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0から知財部門の立ち上げ。技術を守り、ビジネスを前に進めるために魂を込めて挑戦し続ける。 〜High Standard Interview #11〜

昨年から社内の新しい取り組みとして始まった「マイ・ハイスタンダード」。これは困難な状況下でも、高いクオリティやマインドセットを保ちながらリーダーシップを発揮したメンバーや事例を全社に紹介する取り組みです。
四半期ごとに各事業部のマネージャーからの推薦を集め、CEOを交えた会議を通じて数名が選出されています。第3回目(2022年1月-3月選出)は、3名のメンバーが表彰されました。

彼、彼女らがどのようなマインドで日々業務に取り組んでいるのか。High Standard Interviewシリーズとして「ハイスタンダード=高い基準」の源流にあるものを深掘りしていきます。

前回の五十嵐さんに続いてお届けするのは、ビットキーで知財と法務の業務を担う北代さんのインタビュー記事です。

北代 理紗(Legal&IP/Corporate Systems)

大学院で免疫学を中心に生物科学を学んだ後、大手メーカーの特許技術職に従事。開発者とのディスカッションを通じて発明発掘、先行技術・先行文献調査、特許出願書類の作成や中間処理等の特許権利化業務、特許の権利継続検討などを一貫して担当する。ビットキー入社後は技術知識や法律知識を軸に、技術とビジネスの両面を知財と法務から支えている。特許出願サイクルの確立や知財に関する相談窓口の創設、職務発明規程の導入に先立ち、規程を整備したことなど、複数の取り組みで「マイ・ハイスタンダード」として選出・表彰された。

── 現在、北代さんが担当する主な業務について教えてください。

まず、主軸を置くIP(*1)では、大きく分けて3つの範囲を担当しています。ひとつ目は「管理」です。具体的には、発明やアイデアを保護するための権利である特許権や、ハードウェア製品の形状・デザインといった意匠権にまつわる管理をしています。ふたつ目に「権利化」です。開発過程などで生じるアイデアやデザインを具体的に特許権や意匠権として権利化するために、出願に必要な調査や書類の作成といった具体化を行います。最後に「他社の権利侵害の防止」。他の企業様が保有する権利をビットキーが侵害しないよう務めています。
Legal(*2)の方では、知的財産が絡む業務委託契約書のレビューや、知財が絡んだ法務関連の相談対応といった業務を担っています。

依頼してくれるビットキーメンバーが安心して開発を進められたり、他社の特許を気にすることなく営業活動できたりといった、知財と法務の両側面からのサポートがミッションです。

*1 intellectual propertyの略。人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創造物などで、財産的な価値のある情報を「知的財産」といい、これに関する権利の総称を「知的財産権」という。知的財産には様々な種類があり、法律で権利保護の対象となっているものには著作物(著作権)や特許(特許権)、商標(商標権)、意匠(意匠権)、肖像(肖像権)などがある

*2 企業において行われる法務は一般的に「企業法務」と呼ばれ、主に社内外の契約を統括管理するほか、契約書の締結や法律相談、トラブル対応による企業利益の確保やリスク管理、コンプライアンス関連などの業務を担う

── 知財という仕事のどんなところに面白さや魅力を感じていますか。

そもそも知財の道を志そうと思った原体験は、大学院時代にあります。所属していた研究室の先生が特許を出願していたのですが、それがいろんな企業から「使わせて欲しい」と依頼されたり、結果として研究費が入ってきたりして、特許の影響力をまざまざと実感したことがきっかけです。
また、知財は言葉を駆使して、権利範囲を獲得していきます。言葉を自在に操り、時には言葉を武器にしながら、攻めの姿勢で戦略的に会社の資産である特許などの権利を創出していくことや、活用することで資産としての価値を育てていくことにかっこよさと奥深さを感じて、知財の道を志すようになりました。

最先端のアイデアに触れられることも、知財という仕事の醍醐味だと感じています。開発メンバーたちが目を輝かせながら話す姿やワクワクしている姿を間近で見られること、活気あるブレストの場に居合わせられることはとても光栄です。同時に、「絶対に良い権利として獲得するぞ」という闘志が湧きますね。
知財は縁の下の力持ち的な関わりであるため、地味で表舞台に立つ機会は多くありません。しかし、始まりから終わりまで、一連の業務が「会社の明暗を分ける」ことにつながりかねない重要な仕事でもあります。そういったことも含め、あらゆる可能性を秘めているところが奥深くて面白いんです。

