地下のおんな。
上京して間もない頃、『ファッションなら見えないところから…が肝心よね』なんて、
そう思い立った19歳の頃。数分前に、109からは出てしまっていた。
しかし、どうしても欲しい…
渋谷の地下街にある下着屋に行った。
よくある街の雑多な小さな店の連なる通路。
もう記憶も朧げ。
ただ、その下着屋に居た【おんな】はよく覚えている。
呼ばれたとしか思えない。
その【おんな】は年齢不詳で、体型は痩せている範疇をはるかに超えるガリガリで、黒髪のワンレングス、黒地に赤い薔薇柄のボディコンシャスな服、足元は赤いエナメル素材のハイヒール。むせるような香水。その当時でも異質で異色。
とても強烈だった。
(吊された下着ジャングルを掻き分け入って、正直後悔した)
画材を抱えた、Tシャツに古着のジーンズにコンバースという10代を、ひと目見るなり、【おんな】は、ニヤニヤ笑いながら、目の奥で獲物を狙う魔女のような鋭い光を放っていた。
(あ、今は全品セール中なんだ…)
「女にとって身体に身につけるものは大切よ。まずは身体に合うサイズからね」
手際よく、トップ、アンダー、と採寸された。
手際よくとは言ったけど、強引な感じだった。
上から力任せに、(手掴みされたヒヨコ)のような気分になる。
『欲しいのは、上下セットで、色は白か水色がいいです』と伝える。
だが、【おんな】から返ってきた言葉は、
「白?水色?そこのワゴンにあるかもね…それよりも、こっちよ、おすすめはね」
指差す先には、漆黒の華美なセットが…高そうな。
(いや、違うし、要らないし)
販売員というものは、決して自我を出してはならない。まして強引に商品を勧めるなんて論外。
相手に配慮しない、自分本意な感情はすぐに判る。
優先されるものは【お金】が一番という人も判り易い。
(要するに、目の前のカモに売りつけたいだけ)
『じゃあ、ワゴンから選びます。これでいいです」
「これには、シリーズでスリップもあるから、
絶対に必要よ」
『今は要らないです』(強めに)
「でも〜」(引き下がらない)
(納得いかない表情が、モロ顔に出てる)
レジで会計をして、レシートを確認する。
割り引きになっていなかった。
(ここで、わたしも完全に態度を変えた)
【おんな】にハッキリと見えるように、レシートを提示してから、小声で低めに、
『おかしいですね…?割引されてないようです…
三割だと〜円になりますよ?この金額を引くと…小学生でもわかりますよ』わざと嫌味に暗算で伝える。
【おんな】の顔が凍り付く。あり得ない事態のように。
「忘れてたのよ」と、長い爪先のネイルを気にしながら、慌てて返金しようとする行動を遮るように、
『別にいいです。このままで。この店には二度と来ませんから。ただ、消費者のひとりとして言わせてもらえば、貴女の接客は無しだと思います』
正直なところ【おんな】に逆恨みされない為に、返金させなかった。等価交換の仕組みやバランスは、プラスマイナスだけでは無いから難しいと思っている。感情を持つ人間同士。厄介な場合も。どうしようもない事柄には、敢えての持ち出しと支払い、自分側をマイナスにすることにより【チャラ】にする。
【循環】に戻り滞らせること無く。
それは無いようで確実に有る世界。
後、お金というものは、人の念も入り易い。
命に関わる場合もあるだけに、本当の意味で、お金の使い方、扱い方は、学生時代に学ぶことが重要だと思っている。
お金は天下の回りものだから。
【なんでも欲しがり過ぎるのは毒になる】
人は外見では無いけれど、外見から察することも出来る。
良い意味で裏切ってくれたら最高でもある願いも持ち合わせながら。
どちらにしても、シンプルに正々堂々で在りたい。
買い物は心地良くさせて欲しい。
そう思ったエピソードでした。
あの店は、遠い記憶のはずなのに、
あの【おんな】の気配と視線、
同等のものを感じてしまうと、
言葉を失う時がある。
(世にも奇妙な物語☺︎)
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