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糸こんもみじこ

昨晩、ひとりで居酒屋へ行った。金曜の夜くらいは仕事をすぱっと早く切り上げて、3連休前の開放的な気分に漂いたかった。

たまには新しいお店を開拓しようと、金沢駅からあるいて10分くらいの居酒屋へ行った。グーグルマップでたまたま見つけて、車麩の卵とじや、糸こんもみじこ、梅貝煮、ハタハタの唐揚げなど、いかにも金沢の居酒屋らしいお品書きにひかれた。「もみじこ」とはタラコのこと。糸こんを「もみじこ」で和えたら、想像しただけでも燗酒に合う。

6時半くらいにお店の前に着く。外からお店の中の様子をうかがうと、カウンターにはサラリーマンらしき二人連れ、テーブルは空いている。2階はお座敷があるのか障子越しに人影が見える。

お店に入るとカウンターに案内される。今日は寒いので最初から燗酒にしようとお酒メニューを眺めると、お酒の値段はお手頃、安いので500円から。福光屋の黒帯が700円とあったので、大きいとっくりで燗をつけてもらう。

突き出しはホタルイカと菜の花のぬた。春にはすこし早いが、春らしくていい。二人連れは、牛すじ煮とお造り注文、手元には車麩の煮物がある。聞こえてくる話のないようからすると、県外から来た取引先を地元の企業の人が食事に誘ったような雰囲気。

ひとりなので、お刺身と何か一、二品かな、はじめての店なので一人前の分量がわからないから、とりあえずお刺身を注文して様子をみるか。お刺身はこの季節なので鰤にしようか。脳内で会話しながら鰤のお刺身を注文。

鰤の刺身にはわさびと大根おろしが添えてあった。確かに脂がのった鰤には大根おろしがよく合う。刺身醤油は甘みがあって私の好み。二品目は、牡蠣の天ぷらと白子の天ぷら、どちらにしようか迷い、白子にする。

店内の掃除も行き届いて、整理整頓されていて、ご主人も女将さんも、むやみに話しかけてこないけれど、そこはかとなく愛想がよくて、料理も気が利いている。値段もそんなに高くなさそう。今日はいい店に来たなと、ちびちびと酒を飲みながら白子の天ぷらを待っていた。

そこに、不幸のチャットが携帯に着信。会社から休み明けの火曜日までに資料を準備しろとのこと。あー、一気に感情が乱れる。料理も酒も落ち着いて味わえなくなる。仕事をどうやってやっつけるかし考えられなくなる。

傍から見たら、さきまでの脳天気なぼんやりした顔してたのに、この世の不幸を一心に背負わされたような絶望的な表情に変わっているはずだ。せっかくの揚げたての白子の天ぷらを前に、食べることに集中しようとするのだが、もう頭の中は仕事のことでいっぱいで収拾がつかなくなる。食べることに集中できない人がお店の中にいたら雰囲気が悪くなるような気がして、パクパクと5口ほどで白子の天ぷらを食べ、残りのお酒もぐいと飲みほしてお勘定して店を出た。

せっかくいい店だと見つけたのにもったいないことをした。次回はじっくり腰を据えてのみたい。それにしても「糸こんもみじこ」が気になる。

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