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びっとらんだむ:Sweet Stories Scrap

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noteで見つけた小説やエッセイのセレクション。皆さんからの推薦作品もお待ちしてるぜっ!🍌
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#スキしてみて

Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.12 2022/1

 あっという間に年を超えました。謹賀新年。昨年は結局一年を通してコロナコロナって言ってた訳で、何ともまあ辛気臭い一年としか言いようがなかったですな。誰に文句を言っても始まらないんだけれど。さっさと終わってくれないかなあ、コロナ。ほんとに。  では、今月の3本。 連なる漁火ノスタルジー/水月 この冬らしい一遍には、最後の段になって「ハナゴンドウ」という名前が出てくる。どうしてこの言葉を選んだのかは知る由もないが、漁火をテーマにした小説らしく海の生き物を持ってきたのだろうか。

【1話完結小説】僕とジュリエット

 通学路にあるボロアパート。その2階角部屋の窓から、下校中の小学生に向かって毎日怒鳴ってくるおばさんがいた。6年生の僕が入学した時からずっと繰り返されている光景だ。 「ぎゃいぎゃい煩いんだよ!このクソガキどもが!親連れてこい!」  怒鳴られるたび、女子達は足早に逃げていくし、僕ら男子は敵と対峙したヒーローみたいな気分で言い返したりする。おばさんは部屋から怒鳴ってくるだけで実害がない為、半ばゲーム感覚で楽しんでいたように思う。 「ジュリエが出た!ばーかばーか!」  おばさんは子

淹れたてショコラの香りに誘われて

ドキドキ。 ほんの少し、緊張している。 右手の人差し指でこのベルを押すことを、私はまだ躊躇っている。ドキドキ。 私は、珈琲屋さんのカウンターの前に立っている。ここにはいつも、先客がいる。 外から見ると、お客さんは店主さんと仲が良さそうで、所謂常連さんだと思われる。その常連さんは、いつも違うのだけれど、どのお客さんも、親しそうにしている、ように見える。そんな雰囲気を醸し出している、気がする。 そんなお客さんと店主さんの会話を邪魔してしまうのは、気が引けてしまう。誰もいな

【超短編小説】渡せなかった花束

「花束がほしい」 ゆかりが唐突に呟いた。 「花とか好きだったっけ?」 僕が訝しげに訊ねると、彼女は首を横に振った。 長く伸びた髪が左右に揺れて、シャンプーの香りがふわりと浮いた。 「花が欲しいんじゃなくて、花束が欲しいの」 彼女の薄い唇に髪の毛が重なる。 彼女の心中が見えなくて、あの時の僕はただ閉口した。 ゆかりがイギリスに一年間留学すると聞かされた日のことだった。 止める事もできなければ、ただの幼馴染みである僕にそんな権利もなかった。 せめて、彼女が欲し

【超短編小説】見送る電車

バイトが終わって、家に帰るまでの時間が二人で過ごす唯一の時間だ。 毎週、水曜日の二十一時。同じ時間にバイトが終わるのが僕たちだけで、なんとなく駅まで一緒に歩いたのがきっかけだった。 駅までは十分程度、学校の話やバイトの話、好きな音楽、好きな映画、話題に困ることなどない。 そのうち十分では足りなくなって、駅のホームで立ち話をした。いまでは当たり前のようにベンチに座り、乗るはずの電車を二人で何本も見送る。 その時が来たのは突然だった。 「私ね、来週から……なんだ」 ホ