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ふじこ
2024年6月2日 21:26
もう来ないで、と言われたとき、どうして僕は抗う言葉をなにひとつ言えなかったのだろう。閉じた玄関ドアは鉄のような音を立てて、彼女の世界から僕をしめだした。しばらく僕は黒い玄関をうつろに見つめて——実際は玄関ドアなど見てやいなかった。彼女の顔、僕を心底けがらわしいと厭う表情を、自傷行為のように繰り返しまなうらに描いた。 それからどうやって自分が家にたどりつけたのか、思いだせない。ただ、温かい夜
2024年1月6日 11:33
十歳も年下の男の子と遊んでいる、と母が聞いたら、はしたない、と言うだろうか。遊んでいるとはいえ、世の人が想像するような、淫らな関係ではない。彼の最寄り駅で待ち合わせて、一緒にハンバーガーやパスタを食べて、公園で最近読んだ本の話をして――、それで終了。はじめは金銭のやりとりがあったが、いずれ陽はそれを拒むようになった。「なんか、これ負担」わたしが差し出した一万円札を返し、ジーンズのポケットに手を入