見出し画像

小売経営における消化率の重要性

株式会社Bizgemの樋口です。
株式会社Bizgemでは「すべてのクリエイターに良質な経営を提供する」をミッションに各種コンサルティングサービス、ECサイト開発サービスを提供しております。

小売経営において仕入れた商品をどれだけ消化したかの消化率は非常に重要な数値だと考えています。前職の子供服D2C企業では、仕入れた商品を最終的にキャッシュに変えるまでを丁寧におうことで消化率を99%以上にすることを最優先事項として経営することで常にフレッシュな商品を仕入れて、在庫の健全性を保つことができたと思っています。

一方で小売企業のIR資料などを見ていても仕入年度ごとの消化率といった指標は掲載されることがなく、売上・売上総利益・営業利益などが最初に掲載されて、消化率に関わる棚卸資産についても仕入年度ごとの内訳などはなく、金額が増えた・減ったの記載にとどまっています。

しかし小売企業を実際に経営し、M&Aにて売却後も親会社の上場会社基準の小売経営を経験した身としては消化率が高いことによる在庫の健全性の重要性を実感しています。本日は簡単なパターンに分けて、消化率がどのようにPL・CFに影響するのかを見ながら、消化率の重要性について考えてみたいと思います。

一点お断りしておくと、以下は小売企業のフェーズ・商品特性・扱うSKU数を無視して整理したものとなっております。一概に全ての小売経営に当てはまるものではなく、どちらかと言えばアパレルや雑貨など多品種・多SKUの小売経営で、年商3億円以上などある程度規模が出てきたところに当てはまるものかと思っております。


今回想定するパターン

仕入金額50、固定費20として消化率70%、80%、90%とそれぞれのパターンで、売上、営業利益、繰越在庫を考慮した営業キャッシュフロー(営業CF)がどのように変化するのか見ていきたいと思います。

それぞれ経営者としてどのパターンを選択するのか考えながら読んでいただけると面白いかと思います。

パターン1:消化率がよくなるほどに原価率が悪化するも営業利益は同じケース

下記のケースは消化率が70%→80%→90%と上がるごとに消化を促進するためにセールをかけるため原価率が上がり、粗利率が悪化するものの、消化率が高いほど売上が上がるため、売上総利益・営業利益ベースではどのケースでも同じになります。

一方で繰越在庫分を営業利益からマイナスした営業CFベースでは当然ながら消化の多い90%消化が最も高くなり、仕入れた商品の現金化に成功しています。

このようなケースでは当然ながら悪いところのない消化率90%を選ぶ経営者の方が多いかと思います。

パターン2:消化を高めるほどに原価率が高まり、繰越在庫を考慮した営業CFベースで全て同じとなるパターン

次は先ほどから、消化を深めると更に原価率が深くなり、売上ベースでトントン、繰越在庫を考慮した営業CFベースではトントンのケースについて考えてみます。

この場合においては消化率が低い70%のパターンほど営業利益が高く、営業利益率も高い結果となります。一方で在庫の健全性は70%消化の場合は売れ残った在庫が15もあり、来期に持ち越しているため、PL上にはあまり表に出ない在庫の健全性という要素ではマイナスとなっています。

このようなケースにおいては、70%消化、80%消化、90%消化のどれを経営者として選択するかは分かれるのではないかと思います。もちろんその小売企業が扱う商品の特性によっても異なりますが、個人的には90%消化しているケースの方が在庫が軽く、来期への仕入を増やすことができるため、営業CFが同一レベルなら、営業利益が少なくても消化率の高い方が健全な経営ができているという評価をした方がよいと考えています。しかしながらここは考え方が異なる方も多く、営業利益を多く出して、金融機関の評価を高めるといったことを重視する方もいるかと思います。

パターン3:先ほどと同様営業CFベースではトントンも固定費が30に上がったため、黒字・営業利益0・赤字のパターン

次は先ほどのパターンから固定費を20→30にあげてみました。そうすると消化率70%では営業利益は5の黒字、消化率80%で営業利益0、消化率90%では営業利益が-5の赤字となります。

このようなケースで90%消化を選ぶ経営者は多くないかもしれません。営業利益が出る消化率70%のケースもしくは在庫の健全性を保ちながらも赤字にならない消化率80%のケースを選択する方も多いのではないでしょうか

一方で繰越在庫を考慮した営業CFベースではどのケースでもマイナス10と変わりません。そのため私個人としてはこのケースにおいても90%消化の方が在庫の健全性が高く来期の仕入枠が大きくなるため、結果として長期的に会社が生き残る可能性が高いと思っているため、赤字だとしても在庫の健全性を優先する判断をしています。

消化率および在庫の健全性を重視する理由

先ほどまでで消化率の違いにより、売上・営業利益・営業CFが変化する様々なパターンにおいて、どのパターンを経営者として選択するのかを見てきましたが、私個人としては消化率が高く在庫の健全性が保たれているケースを、例え営業利益ベースで赤字であったとしても選択すると考えています。

その理由は、下記2点だと考えています。

①競争の激しい小売業界では持ち越した在庫の粗利率は悪化する可能性が高い
②新規の仕入枠を増やすことで売れるヒット商品を仕入れる可能性が高くなる

①競争の激しい小売業界では持ち越した在庫の粗利率は悪化する可能性が高い

競争の激しい小売業界では売れている商品の一部分を変更させて模倣するということは日常茶飯事で、近年では越境ECの広がりもあり、国内業者だけでなく海外の事業者も競合となる厳しい競争環境の市場となっています。そのため当該年度に売れ残った商品は例え爆発的に売れていた商品であったとしても、翌年は模倣や新規参入により利益率が悪化する可能性が高いと考えています。

そもそも売れてない商品を持ち越してしまったのであれば、それは来期に損を押し付けることに過ぎず、将来の収益を先食いしていることになってしまいます。

②新規の仕入枠を増やすことで売れるヒット商品を仕入れる可能性が高くなる

小売の経営においては、消化率だ、ROEだ、LTVだなんだと難しい指標を持ち出したところで、爆発的に売れるヒット商品が売上を牽引して企業のステージを引き上げるものだと考えています。その上でも在庫を健全に保ち、常に新規の仕入枠を増やし続けることで、次に売れるヒット商品と出会える可能性を高めることこそが重要だと考えています。新しいことやチャレンジをしなくなった小売企業は前述①の理由からも競合においていかれてしまうため、常に新しいチャレンジをすること、そのためにも在庫を健全に保ち続け仕入枠を確保し続けるのが経営としての重要な努力であり、それは目先の営業利益よりも優先されるべきと考えています。

最後に

少し雑な整理をしてしまいましたが消化率のそれぞれのケースから消化率を高く保つこと、それにより将来の収益の悪化を防ぎかつ将来ヒット商品を仕入れる可能性を高めることが目先の営業利益よりも重要であるため、消化率を重視するという私個人の小売経営の観点を説明させてもらいました。もちろん消化率、売上、営業利益のバランスについては扱う商材によっても異なりますが、目先の営業利益にとらわれず中長期の小売経営という目線にたったときにどのようなバランスが最適なのかを考える一助になれば幸いです。

もし弊社サービスにご興味持っていただいた事業者様はぜひお気軽にお問い合わせください。下記のようなサービスを展開しております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?