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「注文通りに作れば絶対に失敗する」。僕が道しるべにしている言葉たち

製品が世に出るまでの道のりは、山あり谷あり。行き詰まったり、時には自分の仕事観が問われたりするような場面もあります。
ソフトウェア製品の開発担当である正岡宏規さんは、かつてともに働いた人たちからもらった言葉を道しるべにしながら、開発の仕事に臨んでいます。

「評価は後からついてくる。最も高い成果を出した瞬間についてくるとは限らない」
「製品は、特定の顧客に通用するものではなく、広く通用するものを」
「注文通りに作れば、絶対に失敗する。製品の目的は、開発者が定義しなければいけない」

先達からの金言の数々、教えてもらいました。

正岡 宏規 

高校時代、学生と教師間のコミュニケーション不足を解決するため、掲示板システムを独自に開発。この頃から情報分野に興味を持ち始め、大学は電子情報工学科へ進学。将来、ソフトウェア製品の開発業務に関わることを目標に、ハードウェア製品の開発分野に注目し、半導体デバイスの作成プロセス適正化に関する研究などを行う。新卒では大手ERPパッケージベンダーに開発職として入社。建設業界向けの会計システムの開発を牽引。現在ビットキーではHome事業にてhomehubのソフトウェア製品の開発を牽引している。

「1つの操作で100の効果を生む」魅力

正岡さんは、高校2年生の授業がきっかけでシステムエンジニアの道へ。生徒と教師をつなぐ「掲示板」のシステムを作り、手応えを感じたといいます。

正岡:生徒たちの親から「引き続き使いたい」といった高い評価を受けました。黒板の文字は黒板の前に行かないと読めないけれど、インターネットの掲示板なら黒板の前に行かなくても全生徒が共有できる。コンピューターは、1つの操作で1つの結果でなく、100の効果を生むことができるところに魅力を感じました。
僕は人前でスピーチすることが苦手で、黙々と作業をするのが好きです。予測不能なことに振り回されるより、インプットした通りにアウトプットできるパソコンにも安心感を感じます。

「山の民」から授けられた仕事観

大学は電子情報工学科に進み、2016年にソフトウェア会社へ入社しました。

正岡:同期は約1000名。会社に慣れた2年目の冬に、建設会社向けのシステム開発の担当になり、時には会社で朝日を見ることもありました。
設計からリリースまでの担当でしたが、チーム内でシステムを理解しているのは僕だけ。不具合が出ても相談相手はいない。連日、寝る間を惜しんで頑張ったけれど、納期を遅らせることになり、初めて挫折を味わいました。

担当になって半年後。プロジェクトを立て直すため、別の部署から大量に人材が投入されました。彼らは社内で、漫画『キングダム』(*1)のキャラクターになぞらえて「山の民」と呼ばれていました。

正岡:イケイケだった別の部署の上司が、ボロボロだったうちの部署にやってきました。漫画『キングダム』で、疲れきった秦国の民を救うため山から下りてくる「山の民」に、秦国の民が教えを乞う場面があります。僕も社内で「山の民」と呼ばれていた上司から、モノづくりの基礎を教わりました。

上司から最初に言われたのは、「緊急度が高いものを優先しすぎて、優先度が高いことを後回しにしてはダメ」ということ。
「少年サッカー」で例えると、少年は目の前に来たボールを蹴ってしまいがちです。僕たちも、不具合の報告を受けると、すぐに修正しようとしてしまいます。でも、目の前の不具合を直すことが、本当に優先順位が高いとは限らない。緊急度が高くても、「いつまでなら待ってもらえますか?」と交渉して、プロジェクト全体を俯瞰すれば、限られた時間をより本質的な問題の解決に充てられます。
ほかにも、「注文通りに作れば、絶対に失敗する。製品の目的は、開発者が定義しなければいけない」「製品は、特定の顧客に通用するものではなく、広く通用するものを考えなさい」と言われました。これが、僕の「仕事観」になっています。

