お茶農家さん、ペットボトルのお茶ってどうですか?
あ、暑いですねえ……。
暑い時期は好きだけど、身体に熱がこもるのは苦手なライターのヒラヤマです。毎年、京都の暑さに恐れをなしています。
これからより意識しないといけないのは水分補給。我が家ではガラスの急須にお茶っぱをポンポン入れて、それを水出しにしてグビグビ飲んでいます。
というよりもここ数年、ペットボトル飲料をなるべく買わないように心がけています。環境負荷の観点が大きな理由ですが、やっぱり自分で入れたお茶っておいしいんですよね。コスパもいいし。
でも、道を歩けば・コンビニに行けば、ずら〜っと並ぶペットボトル飲料の数々。ペットボトルのお茶が販売された時「お茶なんて急須で入れるのに売れるわけがない」って言われてたらしいですが、いまやすっかりお茶は自分で淹れるものから外で買うものになってしまいました。
ペットボトルのお茶って実際どうなの?という疑問を、京都の南端、お茶の一大産地である和束町のお茶農家に生まれ、自身もお茶をテーマにした農家民宿を営んでいる北紀子さんにお話を聞いてきました。
和束で農家民宿とコミュニティスペースの制作も
北さんは、和束の地で代々続くお茶農家の娘。かつて北さんのお祖父さん・お祖母さんが住んでいた母屋を農家民宿「えぬとえぬ」に改修し、女将をつとめています。
宿泊者は紀子さんのガイドによる茶摘み体験や、北家のお茶と和束の山の恵みをふんだんに使ったフルコースを楽しむことができるほか、お風呂の入浴剤も茶葉だったり、朝には茶粥を楽しめたりとお茶づくしの1日が楽しめます。
個人的にはお茶があり、おいしい水があり、柿や山菜・野草など山の恵みがそこかしこにあり、ちょっと歩けば美しい茶畑に野山の花が彩りを添えていたりして「和束の空気」を存分に味わうことができるのが魅力だなあと思います。
また、最近では民宿だけではなく、山の奥の方にある空き家を改修して、ワークショップやマルシェを開催できるコミュニティスペースも制作中。民宿のお客さんでなくても、気軽に和束の土地を楽しめるようガンガン活動しているバイタリティ溢れる人です。
といっても、北さんとは10年来くらいの友人なので、取材というよりも、電話で井戸端会議したような感じなのですが(笑)
ペットボトルのお茶に溢れかえる世の中をどう思う?って話をするうち、令和時代の豊かさって一体なんだろうね?という深い問いにまで発展しました。
お茶農家もペットボトルのお茶は飲む
ー:やっほー。元気?
北さん:元気やけど、先週はやばかった。家族全員が大風邪ひいてんやんか。息子が保育園から菌もらってきてダウン、息子から旦那さんと私に移って……。
ー:唐突に地獄絵図の話はじまった……。
北さん:全く布団から動かれへんしもちろん台所にも立たれへんから、ちょっと回復した隙をついて自販機にペットボトルのお茶買いに行ってんけど、あれは助かったわあ……。
ー:あ、お茶農家でもペットボトルのお茶飲むんやね。
北さん:飲むで!ペットボトル飲料って便利なもんやもん。フタ開けなかったら常温で何年ももつし、全国どこでも、いつでも買えるってすごいことやと思う。そもそも、めちゃくちゃ喉乾いてるとか、めちゃくちゃ疲れてる時とかにお湯沸かしてお茶淹れて……なんてなかなかできへんよ。
ー:作り置いてるならともかくね。
北さん:そもそもお茶って、心にも時間にも余裕がないとおいしいって思われへんと思うねんな。テイクアウトとか冷凍食品があるみたいに、お茶だってインスタントに飲めるものがあっても私は全然いいと思う。
水分補給と一服は似て非なるもの
北さん:ペットボトルのお茶はすごく便利やけど、急須で淹れる一杯とは別物。水分補給にはなるけど、「一服」ではないと思うねん。
ー:真理きた……!
