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Meets Regional 編集長に聞く「これから飲食店はどうなりますか?」

ちょっと申し訳ないな〜という気分を抱かず、堂々と外で酒を飲みたい。めっちゃ飲みたい。ヒラヤマです。

ようやく緊急事態宣言が解除され、時間制限や人数制限はあるものの街でお酒が飲めるようになりました……と思ったら、また「まん防」で酒類提供禁止に。今年こそぬる〜い夜風に吹かれながら、木屋町の川床でビールをキュッと……という夢を抱いていたのですが、厳しそうですね。

長引く自粛生活のせいで、ちょっと酒場へのアンテナというか、外でガンガン楽しむためのギアが錆びついている感します。なんなら、この自粛期間でお酒、めっちゃ弱くなっちゃいましたしね〜。
 
街が以前のような活気を取り戻すのもそう遠くはない……そう信じたいとは思いますが、なかなか「ぐぬぬ……」と苦虫を噛み潰したような顔をしながら灯りの消えた街を眺めるばかりです。

大きく変容してしまったまま、いまだ出口のないトンネルのなかにいるような、いまの街の気配をこの人はどう感じているんでしょうか。

30年以上にわたって街の酒場を掘り下げてきた関西のモンスター級ローカル雑誌『Meets Regional』の編集長にお話を聞いてきました。


酒場は紹介するがグルメ雑誌ではない

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雑誌『Meets Regional(以下、ミーツ)』。関西に住んでて、飲み食いが好きならまあ知らない人はいないであろう月刊誌です。あ、関東の人もけっこう知ってるのかも?

ミーツは創刊から30年以上、大阪を中心に京都、神戸……関西の街と、街にある酒場にフォーカスを当て続けてきました。

変わりゆく酒場の最前線を追っかけ続けてきたわけですが、ひとつ特徴として言えるのは「グルメ雑誌」ではないということ。もちろんお店の料理は紹介しつつも、あくまでその主役は街や人。

製作陣はみんな連日連夜飲み歩くような猛者揃い。だからこそ、街の「いま」をがっちり捉えているし、最前線の食のカルチャーにも詳しい「この人に聞いといたら間違いないやろ」ってな、街を知り尽くした頼れるパイセン的なメディアです。

基本的に買ったが最後捨てられない良雑誌。いま家にある冊子のなかで一番古いバックナンバーが2012年のやつでした。実家に帰ればもっとある。捨てられない……!

編集長の松尾修平さんは、自ら酒場に足を運びつづけて情報をひろい集める「街に抱かれおじさん」。街に抱かれまくってきたからこそ見える、これまでの酒場、これからの酒場のこと。松尾さんとのおしゃべりのなかで、外で……ひいては街で飲むことの魅力について、あたらめて考えてみました。


先に限界がきたのはお客さんの方だった

オフィス街

閑散とした街の姿ごと記録した号。

ー:松尾さんから見て、最近の街はどうですか?

松尾さん:6月21日から19時までの酒類提供が解禁されて、また街の様子は変わりましたよね。その期間は開いているお店も増えました。8月2日から大阪は緊急事態宣言に入りました。止むを得ず営業を続けるお店が多いのかもしれないとも思ったんですが、いま聞く範囲ではけっこう再度の休業に入った気はしますね。

ー:なるほど……。京都はいわゆる「まん防」ですけど、終日の酒類提供は禁止されているので、実質酒場はどこも休業状態です。とうに限界を迎えているお店も多いと思うので、やはりそれが気がかりですね。

松尾さん:そうですね。お店はみんな辛抱強く休業に応じていると思います。ただ、限界という言葉で言えば、お客さんの方から限界がきたという気がしますね。

ー:「お客さんの方から限界がきた」?

松尾さん:お酒出してなかったり時短営業してるお店に、お客さんの方から問い合わせがあるみたいなんですよね。お酒出してませんか?とか、遅くまで開いてませんか?とか。

ー:はー、なるほど。

松尾さん:店を満足に開けられなくて店主たちの不満もたまってますが、それよりもっと不満をためていたのはお店に行けない街の人だったという。

ー:店主ではなく、お客さんの方がその場所の解放を望んでいるっていうのは、興味深いですね。街の酒場が感染の温床……みたいな言われ方もされてましたけど、街で過ごす時間を消費者が望んでいるっていうことですもんね。

松尾さん:「不要不急の外出」って言われお店を閉めざるをえなくて、街で飲む行為は人生に必須ではないものというレッテルを貼られてきたわけですけど、じつはぜんぜんそんなことなかったんですよね。みんなめっちゃ必要としている。