── 大手メーカーの特許技術職として働いていた北代さん。入社当時、まだ知財法務のチームがない段階で、なぜビットキーに入られたのでしょうか。

前職は数年かけてOJTを実施してくれる教育方針で、特許技術者(*3)としてキャリアを形成していくには非常に恵まれた職場でした。知財の仕事のなかでも細かく担当が分かれており、地道にコツコツ積み上げていくため、その道を極めるには最適な環境です。ただ、必然的にかなりの時間を要してしまう側面もありました。
元からストイックな性格で、大学院時代から狭い研究室で黙々と実験を行い、なかなか結果を得られずとも没頭して研究に打ち込んでいました。前職でも地道に粛々と仕事をしていたのですが、周りの友人たちが仕事でリーダー職となったり、活躍して活き活きとしている姿を見ると、どこか焦る気持ちも正直ありました。

思えば、自分の人生のあらゆる場面で、向上心を持って一歩一歩積み上げていくものの、報われなかったり納得がいかなかったりというようなことが多く、もどかしい気持ちを抱えていたんです。色んな人との出会いや関わりによって、自分の世界をさらに広げていきたいという想いが芽生えてきていたなか、とある求人サイトを経由してビットキーにお声がけいただきました。

ビットキーでの面談を重ねていくにつれて、大勢のなかのひとりとして仕事をしていくことよりも、自ら道を切り開いて仕事していくことに魅力を感じました。前職での環境に比べると、ベンチャーはひとりで何役もこなさなければならないハードな環境だと思います。それを理解したうえで、あえてそういった環境に身を投じ、一皮も二皮も剥けて成長したいと強く思うようになりました。

また、知財業務を担うチームの立ち上げに関われるとも聞いていたので、これはまたとないチャンスなのではないかと感じたことも大きかったですね。ビットキーには様々な技術があって、守りたいことだらけだという山本さん(ビットキーのVPoEで、北代さん入社当時は法務領域も兼任。現在においてもLegal&IPの部門を統括するマネージャー)のお話を聞いて、勝手ながら使命感に燃えちゃったのもあります(笑)。
開発するメンバーたちが安心して開発に専念できる環境を整えるためにも、このチームの立ち上げに関わらない理由が見当たらない。ここで動かなかったら一生後悔すると思い、ビットキーへの入社を決めました。

*3 特許の出願時に、発明者が考えた発明の詳細を解説する書類の作成や、出願後に特許庁とやり取りをするために必要となる書類の作成をする「特許実務」を行う人のこと

── ビットキーにおいて、知財はどういった価値と役割を担うものなのでしょうか。

まず、ビットキーが「コネクトテック・カンパニー」として目指す世界観を実現させていくために、なにを攻めとし、なにを守るべきか。限られたリソースでどこから着手するべきかを見極めるための方針を定めました。
この方針のなかで、ビットキーでは知財の役割を自社のミッション(*4)に絡めて考えています。そして「コネクト」を実現するための戦略として、3本の柱を立てています。

ビットキーは一見するとスマートロックだけに思われてしまいがちですが、bitkey platform(以下、BKP)という技術をベースにして、あらゆるものを「つなげて」います。このBKPが存在するからこそ、様々なビジネスパートナーの方々からの理解、結果として業務提携や資金調達を得られているといっても過言ではありません。
ビットキーのミッションを確実に実現するためには、プラットフォームとしてのBKPや関連するコア技術を積極的に保護し、これらを維持・管理・改良していく必要があります。そのための知財戦略であり、ビットキーにおける知財の価値だと考えています。

*4 ビットキーは“テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」 ”をミッションに掲げています

北代さんが「3つの柱」として作成した知財戦略の方針。

── 特許出願サイクル(*5)の確立や職務発明規程(*6)の導入整備など、複数の取り組みを推進されていましたが、どんな点で苦労しましたか。そしてどう解決に導きましたか。

