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【BI-TO #03】AIR×備前 国際交流で広がる備前焼の可能性(備前焼作家 森大雅さん・石田和也さん)

岡山県備前市を産地とする焼き物・備前焼。その特徴は、土と炎の融合で生まれる景色(模様)。緋襷、胡麻、牡丹餅ーー。その景色には、1つとして同じものはありません。作陶には「ひよせ」と呼ばれる良質な陶土を使い、釉薬は使わず、1200度以上の高温の窯で約2週間焼成します。時代とともに形や表現を変えながらも、その窯の火は絶えることなく、800年もの間、備前焼は作られ続けてきました。

そして2024年の今、備前焼作家たちを起点に、新たな世界とのつながりが生まれています。海外との交流、日本各地の産地との交流、サステナブルな社会との共生、そして備前焼という文化を通じた人と人とのつながり……。

巻頭では、今、海外との交流を積極的に広げている、備前焼作家の石田和也さんと森大雅さんにインタビュー。備前焼に惹かれ「滞在して制作を学びたい」と海外から訪れる人たちを受け入れる活動についてお話を伺います。(文:松﨑彩、写真:藤村ノゾミ)

備前焼作家・石田和也さん(左)と森大雅さん(右)

石田和也(いしだかずや)
高校卒業後、家業である備前焼の道へ進み、伊勢崎淳氏に師事。2011年にイギリスへ渡り、現地の陶芸工房で伝統技法や語学や文化を学ぶ。2015年に始動した「Oxford穴窯プロジェクト」では、先導作家として招聘され、オックスフォード大学に備前式の穴窯を築いた。以後、アメリカ、インド、オーストラリアにも活動の幅を広げている。

森大雅(もりたいが)
2000年に備前陶芸センターを修了後、祖父(森風来)の窯を受け継ぎ、陶彫を木村玉舟に学ぶ。2001年に独立し、東京で初個展を開く。その後は、フランス、アメリカ横断、ベルリン、中国など海外での滞在制作やアートフェアにも多数参加。旅する陶芸家。2019年、備前焼作家3人で「BIZEN gallery Kai」をオープン。

――森さん、石田さん、それぞれ活動を海外に広げられた経緯を教えてください

森:
僕のきっかけは、大学の時に初めて海外で一人旅をしたことです。2ヶ月くらいヨーロッパを周りました。それ以来、旅行が好き。仕事としての転機は、2013年に「せっかくなら備前焼を通して旅するのもいいな」と、フランスに窯をつくりに行ったこと。その時に、「アーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)」を経験して、滞在制作の面白さを感じました。その滞在先では色々と良くしてもらったので、いつか受け入れる立場にもなれたらと思うようになりました。「プレゼントをもらったら返したい」って思うような話なんですけど。

石田:僕は、実家が焼き物をやっていて、「将来は焼き物をやるんだろうな、それなら早い内に違う勉強や経験をしたい」という気持ちがあって。20歳の時、日本のアーティストの方に「外国に行って勉強ができるならした方がいいよ」と言われ、24歳の時にワーキングホリデーのビザを取って、イギリスの陶芸工房に職人として働きに行きました。その後、AIRでの滞在制作や海外での窯づくり、ワークショップ講師も経験しました。

石田和也さんの作品《Crescent moon》

――ご自身の作品への影響はありましたか?

森:僕は、ヨーロッパやアジアなどアートフェアへの出展が多くて。普段使いの器とアートフェアの作品で表現は変えるけど、どちらも自分の中にあったものが出てきたものであることは変わらない。けど、発表する場所が変わって、違う人の目線で見られることで、ちょっとずつ自分自身の輪郭や目線がはっきりしてきたかも。

石田:「当たり前」は、外に出たらすごく特殊なこと。海外に行けば食文化や様式も違うから、日本で当たり前に作られてるものやかたちの理由を考えるようになった。
備前焼の作り方や、伝統工芸を引き継いでいることもそう。自分達の当たり前を「君がやっていることは、すごいことなんだよ」と言われると、「今やっていることはこんなに魅力がある。大切にしないといけない」と改めて思えた。考え方を変える上で、大きなきっかけになりました。

森大雅さんのオノマトペシリーズ《ドォォォン》

――海外からの滞在希望者を受け入れるようになった経緯は?

石田:
コロナ以降、特に海外では「陶芸制作をする」というトレンドが広がっていました。土に触れることでリラックス効果が得られたり、難しい作品も練習をする事でレべルアップが実感できたりする陶芸の側面がマッチしたみたいです。SNSでの広がりも重なって、世界中の陶芸に興味を持った層が日本の陶芸に注目しています。
 特に備前は、薪窯の聖地として憧れる方も多く、ここで勉強してみたいという需要が多いようです。そうした背景もあり、「興味のある方々に伝える」という役割を担えたらと思っています。

――どのような作り手を受け入れていますか?

