【読書】陽だまりのような小説、吉田篤弘さんの世界。
吉田篤弘さんの名前はSNSでよく見かけた。4年ぐらい前に書店で『月とコーヒー』が気になったのだけれど、購入に至らなかった。はまったのは2022年の年末に、伊坂幸太郎さん関連の「螺旋」プロジェクトで『天使も怪物も眠る夜』を読んでからだ。自分にぴったりの作家さんがいた!と思った。そして次々に読了してきた。
とにかくたくさんの本を読みたいのだけれど、いま本はとても高い。文庫でさえ1,000円を超えていて驚く。さらに、もはや部屋が本で埋まってしまって廊下にまで溢れている。物理的にムリであり、地震が怖い。できれば文芸書の四六判じゃないほうがいい。
さらにいえばお気に入りの作家の本は、図書館で借りても返却するのが惜しい。手元に置いておきたい。また、小説は電子書籍ではなく紙と決めている。というのは、ラストシーンまでどれだけで終わってしまうのか厚さで直感的に分かるし、紙をめくる音と指の感覚が好きだからだ。
したがってAmazon経由で古本かつ文庫を購入しているのだけれど、吉田篤弘さんは、ものすごい冊数の本を書かれている。どうやって書いているんだろう?と思うほどの多作である。読むのが追い付かない。また、レアで手に入らない作品もある。価格と本の状態をにらめっこして、最良の本を安く購入すべく日々努力している。
吉田篤弘さんの小説のよさをひとことでいえば、陽だまりのようなあたたかさにあるだろう。大きく分けるとシュールなファンタジー風の作品と、とある架空の街の食堂を中心とした仲間たちのお話があり、後者であっても絵本のような世界が描かれる。この仕事で食っていけるのだろうか?という職業の人々が、しあわせそうに暮らしているのがいい。
パートナーの吉田浩美さんとクラフト・エヴィング商會というデザインユニットで仕事をされていて、物語だけでなくイラスト、装幀、文字組まで徹底してデザインされていることも興味深い。世の中にありそうでない架空の商品のカタログが楽しかった。文庫で読んだが、最初にデザインされた本という形をとった作品を見てみたかった。
あらゆる読了本について、X(旧ツイッター)で本の感想を140字程度にまとめて投稿しているのだけれど、いつ読んだっけかな?と思い出せなくなった。そこで、noteにまとめることにした。
noteをTogetter(トゥギャッター)みたいに使ってよいのか分からないのだが、X上でいちいちキーワード検索をするのが面倒くさい。読了するたびに追加していきたい。
自分のための記録ではあるけれど、吉田篤弘さんの作品が気になったひとには参考になるかもしれない(ならないかもしれない)。おすすめはしません。また、ランキングは作家さんに対して失礼な気がするので、これがイチオシ!などの評価もしないつもり。
猛暑が終わりそうで終わらない2024年8月の終わり、秋のとばぐちの9月にかけて、ようやく待望の『月とコーヒー』を手に入れて読んだ。
天地は文庫本の大きさでありながら厚みがある小型のかわいらしい書籍で、月を抱える男のイラストの素敵なしおりが付いていた。さすがクラフト・エヴィング商會。装幀を含めて本の存在感がある。手に取るとしっくりと馴染む感覚があり、寝読(眠る前に横になりながらの読書)にもよい。
あとがきに次のように書かれていて、大きく頷いてしまった。
読書はもちろん、映画、音楽などの趣味も「月とコーヒー」のようなものだろう。そして、吉田篤弘さんの小説には、インク職人や映画技師のような「世の中の隅にいる人たち」が登場する。この星の片隅でひっそりと生きている人々の日常がいとおしい。
『月とコーヒー』には24篇の原稿用紙にして10枚ほどの短編で構成されているが、本の左端の行まで読んで、ふむふむ、さてこの話はどうなるだろう?とページをめくると白紙。つまりお話が終わっている。
この終わり方に、やられた!と思った。ところが続きを読みたいと思った物語については、続きが書かれているものもある。もしかすると、今後、長編に展開されるのかもしれない。楽しみ。
吉田篤弘さんの全作品を読了するのは、いつになるのだろう。しかし、永遠に読んでいたい気がする。新刊が出たら飛びつくファンではないけれど、こころあたたまる世界を描く素晴らしい作家さんだと思う。
2024.03.09 (09.07更新) BW
クラフト・エヴィング商會
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