ー:たしかに。東京が顕著だと思いますけど、京都も連日連夜、鴨川に人が集まってお酒を飲んでいますし……。「外に出て他者とコミュニケーションをはかる」は、現状の規制で止められない気がしますね。社会的なルールや現状に対するモラルの問題はもちろんありますが、人の本能的な部分を行政のルールがうまくコントロールできていないのが……。

松尾さん:少しずつではありますが若い世代のワクチン接種も進んできているので、みんな気兼ねなく外に出られるようになったら、思いっきりはじけてほしいですよね。

ー:5軒くらいハシゴして朝まで飲みたいな〜!100億年ぶりレベルのエンタメだ……。浮かれすぎて散財しまくりそうです。

飲食店の位置付けはどう変わっていく?

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ー:1年半以上も外で飲んで遊ぶことを制限されて、いざ「もう大丈夫だよ〜」って言われても、一気にそれ以前のように戻る……とはいかないことも多いんじゃないかなって思ってて。街のお店の位置付けって松尾さん的にどう変わると思います?

松尾さん:より人間性が問われるようになってくるんちゃうかなと思うんですよね。テイクアウトとかお取り寄せとかで「おいしいもん」は家でも割と気軽に楽しめることがわかったじゃないですか。じゃあ家飲みの何が足りないかっていうと、お店の人となりというか、お店の人のキャラクターがより問われていくようになるような気はします。

ー:ほうほう。

松尾さん:あと、食べ物に関してのリテラシーが上がったって人もけっこう多いと思うんですよ。自炊をするようになって、以前は買っていたものが自分でつくれるようになったとか。外でお金を落とせないぶん、家でええ食品買ったり、ええ食材買って料理したりとか。そうなると「安かったらオッケー!」ってだけのお店にはなかなか行かれへんのちゃうかなって。街が好きな人はなおさら。

ー:うーん確かに。「安いだけ」って言ったらアレですし、それを否定する権利はないですけど、中心街のでかいテナントビルなんかに入ってたそういうお店にこれから新しく行こうってなるかといわれたら……。

松尾さん:ね〜。

ー:そもそも、大バコのチェーン酒場がいったん街から撤退してるところも多いですし、そういうお店が戻ってくるまではタイムラグがありそう。いわゆるミーツが追っかけ続けてきた「街の酒場」に、よりフォーカスが当たる瞬間がくるんちゃうかなって気もしますね。そうあってほしい。みんな行こうぜ、街の酒場に……!


アクティブな店主はコロナ禍でもガンガン動いてきた

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コロナ禍にも新進気鋭の店が生まれ、街に新しい風を通している。

ー:いろんなお店を松尾さんは見てきたと思うんですが、コロナ禍の店主さんたちってどうされてるんでしょうか。

松尾さん:お店が開けられない状況が続いて、多くの飲食店さんが苦労されているっていうのは大前提にあるんですけど、じゃあ絶望ばっかりかって言われると決してそうではなくて。

ー:たとえばどんな?

松尾さん:独立開業の時期が、コロナ禍にかぶってしまった子がいるんですよ。その人は開店できない時間を使って、各地の生産者を回って食材のことを勉強したり。酒場の店主が、自分のお店は開けられないからってその場所をランチ営業のお店に間借り営業させたり。アクティブな店主はコロナ禍でもガンガン動いてきたんですよね。

ー:くさくさしてるだけじゃないぞと。

二甲料理店

コロナ禍でも新しいお店は続々オープン。

松尾さん:そうそう。コロナ禍でも新しいお店も増えてますし、業務形態もこのご時世にあたらしくフィットさせた店舗も多いです。軒先で食べ物を買えるテイクアウト限定のスタンド……町のタバコ屋の飲食版みたいな。たこ焼きみたいなものだけじゃなくて、エスニック料理屋でそういうスタンドをやっているとか。

ー:めっちゃおもしろい!

松尾さん:飲食店の選び方に、より人間性を問うてくるだろうなってさっきの話もそうですけど、それに加えて、コロナ禍で生まれたアイデアが新しいカルチャーを街につくっていくんちゃうかなと思います。

人が飲食店をつくり、人が街をつくる

ー:いいお店って、軸がたくさんあるじゃないですか。ものすごく高級な食材を提供するとか、立地がいいとか、友達やパートナーとの飲みに使いやすいとか。松尾さんの思う「いいお店」ってなにが重要ですか?

