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母の想いを知った日

ついにこの日が来た。


ついこの間まで本当に小さくて目も開いてなく可愛かったのに、


それから僅か1週間足らずで巣の中に体が収まりきらないほど大きくなり、

そしてついに私の可愛い子どもたち、いや、ツバメのヒナたちが巣から旅立ってしまった……


生まれてから飛び立つまではほんの3週間ぐらいだろうか?いや、人間の寿命に当てはめて「ほんの」と言ってしまっては失礼だな。約3年ぐらいと言われてるツバメの寿命からしたら、本当に貴重な3週間なのだから。


「ジョージはまたツバメの話かよ!たまには時事ネタなどの世間で話題になってる話でも書けばいいのに。しかし本当につまらん男だな……」


俺の記事を読んでくれてる人の中にはそう思う人もいるかも知れない。確かに時事ネタを書けば毎日書くネタに困る事もないし、何より俺が毎日ノリノリで文章を書けることは間違いない!


それはなぜなら、俺の中にはドス黒いドロドロとした浅はかなミーハー心が常に宿っているからだ。


しかしだ!


もし俺が誰もが知ってる時事ネタを毎日書いたとしたら、俺の意見とは違う感想を持ってる人に不快な思いをさせてしまうかも知れないし、それに時事ネタに付随して有名人などの事を批判的に書いてしまったら、その人を好きな人にも不快感を感じさせてしまうかも知れない。だから俺は時事ネタは書かないように気を付けてるのだ。


このような理由から俺は時事ネタには目もくれず、しつこくしつこく田舎ならではのツバメのヒナたちの成長記を書いている。


そして、これは禁断かも知れないが、俺はハチなどの虫を捕まえてヒナたちにたまにエサをあげたりしてたのだ。


俺がね、ハチをヒナたちの目の前に持って行くと嬉しそうに必死に口を開けてエサを求めてくるんだよ。「てめぇ〜!さっさとエサ渡せぇ〜!!このエロガッパめぇ〜!!」などと、ヒナたちは本当はこう思ってたかも知れない。いや、もう何を思ってたって構わない!


この一生懸命に口を開けてエサを貰おうとしてるヒナたちの姿を見てると俺の胸がキュンとなった。


なんだこの気持ちは?


もしかして、恋?


いやいや、まさか恋ではないはず。


ならば、まさか、まさか、これが母としての想いなのか?


もちろん、本当に子供を産んだ母親の気持ちになんか俺が絶対になれるはずもないし、そう簡単に母親の気持ちになれるほど母の想いが軽いものじゃないのは分ってる。


でも、しかしだ。


この目の前の小さな小さな命が一生懸命に食べ物を求める姿、そして、少しでも目を離すとあっという間に命の灯火が消えてしまう儚くも美しい命を見ていると「絶対に守る!絶対に育て上げる!」という想いが俺の心の中にふつふつと湧き上がってくるのを感じたんだ。


そして俺はこの夏の暑い日中にヒナたちにとびきりゴキゲンなご馳走を届けようと家の周りを駆けずり回ってヒナたちにエサを与えていた。


でもね、だんだんと羽根が生えて体も大きくなるヒナたちを見てると、なぜだか寂しくなってきたんだ。


なんだ、この切ない気持ちは?


ヒナたちが無事に元気に大きくなってるんだぞ?


喜ばしいことじゃないか?!


なのになぜ、俺の中に寂しいと思う気持ちが湧き上がって来るのだ??


そしてついに、ある時から俺がエサを持って行ってもヒナたちが口をまったく開けなくなり、そしてあんなに余裕があった巣の中の間取りがなんとも窮屈なほどにヒナたちが大きく大きく成長していった。


その姿を見て、俺の心はさらに寂しくなった。


もう俺のエサを必要としてないヒナたちの姿に寂しさを感じるのだ。


この時、俺はある事を思い出した。


小学校4年生ぐらいの時かな。夏休みの夜に怖いホラー映画を見た時があった。俺は恥ずかしい事にその日の夜にホラー映画の事を思い出して怖くて寝れなくなり、夜中に母親の布団の中に潜り込んだ。


その事を次の日に母親は嬉しそうに帰省していた親戚の叔母たちにバラしてしまった。俺は恥ずかしさのあまり、それから二度と母親の布団には潜り込まなくなり、そのまま俺は本格的な思春期を迎えた。


思春期の俺は母親とはまともに話もしなくなり、自分の部屋に母親が入るだけで不快感を表し、部屋の掃除をされただけで文句を言うようになっていった。


ホラー映画が怖くて母親の布団に潜り込んでたくせにだ。


思春期の俺は、この時の母の気持ちなんて考えもしなかった。


でも、今はこの時の母の想いが分かる。


俺が巣の中を覗いただけで、あんなにも一生懸命に口を開けて俺を求めてくれてたヒナたちが、まったく口を開けなくなった時の寂しい気持ち。


この気持ちこそが、思春期の俺を見てた母の想いなんだね。


そして今、空っぽになったヒナたちの巣を見て俺はまた昔を思い出す。


俺の就職が決まり、そして俺が実家から出て行ったあの日。


生活に必要な物を父親と母親とで引っ越し途中のスーパーで買い物に行ったあの時、あの時に母親はなぜだか大量のボックステッシュを買ってくれた。


「なんで、こんなに大量のテッシュを買い込むの?」


俺はその時、不思議に思ってたが、そうなのだ。親はなんでもお見通し。子供が隠れて何してるかなんてお見通し。思春期の俺が親に隠れて1人ハッスルしてるのなんてもちろんお見通しで、そのために大量のテッシュが必要だと思ってのボックステッシュの大人買いだったのだ。


そうして俺を就職先の寮に送り出し、一息ついて家に辿り着いた時の母の気持ち。


今まで俺がいた部屋を見た時の母の想い。

 

俺の荷物が無くなり、空っぽになった部屋を見た母はきっと寂しさを感じたはずだ。


ヒナたちが旅立った後の巣を見て寂しさを感じた俺のように。


エサをあげてたと言っても、俺はほとんどヒナたちに何もしてない。なのにこんなにも寂しさを感じる。


俺を就職先に送り出した母の寂しさは俺の感じた寂しさの比じゃなかったんだろうな………


まさかこんな形で母の想いを知ることになろうとは……

 
今になって母の寂しさを知り、母の想いを知ったとしても、実際には母にまともな感謝を伝える事が今だに出来ず、そのかわりに誰が見てるか分からないネット上では自分の想いを書き殴っているこの矛盾。


しかし、直に感謝を伝えられないとしても、ヒナたちの旅立ちによって母の想いを知れただけでも良かったと今は思う。

 
でも、今は母の想いに気付かず、キツイ言葉を連日母親に投げかけてる思春期の子供たちは全国に多数いるだろう。


しかし、いつか自分が親になった時に知るのだ。


母の想いを。


俺のように母の想いを知ってなお何も言えずに過ごすより、誰もが早い段階で母の想いを知って、素直に感謝を言えるようになることを祈ってます。



今日は母の想いを知った日。



そしてそれは、親の大きな愛情に包まれてるのを知った日でもあった。

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