【写真】K市うろうろ。
ベランダの塀に止まっている鳩が室内を、軒先の様子を伺っている。どうも、巣を作りたいらしく、物干し竿の上を徘徊したり(洗濯物を踏むのはやめてくれ)、あるいは、玄関先で雨宿りをしたらしく、翌朝、糞だらけになっていたり(「うっ……」と呻き声)、どうにも鳥に好かれる。鳥だけではなく、犬とか猫にも(メスばかりなのはよろこぶべきなのか否か)。
Y駅近くで遭遇する、大型のメス犬がリードを振り解いて駆け寄ってきたときは真剣に恐怖しました。じゃれてるというよりは、原付に激突されたような衝撃。怪我するって。
最近ですと、メジロ。春告げ鳥が、愛車の真後ろの電柱の頂上から、もしくは、南の店舗の屋根から、僕の住まう部屋に向けてピーチクパー。なんとも爽やかな声で目覚める朝。
おいおい森林か。と、思いつつ、しかし、なんとも美しい声に聞き惚れる。メジロさんはずっとここにいたらいいのに。ハトさんと大型犬は僕の生活に支障をきたしそうなので遠慮していただいて。
玄関に「考える人」の石膏像。「welcome」ボードに迎えられる庭は迷路がごとく入り組んだバラ園と、畑の隣にイングリッシュガーデン。ディズニーや、七人の小人像が並び、しかし、農機具小屋にトラクター。最近は小さめの鯉のぼりも登場。そして、なんたることか、まごうことなき日本家屋。その周囲に咲き誇るバラたち。もはやカオス。
そんな、Kさんとこのおばあちゃん。
「お兄ちゃん、最近、このへん、うろうろしとるね」
誤解を招く言い方はやめてください。歩いてるだけです。うろうろはしていません。
「一年半ほど前からお世話になっています。兵庫から移住してきました」
なにせ、田舎。どうにも目立ってしまう風貌らしく、自分から名乗るようにしています。明るく挨拶しておけば、あまり怪しまれずに済む。
それから。おばあちゃんの身の上話。亡くなったご主人さんのこと。たくさんのご病気をされ、たくさんの手術を受けられ、いまは奇跡と言われるくらい、お元気なご本人さんのこと。来年から教員になるというお孫さん。浪人して医学部を目指しているお孫さん。そして、一番下のお孫さんも医学部志望の高校生だそう。優秀ですね。うらやましい。
「お兄ちゃん、うち遊びにおいで」
「いきなり、お家までは。また、伺います」
「ビール飲んでいきな」
「うーん」
正直、迷う。午後はとくに予定のない日。
「今日はちょうど、昼から孫が遊びに来るって言うから」
いやいや。お孫さん来るならダメでしょう。謎の男がおばあちゃん家でビールあおってるのは、カオスにもほどがある。
「上のお姉ちゃん、いま、彼氏おらんって言うから」
え? なにその謎の展開は。
「その上のお姉さんって」
「来年、先生になる大学生」
急すぎる。あまりに急展開すぎる。ついていけない。いっそ、犬に激突されてるほうが気楽な気さえする。
「あ、もう時間が!」などといい加減なウソをついて(腕時計を確認するふりをしたものの、つけていなかった)、逃げるように離れる僕。このままではカオスの中心地、おばあちゃん家に引きずり込まれてしまう。四十分もお話しされていたし。
春うらら 近くのおばあに 呼ばれるビール
(ビリ蔵 #心の俳句 )
……思わず下手な句を詠んでしまう。
見渡せば青空。水田に広がる青。側溝をカニが歩き、海に行けば猫たちがあくびをしている。K市はなんて美しいのだろうと、軽い足音。逃げ足が早くて良かった。
またつかまると大変だぞ。逃げろ逃げろと周囲をうろうろ。そんなこんなでお昼を告げるチャイムが小学校から聞こえてくる。よく知らない農道を歩いてたら、結局、今日も、このあたりをうろうろしている人になってしまうのでした。
本日ここまで。それでは、また。ビリーでした。
photograph and words by billy.
#創作大賞2023
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