日用品の店「LADER」橋本司さんに聞く 愛せるキッチン道具って何ですか?
100円均一のキッチン道具、みなさんどんな風に思ってます?
安くて品揃えは抜群ですが、「よっぽどのことがない限り使いたくないなあ」と思ってしまう、ライターのヒラヤマです。
刃物はさすがにあっという間にナマクラになるので使えませんが、たとえばお皿なんかは問題なく食事ができます。ちゃんと丈夫だし。なのに、食卓にあるとなんだかモサっとしてしまう。そんな気がしません……?
(もちろんもちろん個人の見解です。こないだ話題になった味玉用タッパーみたいに便利グッズも多いし、小さいお子さんがいるから雑に扱っても大丈夫なように使っている人とか、いろいろいるとは思うので)
う〜〜ん、あんまり使いたくないって思っちゃうのはなんでだろう。そこはかとない野暮ったさがある気もするけど、じゃあ1枚3000円で売ってる皿とどう違うの?って聞かれても、詳しく答えられないワケで……。
一緒に住んでいるパートナーにも聞いてみました。彼は100均のキッチン用品について良いとも悪いとも思っていない人。でも、彼もやっぱり100均ではあまり買い物をしないわけです。こないだも益子焼の徳利買ってたし。
「コスパは最強やのに、なんで100均で徳利買わんかったん?」
「んー……なんでだろうねえ」
ああだこうだと議論してみましたが、結局わからないし答えられず。
答えられないから、答えのヒントをくれそうな人に話を聞くしかない……。
京都のいいキッチン用品と言えばやっぱり「LADER」
というわけで、向かうとするならば、やっぱり「LADER」さんなのです。
LADERは二条城近くの路地奥にあるキッチン用品をメインにした日用品店。シンプルで使い勝手が良く、誰が持っても手馴染みのいい品を取り扱っています。
お店の特徴のひとつは、店主の橋本司さんが、自身で実際に使用して「いい」と思ったものだけを仕入れていること。店主の納得が詰まったラインナップが魅力です。
そしてもうひとつの特徴が、お店の中にある品々を店内にあるテストキッチンで試せること。中身を注いだときの手首の感じはどうか。たわしの洗い心地はどうか。ピーラーの切り心地はどうか、食材をもってきてお店で体験することができます。
世にごまんとある品々をひとつひとつ吟味して、納得のいくものだけを取り揃えている橋本さんなら、最適解を知っているのかもしれない。
閉店後にお邪魔して、お話をきいてきました。
100均のプロダクトは、インテリアとして調和を取るのが難しい
お話をうかがう、店主の橋本司さん。
ー:料理すること・食べることに何がしかのこだわりをもって、好きになっていけばいくほど、100均のお皿って使わなくなってくる気がしていて。便利か便利じゃないかでいえば、便利なのに。あれってなんでだと思いますか?
橋本さん:うーん、そうですね……。調和を取りにくいからじゃないですかね。
ー:ちょ、調和?
橋本さん:シンプルなものもたくさんあるし、100均だからイコールで使いにくいってわけじゃないんですけど、100均のキッチン用品って、色や形の主張が微妙に強いものも多いと思うんですね。まな板から包丁からおたまや箸なんかの小物、皿まですべて100均で揃えることもできます。でもそれを並べてみても、同じお店で買ったものなのにキッチンや食卓に統一感が出るかというと、なかなかそうはならないと思うんですよ。
ー:あ〜、たしかに……。鍋は赤い取っ手のついた薄いテフロンで、まな板は蛍光グリーンのプラスチックで、おたまは黒い耐熱樹脂で、お皿には北欧っぽい模様が描かれていて……みたいな。
橋本さん:大前提として、キッチン用品って家の中に置いておくもので、使う頻度が高いと見える場所に並べたりしますよね。そうした場合にものの個性が出すぎていると、調和のとれたキッチンにするのって難しくなると思うんです。
ー:なるほど……。その不調和を感じとってしまうから、使わなくなっていくのかもしれない。
感性が100均ベースになるのはシャク(笑)
橋本さん:ちょっと面倒臭い話をしてもいいですか(笑)?
ー:どうぞどうぞ!
