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葛飾で話芸の奥深さを見た!玉川奈々福さんの浪曲に聴き入った12月

元禄15(1703)年12月14日。
江戸には雪が積もっていたよう。真夜中に赤穂浪士47人は粛々と雪を踏みしめながら、吉良上野介の館へと向かう。
忠臣蔵、言わずと知れた討ち入りのシーン。

2022年、東京は曇り。昼間で、さらには12月11日。
重なっているのは、それが「たっぷり 赤穂義士伝!」と題され、赤穂の武士が出てくる12月というくらい。

そしてもう一つ、歩いている私の胸騒ぎ。私は静かな期待を持ちながら、未知の世界への道を一歩一歩踏みしめていました。

浪曲、という世界です

玉川奈々福さんの浪曲を

浪曲は、玉川奈々福さん。
知ってる方は知ってるでしょうけれど、私は今年初めて、NHK「100分de名著」の出演シーンから知りました。浪曲という世界も、奈々福さんも知らなかった。けれど、とにかく聴きやすく、引き込まれました

そこで公演を観たいと思ったわけです。
公演の場所は、かつしかシンフォニーヒルズアイリスホール。
青砥駅からの道は歩きやすい。案内板も多く、迷いようがない。
会場に着くと、お客様は白髪、禿頭の数々。浪曲という昔からある世界のこと。お客様の年齢層が高めなのは分かってました。37歳の私はコンブ、いや若め。

冗談はさておき。
浪曲って、本当に知識がなくて。浪曲を聴くのが初めてなら、そもそもその手の話芸と呼ばれる類の公演は観たことがなかった。
「曲」と付くくらいだから考えてみれば、唄うわけですよね。曲師という三味線の方と出て、節をつけて物語を聴かせ、演じ、語り。
「なるほど、こういうものか」と頭の中で整理する暇もなく、ただ面白かった。

「喉が良い」なんて言葉がありますよね。
この言葉を私は肌身で感じてなかったと、知りました。
玉川奈々福さんの、パーンッ!と出てくる、張りと伸びのある声。聴いていて気持ちの良いリズムと抑揚。
喉が良いって、たぶんこういうことなんだ。

「赤穂のいちばん長い日」

その日の内容は「赤穂のいちばん長い日」「シン・忠臣蔵」の2つ。
1つ目は、赤穂藩の武士たちが城を明け渡すまでの慌ただしい日々を描く話。江戸時代だけれど、チャンバラ話ではなく仕事話。ストーリーとしては派手じゃない。

乱暴に例えれば、いわばM&A。派手なのは、それが決まるまでの駆け引きだったりする。でも、この浪曲の中心となるのは、M&Aでいえば、売られた会社内の実務整理、顧客の引き継ぎみたいなもの。
それを節回しの豊かさや、表情などの演じ分けで、面白く聴かせてくれる。

「これが浪曲かあ、奈々福さんってすごいなあ」

「シン・忠臣蔵」

そして2つ目の「シン・忠臣蔵」。これがまたすごいというか何というか。
フライヤーのキャッチコピーを以下に借ります。

柳家喬太郎の「カマ手本忠臣蔵」を原作とし赤穂事件の真相を大胆に夢想したBL浪曲「シン・忠臣蔵」

……BL浪曲って?!
要は、吉良上野介と浅野内匠頭が実は想い合っていて……という設定の上に、件の事件が起こったという筋書き。これがよくできていて、本当に笑える。
周りの高齢の方々も、マスクの中から笑い声を漏らしていましたよね。

後日談になりますが、この日がとても良くって、私は奈々福さんが新宿末廣亭に出てらしたのも観に行きました(寄席も初体験)。そこでも「シン・忠臣蔵」を披露されていましたが、ショートバージョン。話で言えば、刃傷事件まで。

おのおのがた、討ち入りでござる
に象徴される、吉良邸の場面は後半に含まれます。
後半まで聴くと、ちょっとまた色合いが違って、深みが出ていたので、この11日のものを聴けて良かったです。

会場から離れながら

赤穂のいちばん長い日」「シン・忠臣蔵」、それぞれ違う味わい。

元禄15(1703)年12月14日。
江戸には雪が積もっていたよう。真夜中に赤穂浪士47人は粛々と雪を踏みしめながら、吉良上野介の首を持ち、浅野内匠頭の墓前に供えたといいます。
その姿を見ていた江戸の人はどのような想いを持ったのか。
今にまで語り継がれるだけでなく、こうして多様に表現されていることに、この話の魅力を感じます。

2022年、東京は曇り。もう空は暮れかけている頃に、会場から多くのお客様が出ていきました。私もその一人として、駅に向かいました。まわりには、皆さんの楽しそうな余韻。
持ち帰ったものは、浪曲の面白さ、話芸の奥深さ。それらを私は、どこに供えようか。

駅までの道には子どもたち。
子どもが母親に向かって言いました。

じさまとばさまがたくさん歩いてくる!

令和に“じさま”って! “ばさま”って!
葛飾の子どもの話芸の一端。豊かなボキャブラリーに包まれ、異世界に踏み入れたことを、私はまた実感したのでした。


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