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「靴磨きのアッシュ」

 夕暮れは近く、西のほうは深みを増した青が黄色を挟んでオレンジにグラデーションを描いていた。
 教会から鐘が聞こえる、街が人人が獣たちが今日を終えようとしていた。
 オルガンとアコーディオンが鳴り始める、夜が目覚め始める、毛皮や皮革に身を包んだ者々が闊歩する時間に変容する、彼ら彼女ら紳士淑女を派手なドレスが迎え入れる。

 僕はその日いちばんの上客を見つけた、ワニの皮でできたドレスシューズを履いていた、ワニ皮は台に足を乗せて言った。
「代金ぶん、しっかり磨け」
 見下ろす眼は赤く濁り、吐く息は酒のにおいがしていた。横柄な態度には慣れている。
 分かりました、ぼそり呟いて少年はそのクツを磨き始める。
 いちばんの上客だ、改めてそう思う。サイフには厚みがある、相当な金額を持っているはずだ、パーティでもあるのだろうか、このあたりでは見かけない顔だ、胸のチーフの素材は夜に紛れない金色だった。

 少年は思う。
 ありったけをいただきますよ、そのクツもチーフもサイフもね。
 表向きは靴磨き、夜の彼は手練れのスリだった。見上げる視線に今夜の獲物がだらしなく笑っている。
 夜があんたの時間だと思っちゃダメだよ。

油断大敵。明日から気をつけて歩きなよ。貧困を装うあどけない顔、口笛が通りを抜ける。暗がりから駆けてくる子供たちは彼の仲間だ。

photograph and words by billy.

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