松尾さん:結局、人やなあってめっちゃ思うんですよね。

ー:人か〜。まさにミーツの軸足ですよね。

松尾さん:もちろん料理の味がいいとかもあるんですけど。一定以上のクオリティを出すお店で「また飲みに行きたいなあ」って思うのって、僕の場合は圧倒的に、お店の人が魅力的かどうかなんですよね。ええお店って、お店の人の人柄や人間性がものすごく色濃く出る。たとえばさっきの、休業中に産地回った店主もそうですよね。「どうせやったら勉強してええ食材出そう!」っていう、ええ食材を出す背景には行動派な店主の人柄があるじゃないですか。人が飲食店をつくるというか、その魅力の引き出しって無限だと思うんですよ。

ー:たしかに。わたしが京都で通うお店って、店主やスタッフのことが好きで行ってるお店ばっかり……!

松尾さん:いいお店は人がつくるし、そういういいお店の集合体で街は成り立っていると思います。だからこそミーツは、単に料理を紹介するんじゃなくて、人やエリアにフォーカスを当てる雑誌としてやってきたんです。


「ゴキゲンな人」がぶつかり合うからこそ街で飲むのは楽しい

新世界

ー:松尾さんと喋ってたら、街に出たくなりました。もう仕事終えて飲みに行きたいですもん。まだ朝の10時やけど……(笑)。

松尾さん:(笑)。

ー:家でもおいしく飲めるんですけど、街で飲む面白さはどうあっても家で享受できないんですよね。行った先で友達に遭遇して一緒に次のお店行ったり、もういいかって終電逃しちゃったり、思いつきで入ったお店が大当たりだったり、逆に大はずれだったり。

松尾さん:ネットはいい意味でも悪い意味でも交通事故が起こらないですしね。いまって調べたらいろんなことがすぐにわかるし、簡単に手に入ったりしますけど、街で飲む「経験」だけ、これはもう実際に動かないと得られない。

ー:うんうん。

松尾さん:ミーツはよく「ゴキゲンな人」って表現してるんですけど。ツッコミどころがありながらも魅力的な人が酒場にはたくさんいて、そのゴキゲンな人がぶつかり合うことが往々に起こるからこそ、街で飲むのは楽しいですよね。そして意外とそのぶつかりのなかで勉強になることがある。コミュニケーションとか、社会性とか。

ー:呑んだくれているだけの人に見えて、つきあっていくと夜中3時ごろにめっちゃ哲学を語ってくれたりとか、ありますよね。

松尾さん:このコロナ禍で、創刊初の発行休止に追い込まれたり、家飲みをテーマにした号を発刊したりもしたんですけど、そういう苦労もふまえた上で、あたらめてミーツは街に軸足をおいているメディアでありたいなと思います。足が鈍ってしまったなって思う人でも、読めば外食や外出をしたくなるような訴求をしたい。なんやかんやいうても、やっぱり街で飲むのが一番おもしろいと思うんですよ。

取材を終えて

ちなみにこの取材が緊急事態宣言中だった6月の19日。週が明けて解除されるやいなや駅前の立ち飲み屋に行ったわけですが、キンキンのビールをあおいだ瞬間、脳みそがたまっていた「飲みに行けないモヤモヤ」がババーンと爆発四散しました。

初夏の生ぬるい風、人のざわめき、談笑の声、なんとなく隣のグループと乾杯して、とりとめもないことを喋ってるうちにあっという間にビールがなくなって。

あ、ほな次緑茶割りにします〜と次の杯を頼んだら、隣からおつまみのおすそ分けがきて。隣のグループはいま仕事で失敗したひとりを慰めている最中で。「なんかあったんすか?」「いや〜こんなんがあって」「あらまー、それはシンドいっすね。飲むしかないっすね」と身の上話に興じたり。

あーあー、そうそう、この感じこの感じ。リラックスしているのに周りのことにも目がいって、全部アドリブで進行していく予測不能なおもしろさは、酒場にいないと起こらない。

街で飲むからこそ得られるあの空気と、それを愛する感情。この感情が、自分のなかで消えてしまわないように、そして世のいろんなあれこれに対する怒りに飲まれて消し炭になってしまわないように、街の飲食店のことを考える日々です。

美味しいだけではない、人を本能的にワクワクさせる飲食の体験は街にたくさん落ちています。頭が痛くなるような毎日にうんざりしますが、なるべくみなさん心身の平穏を保ちながら、いつか酒場で堂々と会える日を待ちましょう。


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