北さん:リーフで淹れるお茶って「ちょっと一息つこか」って仕事の手を止めて、お湯沸かして急須で淹れて蒸らして……。5分10分、それだけのために時間を費やすことで心安らぐ一杯ができあがる。その一杯を飲みながら、リラックスするのが一服。ペットボトルのお茶しか飲まない人も多いと思うんやけど、それだけみんな余裕がないのかもしれへんよね。便利が積み重なった結果、最後に人がもっておかなければいけない一服の時間まで取られてしまったような……。
ー:便利さの弊害やんね。便利になるから時間に余白ができるかと思ったら、そうじゃないことも世の中以外とある。スマホでいつだって連絡が取れるようになったぶん、常に「既読無視」が気になっちゃうとか。最近、サブスクで配信される映像を早送りで観る人が増えてるらしいねん。
北さん:え……どういうこと!?
ー:クライマックス以外の会話シーンとかは飽きちゃうから、倍速で観るんやって。すごくない?それって。映画館で映画観るときはさ、べつにそんなこと思わへんわけやん。なんでも便利になって、なんでも身近に手に入るものがあるっていうのも実は考えものなのかもね。
ほっと一息つくお茶の時間が、自己肯定感を育てる
北さん:世の中便利が過ぎて、いわゆるスキマの、何もない時間がなくなってる気はするやんな。
ー:テトリスみたいな感じでタスクを埋める生活になりがちやんね。映画倍速で観たら1本分の時間で2本観れるもんな。
北さん:お茶を淹れてる時って、時間そのものを慈しむっていうのかな。あ、もちろんコーヒーでもお酒でも、なんなら飲料じゃなくてもいいんやけど。自分のため、誰かのために費やす時間をつくるって大事なことなんよね。うちのルーティンなんやけど、曜日によってお茶を変えたりするねん。
ー:たとえばどういう?
北さん:金曜の夜は、息子寝かせたあとあったかいほうじ茶飲もうとか。土曜の朝は気分をしゃっきりさせるために抹茶点てようとか。私がお茶を選んで淹れるんやけど、それに合わせて旦那さんがお菓子買ってきてくれるね
ん。
ー:めちゃくちゃいい夫婦団欒!
北さん:あと、息子がもう少し大きくなったら、毎日のお茶は息子に淹れてもらおうと思っていて。
ー:ほうほう。
北さん:子どもの発達段階で生じる興味関心に応じて、その関心を実現できる環境を用意してあげる教育方法があるねん。「モンテッソーリ教育」だったかな。自分でなんでもやりたがる時期がきたら、きっと家事もやってみたいって言うようになってくると思う。その時に「これはあなたの役目ね」ってお茶を淹れてもらうようにできたらいいなって。
ー:いいね。子どもと一緒になにかをやるのってめっちゃ大事やもんね。
北さん:うちは毎日お煎茶を飲むから、それを息子に任せることで息子の自己肯定感や達成感を育んでもらおうかなって。家族全員ぶんのお茶を淹れてくれたら、家族の一員だっていう意識も高まると思う。さすがにお湯は大人が沸かすけど、湯冷ましなら子どもが触っても安心やし、暑い時期は水出しのお煎茶つくってもらうとかでもいいなって。
ー:おいしいお茶を淹れられるって、たしかに自己肯定感あがるよね。これは大人もそうやと思う。自分で自分が一息つけるものをつくれるって、素晴らしいことよ。
北さん:うんうん、お茶って簡単に生活に潤いを与えられる。おいしいお茶を淹れられたら自分を褒めたくなるし、一服の時間が会話を増やすし。ペットボトルでしか飲み物を飲まないって人にも、急須でお茶を淹れるひとときがもたらす豊かさを味わってほしいなあって思うなあ。
お茶を茶葉にすると環境を気にするきっかけになる
ー:あと便利やけどさ、ペットボトルっても〜〜〜〜のすごくゴミでるやん。
北さん:わかる!!!体調崩した数日間で、ペットボトルのゴミが大量に出てびっくりした。しかも分別も面倒すぎる。ラベルはがして、ラベルとフタはプラスチックゴミ、ボトルはペットボトルゴミ……。
ー:私、あのゴミ捨てが面倒やからお茶淹れてる節はある。楽できて環境にもいいってええよな〜。
北さん:そうそう。日常的に飲むお茶を茶葉のものにするだけで、ひとりがかける環境負荷って減らせるねん。小さい事とかもしれへんけど。忙しくて、外食するか何か買って帰ってばっかりの人も、お茶だけでも自分でつくることからはじめて欲しいなと思う。あったかいお茶が面倒やったら、でっかいコップにお茶っ葉入れて水入れて置いといてもおいしいお茶は出るから!