橋本さん:人間って、道具の不完全な部分を自然と補いながら使うことができるらしいんですよ。生きていくための機能として、そういう能力が備わっているらしくて。
ー:ドアの立て付けが悪いけど、なんだかんだ毎回開けきるからいつまでたっても修繕しないみたいなやつですね。
橋本さん:それってつまり「100均でいいや」ってスタンスでいると、知らず知らずのうちに自分の感覚が100均ベースでつくられてしまうってことかもしれないわけじゃないですか。僕はそれが正直ちょっとシャクなんですよね(笑)。
ー:シャク(笑)!
橋本さん:たとえば「玉ねぎは目にしみるから苦手」って思っている人が、じつは切れない包丁を使っているだけって事もあると思うんです。よく研がれた包丁だと細胞がスパッと切れて目にしみる成分が出ないんです。そんなふうに、自分が抱えている意識や癖が、道具の不完全さを無意識に補おうとするうちについたものだとしたら、なんだか悔しくて。そのうち、何かをいいなと判断する感性のベースまで知らず知らず100均に合わせて修正してしまってるかもしれないと思うと、世の中には使い勝手のいい道具や、美しいお皿なんかがたくさんあるから、どうせならそっちに合わせて感性を成長させたいですね。
ものの個性よりも調和のしやすさを重視するLADERの品物たち
ー:その話を踏まえるとLADERの商品を見渡すと、確かに何かが違います。橋本さんがLADERで取り扱う商品の判断基準ってなんですか?
橋本さん:ひとつは調和のしやすさですね。単体の個性や格好良さよりも、調和のしやすさを優先しています。また、単一のブランドで揃えると他のものを混ぜるのが難しくなるので、ブランドで縛るということはしません。
ー:ブランドがバラバラでも整って見えるのは、調和しやすいプロダクトを置いているからなんですね。
橋本さん:そうですね。鍋は取っ手の形状を揃えるとか、包丁の柄は黒で統一するとか、何かしらのルールを持たせるとメーカーがバラバラでも統一感は出ます。
ー:そういえば色合いやデザインが落ち着いているものばかりですよね。調理器具なら黒か銀、食器もオフホワイトや紺とか。
橋本さん:いい意味で、デザインや色が前に出すぎていないものが好きなので、それをチョイスしています。いくら便利でも、派手なシリコンスチーマーなんかはあまり使いたいと思わないですね。せっかく便利なのになんでシリコンスチーマーって、赤とか緑が多いんだろうって……。
ー:たしかに派手なイメージがありますね。
橋本さん:なんか野菜よりも目立とうとしてる気がするんですよね(笑)。個人的にキッチンの色味は食材に任せればいいと思ってるので、「元気が出る赤」は道具ではなく野菜に譲りたい。僕の好みなので多少極端な意見ですけど「キッチンに色は必要ない」くらいに思っています。
ー:お皿のチョイスもそこですか?
橋本さん:それはありますね。主張の強いお皿も、今はまだうちでは取り扱っていません。でも、主張らしい主張がない代わりに、幅広い食卓や料理に合う器であることは考えています。
ー:カラフルだとか、柄がついているお皿は置いてないですもんね。
橋本さん:そういう器に盛るのはセンスがいると思ってて、僕はそれが下手なので。そこは他のお店にお任せしたいです(笑)。
ー:調和を一番に考えるようになったきっかけってあるんですか?
橋本さん:昔、絵画の展示を見に行ったことがきっかけですね。展示会場ですごく惹かれた絵があったんですけど、自宅マンションの建材や壁紙が絵にマッチしないなと思って、買えなかったんです。効率重視で選ばれた建材と、作品としての絵のパワーバランスが悪すぎて、いい絵だけどここに飾っても悪目立ちしちゃうなと思ったんですね。
ー:難しいですね……。
橋本さん:いつか好きな絵が飾れる家に引っ越した時のために、住環境が変わってもそれに耐えられる日用品を今から少しずつ選んでいこうと思ったのが、僕の日用品選びのきっかけのひとつですね。個性の強いものは、今の自分だとまだ悪目立ちさせてしまうと思うので、そういうのを選ぶのはもっと自分がうまく扱えるようになってからでいいのかなと思います。
激安商品にはない、調和を生むためのディテール
ー:100均の話に戻っちゃいますけど、品物の中には一見調和を生みそうなものもあるじゃないですか。無地の白い皿とか。でもやっぱりなんだか一種の「野暮ったさ」みたいなものがある。激安の皿とLADERで売られるような皿は、具体的にどのへんが違うんでしょう?