石田:
僕の工房では、「陶芸の基礎知識や経験値はあるけどもっと勉強したい」という人に、スタッフの一員として働いてもらっています。2023年4月、最初にアメリカの陶芸家を受け入れた時、僕だけじゃなく周りにも相乗効果があって、陶芸家仲間や友人からも「良い流れだね」と、ポジティブな声を聞いたことが軸になっています。
 2018年には、イギリスから陶芸家を呼び、「Ceramic Art Bizen in 閑谷」というイベントも開催しました。同時にアコモデーション(宿泊施設)をつくって、備前ではほぼ初めての形でAIRをやりました。施設は陶芸センターが引き継いだんですが、実は最近そこが閉じることになって。

森:そのアコモデーションを僕が「面白そうだから借りるわ」って(笑)。2023年6月からAIRの受け入れを始めました。
 そこには陶芸家に絞らず、面白そうで可能性のある人を呼んでいる。オーストリアのデザイナー、ニュージーランドの陶芸家カップル、映像のアーティスト、料理人、音楽や写真が得意な人など途切れず色々な人が訪れています。
 僕は「よくわからないもの」が好き。将来的に発酵していくというか。「絶対これ儲かる!」というよりも、「なんか可能性があるな…」くらいの感じが好きでやっています。1人でできることは少ないので、全体で面白いことが生まれてくるのが楽しみだなって。

森大雅さんのギャラリーにて。滞在中のゲストが窯焚きをサポートしていました。

――どのような交流や、まちへの広がりが生まれていますか?

石田:
内側だけで完結させず、周りのコミュニティとも繋げたくて、ピザを焼いて交流会をしたり、器を使ってワークショップをすることもあります。研修する人が若い人なら、その人の将来にとって、ここでの経験は強く残るものだし、その先に広がる可能性は大きいなと思っていて。それをどうにかして形にしてあげたい。

森:滞在中に自転車でまちを巡ったり、地域の人から声をかけてもらったり、友達ができていますね。彼らに自発的にやってみたいことがある場合は、僕も協力しています。フランスとニュージーランドから来た2人が滞在していた時は、クレープやキッシュなどを作ってイベントをしました。その時は近所の人や子ども達など20人くらいが来てくれました。

石田:備前焼は今売れないと言うけれど、「備前は世界から注目されてる」「外国から需要がある」ってわかると支えになると思う。それも良い影響だと思います。

備前市の北部エリア・三石の鉱山にて。素材となる石を採掘。

――今後の展開について教えてください

石田:
働きやすい環境をつくって、来てくれた人が「すごく良い時間だった」と思えるようにすること。あとは、チームとしての滞在受け入れ、レクチャーイベントなどのビジネスモデルもつくれそうです。環境を整えながら、需要に沿って新しい企画をどう打ち出していけるか考えています。

森:こういう活動をしていると、見てくれている人がいて。「窯を借りてくれない?」という声もあります。そういうフリーなスペースが増えると、いろんなことができそう。
 海外からわざわざ来る人って、行動力がある。行動力がある人がいると、何かができそう。そういう人が訪れたり集まったりできる場所をつくれたらいいなと思います。
 こんなふうに動いてると、1人でやってるのとは違う広がりがある。結果はわからないけど、可能性があるなと。1人で机に向かっているより、横でいろんなことが起きている方が面白い。しかも、期待以上に皆さんやってくれるので、僕はいつもハッピーなんです。

石田さん、森さん、ありがとうございました!

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この記事は、岡山県備前市の<人>と<文化>を見つめるローカルマガジン「BI-TO」に掲載されたものです。こちらから誌面もご覧いただけるのでぜひチェックください!

■目次
・ISSUE#03 備前焼から広がる世界
【AIR×備前焼】国際交流で広がる、備前焼の可能性
【産地交流×備前焼】珠洲焼の歩み、備前の地で前へ
【未来の社会×備前焼】陶器ごみから生まれた再生備前「RI-CO」
【GALLERY BAR×備前焼】文化を囲んで人が語らう移動式GALLERY BAR
・「大人のしゃべりBAR」開催レポート
・Do you know…?
・巻末コラム:肇さん、備前焼でお酒が美味しくなるって本当ですか?

2024年9月20日発行
企画・発行:BIZEN CREATIVE FARM
制作:南裕子、藤田恵、松﨑彩、吉形紗綾、加藤咲、池田涼香、藤村ノゾミ

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