ー:習慣づいたらすごく楽やんね。同居してるうちのパートナーも、一緒に住む前はそんな感じの生活だったのよ。テレワークになったタイミングで、自炊用の包丁と急須をプレゼントしたんやけど、茶葉でお茶を淹れる習慣がついて、すっかりペットボトルを買うことがなくなったよ。そしてペットボトルを買わなくなって、家に茶葉があるからって水筒も買った。
北さん:いいことやん!
ー:昔はそれこそ全部使い切ってたもんね。リーフでお茶淹れて、何煎か淹れて。出がらしは砂糖と醤油で炊いて佃煮にしたり、家で飼ってる鶏の餌に混ぜたり、掃除とかにも使ってたよね。畳にお茶の出がらしを撒いてホウキではくとゴミが取れる。住環境が変わったいまはさすがにそこまでできる人はほぼいないけど、ひとつ環境負荷が軽いものを選ぶ事で、それに基準が合っていくから他の行動も自然と見直されていくのかも。
なんでも手に入ることはもう豊かさの象徴ではない
ー:私の周りも子どもがいる家庭が増えてきたからさ、現地の環境破壊に繋がる食品は買わないようにするとか、穴空いた服も捨てずに繕うとか、次世代にいい環境を残せるように行動で示さないとなと思って。
北さん:手に入っちゃうからこそ見境がなくなってしまったってことなんかな。もうなんでも買えてなんでも手に入ることが「豊か」ではない時代やとは思う。
ー:それは私も思うわ〜!自炊できないような日は近所の回転寿司屋に行くことがあるねんけど、回転寿司ってすごいよな。世界中からいろんな海産物を輸入してきて、加工して、それでいて1500円くらいで満腹になれるんやから。地産地消を謳ってる地元のディナー8000円するレストランより、ある意味全国チェーンの回転寿司の方が贅沢なんかもしれへんと思って。これからもそういうお店にも行くやろうけど、どういう仕組みでその飲食サービスが成り立っているのかは意識しとかんとアカンなあ……って。
北さん:お茶もきっとそうやんな。ペットボトルで、いつでもどこでも同じ味の保存性の高いものが買えるのってすごいけど、それだけ便利ってことは何かが犠牲になっているってことなのかもしれん。それはポイ捨てをする心無い人によって汚される地球なのかもしれないし、仕事の手を止めて一息つく心の余裕なのかもしれないし。
ー:生きていく上で便利さに頼ることは必要やからそこはバランスやね。便利さに頼るのと、便利さに依存するのは似て非なる行為やから。
北さん:いろいろ考えないといけないのは大変やけど、それは選ぶ楽しみにも変換される。大変だ大変だって思うばかりじゃなくて、選択することに楽しみを覚えられたらいいかもね。身近なものに価値を見出したりとか。
ー:いっぱい喋って疲れたから、お茶飲もうかなあ。
北さん:これからの時期やったら「氷出し」オススメ!急須に氷水を入れて、多めの茶葉をそれでゆっくり抽出するねん。用事の前に仕込んでおいて、休憩の時にちょうど出来上がっておくようにしたらいいよ。
ー:おー、なるほど!やってみる。ありがとうね〜。
取材を終えて
簡単にお茶が買えるようなった結果、時間にゆとりができるのかと思いきや逆にゆとりがなくなったっていうのは、なんとも皮肉なものですよね。
原稿仕事が佳境になると生活が荒れて、自炊できないストレスが溜まってくるんですが、そういう時に少しガチガチになった心をほぐしてくれるのは一杯のお茶だったりするなあと、確かに思いました。
緊急時を除き、慣れればそんなに面倒でもないですし、リラックスできて、小さな自己肯定ができて、環境負荷も少なく、ゴミの分別の手間も省ける……。茶葉でお茶を淹れる行為って、豊かでいいことずくし。
社会に制約がかけられている現代の世の中だからこそ、自分でご機嫌を取れることってすごく大事。ちょっと手を止めて、みなさんひとまず一服してみませんか?
(取材・文/ヒラヤマヤスコ)
(写真提供/北紀子)
取材協力
農家民宿 えぬとえぬ
京都府相楽郡和束町中菅谷30
電話:080-3867-8884
https://www.facebook.com/kyototeafarmnton/
https://www.instagram.com/nandn_greentea/
※現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため営業が変わっている可能性があります。詳しくはお問い合わせください。
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