橋本さん:たとえばこのお皿は、日本が海外に向けてデザインしていた昔の洋食器の形を踏襲したフォルムになっているんですけど、ちょっとした特徴があって。大きさが違っても3サイズともお皿のフチ……リムの幅が同じなんです。
ー:うーんと、つまり小さいほうのお皿は円の面積に対してフチの面積が大きくなるってことですよね。
橋本さん:そうそう。じゃあなんでそうデザインされているかというと、リム幅をサイズの縮尺に合わせて小さくしてしまうと、お皿の印象が軽くなってしまうんです。
ー:はー、たしかに!
橋本さん:リムの幅が変わっていないからこそ、小さいほうのお皿はサイズの割にしっかりした重量感があるし、逆に大きいほうのお皿はサイズの割に気軽に使える軽やかさが出ている。色も、漂白したような白ではなくて、ほんのりグレーがかっています。あと、この表面の微妙な揺らぎが器の表情を作っていて、いろんな料理だけじゃなくて、作家ものや古い器と並べても馴染む奥行きを生み出してくれています。
ー:他のお店で買った絵つきの皿や和食器なんかと合わせても良さそうですね。このお皿が食卓のいい緩衝材になってくれそうです。
橋本さん:そうですね、どのお皿にも馴染んでくれると思います。100均に代表されるような安価なものでも、もちろんちゃんと使えるんですけど、多くの人にとって無難であろうとすると、やっぱりディテールを詰められないところがあると思うんですね。守りに入るというか。そのディテールの甘さのような部分を感覚的にでもつかめる人は「野暮ったさ」だったり「なんかちがう」に繋がるんじゃないですかね。
自分の使うものは自分で選ぶべき
ー:橋本さんは、自分がレコメンドする品々についてはお客さんに積極的に言う方ですか?
橋本さん:僕は声をかけられるまでは、基本的に接客しないですね。
ー:あ、そうなんだ!
橋本さん:単に僕が接客されるのがあまり好きじゃないっていうのもあるんですけど、買い物の時って友達とわいわい話したり、ひとりでじっくり考えたりしたいと思うので、こっちから行く必要ってあるのかなって。よっぽど気になっている様子があれば声をかけることもありますけど、だいたい「気になることがあったら声をかけてくださいね」って程度です。売るためにはもっとガツガツ行った方がいいのかもしれませんけど。
ー:自分がセレクトした品の素晴らしさを、伝えようとは思わない?
橋本さん:自分がお客さんだったら、聞いてもいないうちから商品の説明をバーッとされても押し付けがましく感じちゃうし……。僕個人としては、たとえば器に関心を持つことで食事のときに楽しめる要素が増えるし、ごはんを食べながらその器の話で盛り上がったりもできるから、そっちの方が楽しくていいなとは思います。けれど、お客さんはお客さんで他のポイントでそんな風に自分の楽しめるものを持っているかもしれない。興味が持てないうちにゴリ押しされても興味って持ちづらいと思うので、何かタイミングがあればって感じですね。
ー:そっか、押し付けになるとかえってマイナスになりますもんね。
橋本さん:それに、すごく意地悪な言い方をすると「自分の身の回りの欲しいものくらい自分で選べないでどうするんだ」って(笑)。
ー:いきなりの毒吐き……(笑)!
