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東京2020オリンピック グループA第1節 メキシコUー24vsフランスUー24 マッチレビュー~銅メダルへの第一歩~

メキシコ4-1フランス

得点者(MEX)
47分 11ベガ
55分 17コルドバ
80分 15アントゥナ
90+1分 18エドゥアルド アギーレ

得点者(FRA)
69分 10ジニャク(PK)

両チームのフォーメーション

前書き

 激闘だった東京五輪から早5ヶ月が過ぎた。開催国となった我が国日本も、歴代最強メンバーと言われた東京世代に加え、過去にオリンピックの舞台を経験しているオーバーエイジ組を召集。53年振りのメダル獲得に向けて懸命に戦った。

 しかし3位決定戦で敗れ、あと一歩の所でメダルには届かず。最強軍団による「真夏の大冒険」は4位で幕を閉じた。

 今回は、3位決定戦で日本の前に立ちはだかり、銅メダルを獲得した”宿敵”メキシコ代表の記念すべき1戦目を振り返って行こうと思う。

 そして、今回のレビューを書くにあたり、Windtoshさんのアーカイブサイトに記録させて頂くことになりました。

 「あの時の記憶を形に残すお手伝い」をさせて頂けるとのことなので、しっかりと書きたいと思います。


そのプレスなら楽々剥がせる

 試合の入りとしては、メキシコがボールを保持してフランスがミドルゾーンでブロックを組みながら守るという展開になった。

 メキシコは、GKのオチョア+2CB+アンカーで菱形を形成。これに対し、フランスはCFのジニャクとトップ下のルフェで4人を監視する構図を取った。4vs2という数的優位の局面を作れるため、メキシコがショートパス中心で攻めるかと思いきや、序盤は躊躇無くロングボールを前線に放り込む策を講じた。

 狙いとしては深さを作りつつ、単騎での突破が持ち味の両WGに、「素早くボールを届けたい」という意図があったはず。ただ、フランスも簡単にラインを下げず442のブロックを形成。抗う姿勢を見せていた。

 それでもメキシコにとって有り難かったのは、フランスがボールホルダーへの牽制が甘く、プレスに連動性が無かったこと。4vs2の局面はずっと続いていたし、SHが出て来て3枚になる!という守備を採用せずに、ひたすら2枚で頑張りながら守備をしていた。

 前半の途中でルフェをアンカー番にしたが、それだとCBへの球出しが容易になるため、直ぐに辞めてジニャクと代りながらアンカーを見る形に戻したりと、試行錯誤はしていた感じはした。それでもSHが加勢に来ない。SHは、「SBに出たら何とかするから!」というスタンスが透けて見えていた。

 11分のシーンでは、左SBエリック アギーレから右CBのモンテスにパスが渡ったが、ここに対して誰もプレッシャーをかけず。プレスのスイッチが入っていたため、ここは左SHのノルダンが出て行くのがセオリーのはずだが、プレスを放棄。そのため、モンテスにボールを運ばれるというシーンがあった。

 このようにフランスの守備が緩いことから、メキシコは楔を入れたい放題だった。更に言えば、メキシコの落ちてくるIHに対して、フランスのどの選手が着いて行くのかハッキリしていなかった印象。一応CHが着いて行くのだが、そうするとCH裏がポッカリ空いてしまうことになる。

 そのためメキシコとしては、中央にボールを差し込んでワンタッチを入れらながらサイドを攻略することは可能であった。WGも幅を取り続けるのでは無く、CHが出て行った場合は内側のレーンに移動してフランスのSBを動かし、自分たちのSBのオーバーラップを促す動きも出来ていた。

 フランスのSHとの走り合いになれば、メキシコのSBの方が優位だったし、「手前で立たれても、追い越してボール受ければ問題なし!」といった感じで、むしろ攻撃参加に拍車がかかっていたように見えた。

 メキシコの前半の流れで言えば「突破までは出来た!後はフィニッシュワークを丁寧にするだけ!」という局面を作り出す「上手さ」は随所に見られた。ただ、プレスを放棄していたフランスも、流石のボックス内では必死のディフェンスを見せる。そのため、メキシコは得点にまで至ることが出来なかった。


相手を見ての守備変更

 続いてメキシコの非保持について。その前にフランスの出方について話をする。

 フランスのメインウエポンはCFのジニャクにシンプルに当てて、SHが受けるという形だったように思える。それでも、「ジニャク大作戦」とは別にGKを含めたビルドアップにも取り組んでおり、後ろから地道に繋いで行くという試みもしていた。

 後ろから繋ぐ際のフランスは4231っぽい陣形を維持。これに対しメキシコはIHを上げた442のプレッシングで対応をした。

 18分のシーンでは、メキシコの左IHのコルドバがマルティンと横並びになり、433→442に可変。前に出た2枚でビルドアップ隊となるCBにプレスをかけていた。

 その際、コルドバはCHの選手を背中で消しながら出て行きサイドに誘導。WGも内側を切りなが連動し、タッチライン際に追い込んで窒息させようとしていた。これに際して、ルフェがSHの裏に顔を出すもアンカーのロモが着いて行き対応して見せた。

 それと同時に、中盤で引っかかった際はメキシコがフランスをトランジションの速さ上回っており、チャンスに繋げられそうな場面を見せていた。

 ビルドアップが停滞気味となったフランスは、トップ下のルフェとCHのサバニエが工夫を凝らす。サバニエが内側に入り、2vs2の状況を作り、ルフェがIHが出て行ったスペースに入り込む。これで左WGのベガを2つの選択肢を与えていた。