お客様の要望は、大抵の場合、登場人物を整理すると機能も整理されます。僕たちのチームは、スコープの握りが甘くて、お客様の言うがままに機能追加を重ねた結果、想定と違うものを作っていたのだと気付きました。大事なのは、設計の初期段階から、お客様のやりたいことを整理して、システムを使う人を洗い出し、その人が使いやすい機能を考えることだと学びました。

*1 原泰久氏による漫画。集英社より発刊。

退職の相談で上司から言われたこと

パワーアップした正岡さんですが、再び挫折を味わいます。

正岡:入社して4年目の春、部署内で「成果発表会」があり、死に物狂いで準備した僕のチームは「最優秀チーム」に選ばれました。僕が大半の機能を作ったので、当然、良い評価をもらえると思いましたが、評価は上司のものとなりました。
僕はアピール下手で、チーム以外の人に、僕の存在は知られていませんでした。そこで初めて、与えられた役割をこなすだけでなく、1つか2つ上の立場で考えて行動しなければ、高い評価が得られないことに気付きました。
ふてくされていた僕は、部門長に転職を相談。部門長は「評価は後からついてくる。最も高い成果を出した瞬間についてくるとは限らない」と引き留めてくれました。

8カ月後。7人チームの開発リーダーとしてマネージメントを任され、やっと高い評価を受けるようになったといいます。

正岡:当時は「ようやく世間の評価が追い付いてきたか」ぐらいに、うぬぼれていました(笑)。ただ、同じ頃、僕のチームは開発が行き詰まっていました。このまま製品を作り続けても、その先に稼働できる品質にはならないと思う瞬間があり、上司に「抜本的に見直して、作り直しましょう」と提案して、僕がチームを引っ張ることになりました。

1年間かけた製品を、約2カ月間で作り直すには、体感で5倍くらい働かないと間に合いません。でも、自分の提案が通り、実行できたので、作業は充実していました。社内の評価はどうでもよくなり、「良い製品を届けたい」その一心で働いているうちに、社内の評価も上がりました。

入社5年目の12月、ついに4年間かけた製品が稼働判定を通過。コロナ禍でリモートワーク中だった正岡さんは、家でひとり泣きました。

正岡:叫びたくなるような気持ちでした。まだ、次のことを考えるほどの余裕はなく、ただ、「やりきった!」という達成感に包まれました。
奮発して「特上寿司」の出前を注文し、1人でモソモソと食べて。よく眠って目が覚めると、新しいことに挑戦するタイミングが来たような気がしました。

ユーザーの対象は“全世帯”

製品が安定して稼働していることを見届けた正岡さんは、完成から半年後に退職。3カ月ほど休養を取り、2021年9月、ビットキーに入社します。

正岡:退職時は、ちょうど6月のボーナスの時期でした。気分転換をしたかったので、まず、バイクを購入し、スポーツジムの「RIZAP」にも申し込みました。不規則な生活で体がたるんでいたので、刺激が欲しかったのです。手に入るリターンが大きいことがモチベーションとなり、3カ月間で12キロ減量しました。

休職中、友人の紹介でビットキーも訪問しました。一般家庭向けのサービスをつくっているので、自分自身もユーザーになれるところに魅力を感じ、ほかの会社の内定を断りました。生活が便利になる手応えを、じかに感じられるのが面白いし、ユーザーの母数が、従来のような特定の業界・企業相手ではなく、“全世帯”に広がるのもポイントでした。
ビットキーは、ソフトウェアとハードウェアの両方を開発しています。現在、ソフトウェア業界は、似たようなサービスが乱立して、企業はサービスの組み合わせに知恵を絞っています。でも、組み合わせには限界がある。ソフトで解決できない領域にハードも組み合わせれば、もっと広いモノづくりができると思っています。