今回表彰していただいた取り組みのなかでもビットキーで前例がないものに関しては、その取り組みをどうすればビットキー特有のものとして築けるかを考え、結論に辿り着くまでに最も苦労しました。

北代さんが推進した主な取り組み。

特許出願サイクルの確立は、前職の経験を活かすことですぐに策定することができましたが、職務発明規程においては、過去にも検討されていたものの、最終的に導入に至らなかった背景がありました。再び導入するために「どうしたら発明者のためになるか」「どうしたら会社のためになるのか」「どうしたら会社が実現したい世界観に近付けるのか」をあらためて考える必要がありました。

また、一般的に運用される職務発明規程から大きくかけ離れることがないようにしながらも、ビットキー特有の規程として導入できるよう整備する必要もありました。

一般的に、発明者である社員に対して支払われる報奨金の額は「発明者がどれだけ会社に貢献したか」という曖昧な基準でポイントが加算され決まる、というのがよくある運用の一例です。それを踏襲してしまうと、客観的な妥当性もなく、ビットキー特有の規程とは言えません。

そこから、前職の先輩方だったらどうするかを自分なりに考えつつ、チームメンバーとの対話で「過去の売り上げや将来の売り上げ見込みというような『金額面』に軸を置くことで客観性を担保できるのではないか」と、ヒントを得られたことが結果として突破口となりました。この視点により、職務発明規程に「客観的にみて妥当な基準」を設けることができ、ビットキー特有の制度として整備できました。

*5 特許のアイデアを受領してから実際に出願するまでの工程を踏まえたスケジュールやサイクル

*6 社内で生み出された発明を「職務発明」といい、それを社内でどのように取り扱うかを定めたものを「職務発明規程」という

── 今回の表彰で「魂を込めたい」というキーワードが印象的でした。今回の取り組みにおいて、最も魂を込めたポイントはどこですか。

資料作りに最も魂を込めています。というのも、定例の会議などにおいて、知財の説明に割いてもらえる時間は少ない場合が多いためです。そのほとんどは30分にも満たないか、時には10分程度で状況を理解してもらわないといけないことも。
正確に判断してもらうためには工夫が必要だと考え、どうしてそう考えたかの根拠と、その選択をした場合のメリット・デメリットはなにか。自分であれば、どうしたいかの意思も合わせて伝えるようにしています。

チーム内やマネージャーに対しても、短い時間で検討内容を伝えきり、その内容に間違いがないか判断してもらう必要がある場合などにおいても、直感的に理解してもらいやすい資料作りを心掛けていますね。

特許などにつながる可能性を秘めたアイデアひとつとっても、他に手法はないか、他社様ではどうしているかなど、色んな視点から「抜け」がないように検討します。そして、その思考の過程やアイデアを意図に沿う形で伝えるために、シーケンス図や文章、表、時には手書きの絵など、あらゆる手段を使って説明していくんです。
この工程が本当に大変なのですが、理解してもらえたり、「いいね!」と言ってもらえることに一番やりがいを感じています。

── 最後に、個人としての課題や今後の展望について教えてください。

現在、知財として、あらゆる場面で本領発揮し、対応できるようにと「種まき」を行っている感覚なんです。その「種まき」を無理なく、でもスピーディーなスケジュール設定でサイクルを回せるように整えていくことが課題です。そのために、どの業務においても明確な基準を設けて、誰もが理解できるマニュアル等の「型」を作ることが、次なるステップだと考えています。

ビットキーの知財としてチームや取り組みを発展させていくのはもちろんですが、自分自身も持続可能であるために、ちょうどいいバランスを見つけることも大切にしたいですね。手探りではありますが、その「解」を見つけていきたいです。

◆編集部より

一見すると普段は控えめな印象の北代さん。しかしその胸の内には、まるで薪をくべるような静かなる情熱を燃やし続けていました。「魂を込めたい」という言葉で表現されたその熱い情熱は、今、ビットキーの社内でも多くの共感を呼んでいます。

次回のHigh Standard Interviewシリーズに登場するのは、北代さんと同じく「熱く燃える」カスタマーサクセスチームの島崎さんです。お楽しみに!

※このページの情報は掲載日時点のものです。

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