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GOLD

 それは芝浦にあったCLUBの名前。


 時代はクラブでしょう?そんな人々の賑やかな喧騒の中、大箱の空間で鳴り響く忘れられない曲が、CeCe penistonの【Finally】だった。

 雑多な空間に集う人種はさまざまだけど、共通してるのは“音楽がこの上なく好き”ということ。
勿論、自分のdanceに自信がある人、ただのナンパ目的という人も。所謂、文化人の社交場でもあった。

 薄暗い照明の下で、非日常と欲望が蜘蛛の糸のように巣食うかと思えば、次々と新しい音楽が流れる度にリセットされて、戯れるメンツも変化する。留まることない時間を愉しむ世界だ。

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 服飾系専門学校に通いながらバイト。その日はモーターショーのコンパニオン帰りからのクラブだった。
あの頃は寝る間も惜しんで、興味あるものに片っ端から飛び込んでは、戻って死んだように束の間の睡眠を貪る生活。

 偶然に居合わせた者同士、自然と横に一列に並んで踊りだす。
大人気分でBARで頼んだモスコミュールを片手に、隣にいたのが年上の彼(27才)だった。
着ていたファッションは、ふたりして同じ古着のリーバイス501とアニエス・ベーのシャツ。

 人間は不思議な生き物だ。薄暗いはずなのに向けられる視線には気付いてしまうのだから…

 恋の予感なんていきなり始まるもの。
 今この瞬間が良ければ、それでいい。
 寧ろ時間制限を設けた方が盛り上がる。

 このクラブが素晴らしかったのは、提供されるメニューのクオリティーの高さ。食事からデザートまで評判があった。
アルコールに強い訳でも慣れてる訳でもないわたしに、彼が注文してくれたのは、ミルクシェーク。トッピングにさらにバニラアイスと生クリームが溢れんばかりにのっている。

 甘い甘ったるい魅惑の味と、其れを一口ずつわたしの口に運んでくれる優しい彼の瞳の中に映る自分を、時々、冷たい銀色のスプーンで醒ますのだ。
頬が赤く染まっていても、この薄暗い下なら、きっと気付かれない。

 ふいに彼の強い視線と指先の温度を感じる。

 重い深夜が灰色に明けた頃、そんなスモーク感で人々もそれぞれの日常に戻っていく。夢の終わりの気怠さと横顔に残る哀愁と、そんな彼の車の助手席でふ頭からの眩しい朝陽とハンドルを握るその手を見つめていた。
水面に反射した光がキラキラして、その行方は一体何処に消えていくんだろう。

 自宅の近くまで送ってもらい降りる。
とりあえず「またね」とお互いに手を振った、
品川ナンバーのポルシェ。

 (夜明けのコーヒーでも飲んで行きませんか?)
と後少しで言いそうになる唇を詰むんで、
その無意味さと、よく分かってない恥ずかしさと、

 (ああ、もうとっくに夜明けじゃないし…)
という矛盾を抱えたまま、渡された名刺をくしゃりと捨てて、

 静かに自販機でイオン飲料水を買うのだった。

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缶バッジやステッカーもあった。もう手元には残っていない。全て記憶の中に。


今でも耳にすると踊れるし、あの頃にトリップする。改めて音楽って素敵だと思う。


#GOLD #芝浦ふ頭 #CeCepeniston
#Finally #記憶は音楽とともに #エッセイ   #振り返れるのも大人の良さ




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