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ボクシングにおける「初回」の重要性を考える

※写真は試合開始直前。このとき、選手たちはどんな想いを抱いているのか、描いているのか。毎度、息をのむ時間だ

 階段を上り、さらに上のステージへと歩を進めれば進めるほど、原点に立ち返る。裏を返せば、原点を大切にしてきたからこそ、それがしっかりとした土台を築き、一歩一歩歩んでいける。世界のトップになればなるほど「基本」「基礎」の重要性を語るのは、つまりそういうことである。
「基礎なくして応用なし」、「基礎工事なくして建築物なし」。どんなに美しく、見栄えのする城だとしても、しっかりとした土台がなければあっという間に崩れてしまう。まずは土台あればこそ。そしてその上で「重心=重さを支える中心」と「剛心=揺らぎに対する抵抗の中心」を築いていく。土台→重心&剛心、この順序を間違えてしまうと、せっかくの労苦も水泡に帰してしまう。実にもったいないことである。

「基礎」をしっかりと身に着けたもの、キャリアを重ねつつ「基礎」を身に着け始めているもの。世界チャンピオンも4回戦ボーイも、まだボクシングを始めたばかりの人も、誰もが必ず経験しなければならないのは、「ファーストラウンド」である。
 男子3分、女子2分。キッズならば1分30秒、1分と細分化されているものの、“スタート・ラウンド”に変わりはない。そして、どんなに偉大な選手でさえも、この「1ラウンド」の難しさを口にする。その重要性を語る。

「体が温まっていないから」「体が硬いから」。緊張感は誰だってもちろんある。そして実際に体が動くか動かないかは、リングに上がって動いてみなければわからない。だから、リングに上がる前のアップやそのタイミングを選手たちは試行錯誤する。
 後楽園ホールの場合、他の試合中やインターバル中に、地下からものすごい声とミットを打つ音が聞こえてくる。耳にしたことのある方も多いだろう。あれは正に「アップ」の瞬間。タイトルマッチやメインイベントならば開始時間固定の場合も多く、逆算できるだろうが、そうでない前座の場合は“だいたいの予測”で始めねばならない。
 中には「疲れちゃうから」と全く動かない選手もいる。それはそれで、リングに上がってパッと動けるのだろうから、たいしたものである。

 ボクシングは“生き物”、ボクサーは生身の人間だ。だから、アップしたからといって、必ずしも動けるとはかぎらない。興行開始前、キャンバスの感触を確かめようと、選手たちは実際にリングに上がって動く。そのときは動けたのに、アップもしたのに、いざ本番になったら動けない。アップのタイミングも、これまで同様にやったのに。前回、調子が良かったときと同じタイミングでやったのに……。そんなことも多々ある。体重調整のせいなのか、でも、それもこれまでどおり順調だった。オーバーワークなのか、いやそれも問題ない。では何なのか……。
 けれど、動かない自分を気にしていたら、あれこれ考えていたら、あっという間にやられてしまう。不調を感じても、そんなことは無視して、戦わなければならない。集中力を欠くことになるし、自らのメンタルをマイナス方向に作動してしまい、自滅の道を歩まねばならなくなる。そんなこんなを考えるわれわれ第三者からすると、つくづくボクシングとは凄い競技だと感嘆するほかない。

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