橋本さん:いまって、ものがいいだけじゃ売れない時代じゃないですか。ものにまつわるストーリーや背景を語らないと売れない。でも、不況で企業もひとつの商品開発にかけられる予算は増えてないだろうと考えると、売値を上げない限りは、今までよりストーリーの宣伝広告費に予算が多くかかるぶん、商品の原価にしわ寄せがいっちゃうことも少なくないんじゃないかなって思うんです。だから、一見いい品に見えても、以前より質が下がってる商品が今後は増えるかもしれない。そう考えると、ものの背景以上に素材なり形なり「ものそのもの」を見て、自分に必要かどうか判断するクセをつけておかないと、ヘタなものをつかまされることになるんじゃないかって。
ー:うんうん。
橋本さん:僕も常にそう意識してます。お店を始めるよりずっと昔、一人暮らしを始めた頃は、ものの選び方がわからないから「なんとなく」で家のものを揃えちゃっていたんですね。そうすると不思議なもので、嫌なところはないのに、何故かいつまでたっても愛着が湧かなくて。そこで、自分で考えずになんとなく選ぶ、「これでいいか」と消極的なチョイスをするんじゃいつまでたっても愛着って持てないんだなって気づいたんです。そうして身の回りのものを見直しはじめたら、消極的に選んだものだらけでした。なのでこのお話は、自戒の念を込めて、でもあるんです。
ー:プロダクトのクオリティ以上に良さげなパッケージングで売られているものが多いからこそ、消極的なチョイスだとそれらを掴んでしまうのかもしれませんね。
それが100円でも10000円でも、愛着を持てているかどうか
ー:「あれはよくてこれはなんでイマイチに感じるんだろう」という疑問が、実際のプロダクトと橋本さんの説明で氷解しました。ありがとうございます。
橋本さん:いえいえ。ただ、僕は自分の店で扱ってるものはもちろん好きですけど、だからと言って「100均のものを使うのは良くない」なんてことはぜんぜん思いません。僕はそこに重きを置いてるだけで、何を大事にするかは人それぞれなんで。大事なのは「これがいい」とちゃんと自分で思って選んでいるか。それが100円でも10000円でも、自分で納得して愛着を持てていれば、それはその人にとっていいものなんだと思います。
ー:もしその最初の一歩も自分で判断がつかない時はどうすればいいですか?
橋本さん:そうですね、そういう時は騙されたと思ってお店側が提案するものを試してみるのもひとつだと思います(笑)。それをひとつの基準にして「これよりは好きだ/好きじゃない」と判断できるようになるので。もちろん最初からベストな選択ができればいいですけど、意外と自分のことってわかってなかったりもするので、失敗を通して自分のことも、自分に合ったもの選びも少しずつわかっていくんじゃないですかね。お店としては、お客さんより先にいろんなものをいっぱい使っていっぱい失敗して、もの選びの近道に役立てればと思いますね。
ー:そうやって少しずつ、自分の欲しいもの、愛着を持てるものを知っていくわけですね。私は絵付きの骨董皿が好きなのですが、柄物ばっかりだとテーブルがうるさくなっちゃうので、今度あたらめてLADERに無地のお皿を買いに来ようと思います。
取材を終えて
家に帰って、キッチンにあるいろんなものを見渡してみました。フリマで買ったカレー皿。益子焼の白磁プレート。ジップロック®のタッパー。貝印の包丁……。
そのなかで「これはあんまりだな」と思った品は間に合わせのために、とりあえず買っているものが圧倒的に多くて、つまり納得して買ったわけではない品でした。納得というよりも、妥協で買ったものたち。
「いま必要だからひとまずこれでいいか」と買ったものだから、キッチンの装いにそぐわないし、あんまり愛着がわかないから使用頻度も少なくなる。同じ100円でも、東寺のがらくた市で買った絵付けの小皿は食卓のレギュラーなのに。
安いとか高いとかよりも、納得がいっているかどうか。
それに妥協でものを買うと、長い目で考えたときに損が出るんですよね。場所もとるし、捨てるときに手間だし、ゴミも出るし。なにより愛されてないのに家に居続けているその品が可哀想だよな……ごめんよ……となんだか申し訳なくなりました。
納得して買って、ずっと使っていきたいと思えるような、私なりの良いキッチン用品を増やしていきたい。多くのものが簡単に手に入る世の中だからこそ、愛着をもてる品か、そのセンサーが自分に備わっているかがすごく大切な気がしました。
もちろんキッチン用品だけではなく、服も家具も。ひいては人生そのものにも繋がるかもしれません。愛せもしない妥協したものに囲まれる人生なんて、私は御免だ!
(取材・文/ヒラヤマヤスコ)
取材協力
LADER
京都市中京区西ノ京職司町67-38
営業時間:11:00〜18:00
定休日:水曜(その他臨時休業あり)
https://lader.jp/
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