 その影響からか、右SBのミシュランがボールを受けやすなったように感じる。ミシュランはかなり馬力のある選手で、フランスの攻撃に厚みを加えていたのは彼の攻撃参加であった。この場面では、ミシュランが頑張り相手陣地にまでボールを運ぶことが出来ていた。

 また右サイドも同様で、コルドバとロモが余った中盤の2枚に釣られ、ロドリゲスが出た裏を残ったCHの選手に立たれるようになる。そこを出口とされる場面も生まれてるシーンもあった。

 これにより、徐々にビルドアップの出口を作られるようになったメキシコは守備陣形を変更。ビルドアップ隊である「CBを捕まえる」のでは無く「自由に動く中盤を捕まえる形」を採用した。その結果、スペースに立たれること無く、人を捕まえて出し所を消すことが可能となり、再びサイドに追い込むプレスが成立した。

 この修正力と相手を見ながらやり方を変えられる「賢さ」は「アッパレ」の一言である。

 それでも不思議だったのは前半の枠内シュート数はフランスの方が多かったこと。ジニャクにさえボールが収まってしまえば、ボックス内にまで侵入しシュートを打てることが多かっただけに、フランスは手数を減らしたシンプルな攻撃も多く見せるべきだったように感じる。


ギアチェンジ出来る策も有り

 両チーム交代無しで迎えた47分にゲームが動く。フランス側のゴールキックの跳ね返しをコルトバが繋ぎ、ボールを受けたマルティンが右サイドに展開する。

 スペースのある状態でSBと1対1の局面を作れたライネスがハーフェーライン付近からドリブル突破を試みる。果敢に仕掛け、対面となるカッシーを抜き去りエリア内に侵入し、クロスを供給。最後はベガが頭で押し込んでネットを揺らした。

 メキシコにとってはチームの最大の武器であるWGがこの試合初めて、オープンスペースで1vs1で仕掛けられる状況を作れた。そこから生まれたゴールはまさに改心の一撃と言っても良いはずだ。

 また55分には、前半から上回っていたトランジションの速さからゴールが生まれる。メキシコの選手とフランスの選手が交錯して流れたセカンドボールをロドリゲスが回収しラストパス。これに抜け出したコルドバがGKとの1対1を落ち着いて決めて2-0とフランスを突き放す。

 後半立て続けに2点を失ったフランスは、2人のメンバー変更を行なう。そしてこの交代策が試合の流れをフランスに傾けるキッカケとなった。特に大きかったのは、左SHの交代である。上記でも書いたように、守備面で低調な動きを見せていたノルダンに代わって投入されたコロムアニが攻守に渡って良い働きをしていた。

 コロムアニがSBに対してしっかり強度を持ってプレッシングに行くことでプレスに連動性が生まれていたし、メキシコのビルドアップの足止めを行うことが出来ていた。また67分には、メキシコのFKのこぼれ球をジニャクが収めて繋ぎ、ボールを受けたルフェがスルーパス。これに抜け出したコロムアニがエリア内で倒されてPKを獲得する。

 ついに理想的?というか、このメンバーで攻撃を組み立てるならコッチの方がしっくり来るだろ!という感じのロングカウンターからPKを獲得したフランス。セットプレーの盤面をひっくり返したタイミングだったとは言え、個人的にはこういうシーンはもっと増やすべきなのでは?と思った。

 このPKをキャプテンのジニャクがきっちり決めて試合は1点差となる。

 残り21分+アディショナルタイムという嫌な時間で失点を許したメキシコは、交代枠を使いながら更なるギアチェンジを謀る。ライネスに代わって投入されたアントゥナも「速さ」を兼ね備えた選手であった。

 フランスからしてみれば、たたでさえ破壊力のあるスリートップに変わって、フレッシュなアタッカーが入ってくるため、たまったもんじゃ無かったに違いない。

 交代策でのギアチェンジで再び試合の流れを引き戻したメキシコは、終盤に途中出場のアントゥナとエドゥアルド アギーレにゴールが生まれ、終わってみれば4-1でメキシコが快勝を収めた。

 

雑感

 この大会のメキシコはスカウティングにも優れていたし、全体的に「上手い」、「賢い」、「速い」の三拍子が揃ったチームだったように感じた。相手にアジャストするような戦い方を常に選んでいたし、自分たちの長所を理解しながらゲームを運ぶことが出来ていた。

 代表戦は「自分たちの持っている最大の武器のぶつけ合い」だと筆者は思っている。それがフランスで言えば、CFに素早く当ててからの縦に速い攻撃だったと思うし、メキシコはポゼッションしながら攻撃的な両WGを活かした攻撃だったように感じる。そう言った意味でメキシコは、「自分たちのことを良く理解しているチームである」と筆者は思った。

 まぁフランスが思ったよりも...と言われればそれまでではある。フランス自体もラフォン、ウパメカノ、コナテ、ムキエレ、エンクンク、ムパッペ、アワール、クンデ、デンベレなど、欧州のトップで活躍する選手を招集しなかったため、実質2軍で挑んだ大会ではあった。

 それでもメキシコにとっては初戦という大事な試合をしっかりと勝てたのは大きかったはず。この後の2戦目では、我らが日本に敗れたものの、3位決定戦ではそのリベンジに見事成功し銅メダルに輝いた。

 この銅メダルに辿り着くまでの最初の一歩は「自分たちらしさ」を貫き通した、自信の持てる大きな一歩だったに違いない。


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