得ることができたと思う。

マドゥエニョ=33戦31勝(28KO)2敗
ポールド=20戦17勝(8KO)2敗1無効試合

惜敗のエスクデロ。相手の“気”を抜く技術は必見

ライトヘビー級10回戦
○ナジー・ロペス(24歳、プエルトリコ=79.45kg)
●マルコス・エスクデロ(30歳、アルゼンチン=79.26kg)

※使用グローブ=RIVAL桃・白(ロペス)、RIVAL白(エスクデロ)
判定2-0(95対95、97対93、99対91)

 ジャブが速く、右ストレートがキレ、瞬間スピードでゾクッとさせるロペスは、フェリックス・トリニダードををほんの少し思い出させるセンスあふれる若者だ。しかし、対するエスクデロがこれまた実に味のあるボクシングをした。ロペスのスピードに決して気後れしないのだ。
 左腕を上下動させ、同時に上体も上下させる動きが柔らかく、フェイントになっているのはもちろんのこと、自身のリズムを構築する意味合いも大きい。そして、ロペスの“気”を抜く効果が絶大だった。前に出てくるのか来ないのか、パンチを打つのか打たないのか、対する構えを常にはぐらかされてしまうのだ。
 単発ブローでは才気あふれるロペスが優っていたが、エスクデロはこれをボディワークでかわしつつ、いつの間にか射程距離にぬるりと入り、右ボディストレートを入れるなめらかなコンビネーションを決めていった。試合前半は特にエスクデロの良さが光った。

 しかし、エスクデロが疲れを見せ始めた後半は、ロペスが徐々に盛り返しを見せた。それを形成したのはやはりジャブだった。しっかりとしたディフェンス技術、ガード力を備えるエスクデロだったが、このジャブだけはスタート時からもらっていた。ロペスはエスクデロの高いガード間を突き通すジャブの上手さを持っていた。やはり「リードブローは身を助ける」のだ。

 会場のファン同様、エスクデロの健闘、渋さに目を瞠らされたが、若干ロペスが上回ったか、という印象だった。フルマークに近い採点をしたジャッジはどの試合を見ていたのだろう。
 右目下をどす黒く腫らし、消沈ムードのロペスを、同じプエルトリコ系アメリカ人で、数日前に試合を終えたばかりのエドガー・ベルランガが労っていた。ロペスにとってはボクシングの奥深さを知る、良いきっかけになったことだろう(そうせねばならない)。
 エスクデロの“相手の気を抜く”テクニックはとても参考になる。YouTubeでぜひご覧いただきたい。

ロペス=10戦10勝(8KO)
エスクデロ=17戦14勝(12KO)3敗

ストロングポイントを明確に抱き、打ち出す大切さを考える

スーパーライト級8回戦
○センバター・アーデンバット(27歳、モンゴル=61.56kg)
●モハメド・ソマロ(31歳、カナダ=61.74kg)

※使用グローブ=EVERLAST白(アーデンバット)、RIVAL青(ソマロ)
判定3-0(79対73、80対72、80対72)

 ロサンゼルスに拠点を置いているというサウスポーのアーデンバットは、モンゴル人らしくずんぐりとした体形で、見るからに体の力がありそうな印象。だが、この試合に関していえば、フィジカルの強さを存分に発揮するわけでもなく、適度に上手く、適度にパンチも強いという以上のものを植えつけられなかった。

 初回にソマロの左サイドボディに執拗に右ジャブを差し、左ストレート、アッパーを上下に打ち分ける。ソマロは小刻みに体を揺すりながら積極的に(でも迫力はない)攻撃を仕掛ける選手だが、2ラウンドになるとその入り際に、右フックを再三合わせてカウンターの上手さも見せた。
 が、アーデンバットが連打を打っていくと、ソマロは貝のようにガードを固めてしまう。上下左右に散らしてみるものの、まともに突き破ることはできなかった。

 アーデンバットは現代ボクシングに象徴的な、無駄な動き(無駄にするかしないかは本当は本人次第だが)を排除したスタイルの持ち主だ。削いで削いでこうなりました、というくらい彼の動きは乏しい。きっと彼なりのリズムの取り方があるのだろうが、傍目からはそれがさっぱり見えてこない。もちろん、動きを止めたり少なくしたりして、意表を突いてドン! というやり方はある。だが、そういう意図も伝わってこない。推察すれば、リズムを取っていないため、攻撃が単調でブツ切れになってしまい、ソマロからすれば読みやすいのだ。そして、リズムに乗れていないから、あれだけ動かないにもかかわらず疲れを見せてしまうのだ。

 腕力等の力はありそうだ。下半身もしっかりしている。けれども、それらをまったく生かせてない。上体はほぼ常に立っていて、力感をもって打っていっても、的に到達する時点で威力は半減以下になってしまうような印象。かといって、空間や間合いを支配してタイミングを掌握するような巧さはない。
 この1試合を見ただけで判断するのは早計だが、これを見た限りではすでに“頭打ち状態”にあるような気がした。

 実際は大差で勝っているのだから、本人や陣営はそれで良しなのだろう。けれども、こんなときこそ厳しい眼差しを持つ側近が必要だと思う。

アーデンバット=9戦9勝(4KO)
ソマロ=17戦14勝(6KO)3敗

《YouTube『PROBOX』チャンネル視聴》

#スポーツ観戦記

いいなと思ったら応援しよう!

闘辞苑TOUJIEN
ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。

この記事が参加している募集