【読書】文学的でコミカル、幻想が揺らめく森見登美彦さんの世界。
最初に、作家さんに頭を下げて謝りたい。すみませんでした。
なぜ謝罪から始めるかといえば、名前を勘違いしていたからだ。森見登美彦さんの小説を読み始めた頃には、森見登(姓)+美彦(名)さんだと思い込んでいた。ミヒコとは何だ?と言われると困るのだけれど、美しい子と書いてヨシコと呼ぶように、おおかたヨシヒコという名前だろうと考えていた。おおかたで人の名前を読み間違えてはいけない。
正解は(と、いってしまうと大変失礼なのだけれど)、森見(姓)+登美彦(名)さん。つまり、モリミ・トミヒコさんが正しい。
3冊ぐらい小説を読んで気が付いて焦った。しかし、ツイートを投稿したところ同感のコメントをいただいたことがあり、仲間がいて安堵した。自分だけじゃなかった。作家さんの名前をアバウトに認識している読者が一定数いるとみている。ともあれ名前の区切り方には要注意。
森見登美彦さんの小説には、夏の匂いが漂う。
東京の夏でなく、京都の夏だ。祇園祭あたりの幻想的なイメージがあり、金魚とか、提灯とか、現実と異世界の境界が溶けあったような空間が拡がる。そして暑い。暑いにも関わらず、リモコンにコーラをこぼしてエアコンが使えなくなる。『四畳半タイムマシンブルース』のそんなシーンに、やってしまったかと共感を覚えた。
怪談めいた話もある。『きつねのはなし』『夜行』は、ぞくっと背筋が凍る。人物の消息が途絶えてしまったり、一枚の絵画から狂気の沼にはまりこんでいったり、ホラーを感じさせる怪異現象の物語に興味をそそられる。法螺みたいな物語とホラーの物語があることが、森見登美彦さんの小説の大きな特長といえるだろう。
夏休みが終盤に至ったとき、読書感想文向きの本として考えられそうなのが『ペンギン・ハイウェイ』だ。ちっぽけな少年と世界全体との関りが描かれ、年上のお姉さんに対するほのかな恋もあり、夏に読みたいジュブナイルのひとつである。アニメもよかった。
そもそも最初に読んだ森見登美彦さんの小説は『四畳半神話体系』だったが、それ以前に『夜は短し歩けよ乙女』のアニメ映画を観たことがあった。そのときは森見登美彦さんという小説家の名前を知らなかった。京都を舞台に、たぬきたちが活躍して天狗が舞う有頂天家族のシリーズを含めて、アニメと親和性の高い小説が多いかもしれない。
『夜は短し歩けよ乙女』はアニメの文学的世界観に惹かれたが、原作の小説を読んだところ、さらに文章表現の奥ゆかしさに強く惹かれた。
登場人物の青年や少女は、明治あるいは大正というか、そのあたりの時代に飄然と日々を過ごしているようなキャラクターだ。彼らを描写する文体に、そこはかとなく気品が漂う。それにも関わらず展開されるのはコメディというギャップの落差に魅力を感じる。
『四畳半神話体系』は、同じような冒頭が繰り返されながら、内容が少しずつ変わっていく。主人公は狭い四畳半で繰り返される物語の世界でもがき、脱出を試みる。
SFでいえばパラレルワールドであり、もしかすると着想したときは単に作者が手抜きをしたかったのかもしれない。ただ、これを読んで個人的には、ニーチェの永劫回帰を描いた小説だ!と熱くなった。
もし、なんとなくバリエーションを変えて書いてみたら原稿が進みましたという作者の思惑があったとしたならば、勘違いも甚だしい。しかし、読者に壮大な解釈あるいは誤解の余地があることは、小説のエンターテイメント性のひとつではないかと考えている。
『夜は短し歩けよ乙女』と『四畳半神話体系』に登場する明石さんは非常に魅力的な女性であり、でっかい鯉のぬいぐるみを背負って散策する。彼の小説のファンが、実際に鯉を背負って聖地巡礼をすることがある。楽しい。小説内に登場する「もちぐま」のぬいぐるみもかわいい。
鯉と恋は韻を踏んでいる。そんな言葉遊びは何も役に立たないが、文学としては尊い。小説からインスピレーションを受けてDTMで曲を作っていたことがあり、おおいに刺激を受けた。
4年ぶりの長編という『シャーロック・ホームズの凱旋』は、まだ読んでいない。ホームズのドラマや映画が好きなので、楽しみにしている。
2024.08.18 Bw
ここから先は、X(旧Twitter)に投稿した、森見登美彦さんの小説にインスパイアされて作ったDTM自作曲、そして読了の記録になります。
森見登美彦さんの小説にインスパイアされて作ったDTM自作曲
森見登美彦さんの読了本の記録
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