開発の速さがもたらす「生活の変化」

ビットキーでは、分譲マンション向けのサービスを開発する部門に所属。職場で、スピード感と、個人のスキルの高さに驚いたといいます。

正岡:サービスを生み出す速さは、想定を超えていました。前職では製品のリリースに4年かかりましたが、ここは、長いプロジェクトでも2カ月〜半年ほど。スピードが早ければ、フィードバックも早いので改善しやすい。生活が徐々に変わる様子も実感できます。
ベンチャー企業なのに、新入社員へのフォローが手厚いことにも驚きました。配属先では、業務に慣れていなくても取り組める作業から段階を踏んで渡されます。最初の仕事は、オンライン上の報告機能に写真を張り付けるための機能実装を任されて、あっさり完了したのを覚えています。

メガベンチャーや大企業の場合、1つの機能を分業してつくることが、よくあります。でも、ここは開発者一人ひとりのスキルが高いので、それぞれが複数の機能開発をフロントエンドもバックエンドも並行して担当しています。誰かの指示を待つことなく、自走しているところが格好いい。ビジネスサイドも、顧客の業務背景や使用方法を熟知して、ニーズを的確に説明してくれます。
わからないことがあった時、誰もが1から丁寧に説明してくれるので「心理的安全性」が高く、安心して挑戦できる職場だなと感じます。

「顧客が最も必要とする10」を完璧に仕上げる

正岡:労働時間は、前職ほどではありませんが、楽ではありません。大阪拠点には、エンジニアが僕しかいないため、土日も仕事が入ることがあります。リフレッシュしたい時は、愛車のバイクを1時間ほど飛ばして、大阪府内の海や山で、ぼーっとします。

今は、仕事で得られる達成感が、プライベートで得られるものより、高すぎるので仕事に打ち込んでいます。プライベートがほとんど無いので、楽しさを知らないからかもしれません。早く良い報告が出来ると良いのですが……(苦笑)。

現在は、社内外の関係者12~13人のチームを束ねています。前職の失敗や、苦い経験を生かすべく、試行錯誤の日々だといいます。

正岡:ビットキーは、人数に比べて、やることがめちゃめちゃ多い。やりたいことは100個あっても、今のリソースでは、すべてをやりきれない。入社当初は、どこから着手すれば良いかと悩みました。
少し前に居住者のオンライン総会用の投票システムを開発しましたが、チームに入って2週間ほど過ぎて、「このチームは、不具合の修正しかしてない」と気づきました。そこで、顧客の不具合を報告してくれるビジネス側に「パイロット版の不具合を1つずつ修正しても意味がありません。抜本的に作り方を変更するので、少し猶予をくれませんか?」と話しました。

前職では激務が長く続いたため、離脱するメンバーが多くて、悔しい思いをしました。現在は、みんなが納得するスケジュールを組むために、本当はやりたいことが100あったとしても、顧客が最も必要としている10に内容をしぼって、そこを完璧に仕上げるようにしています。

ビットキーでの野望ですか?
大きなことを言えば、すべての不動産会社に、うちのhomehubを使ってもらいたい。ユーザー数で言うなら、1000万人ぐらいの人に、僕たちの製品を使ってもらえたらいいな、と思います。
僕は壮大に夢を語るタイプじゃないので。


「What's your "KEY"」 とは

ビットキーってどんな会社ですか? 
面接などで、よく聞かれる言葉です。毎度うまく説明しようと試みますが、私たちも、十分伝えきれていない気がしています。
ビットキーには、この会社に何かしらの魅力を感じた人たちが集まっています。これまでたどってきた道は様々で、その人自身の持ち味も様々です。
いまはまだ、うまく説明できないこの会社の魅力を、彼/彼女たちの語りから感じ取ってもらうことはできないだろうか。
同時に、その人となりも伝われば。
そんな想いから、新シリーズ What’s your “KEY” を始めます。
あなたをこの会社に導いたものはなんですか?
この問いかけから、ここに集う人たちの思いや、この会社が持っているなにかが浮き彫りになれば、と思っています。