「クジラの歌を聴け」🐋Wildlife🐻Animal Welfare🐖
新聞の書評欄にあった書名に惹かれ、すぐにネットで注文。哺乳類の研究者で、国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹・田島木綿子著「クジラの歌を聴け」。
海と陸の哺乳類の工夫に満ちた求愛戦略、オスとメスそれぞれの繁殖戦略、そして子どもたちが生まれながらに身につけた生存戦略を紹介。
第一章 海の哺乳類の求愛戦略
🐬シャチのオスは背鰭が2メートルになるものもいる。一撃でサメを即死させる強靭な尾鰭に比べ、コラーゲン豊富な皮下組織と皮膚で構成される背鰭にはそのような働きはない。大きさを競うのは、敵を威嚇し、メスにアピールするためである。
🐋広い海洋を回遊するザトウクジラは、ハワイや沖縄、小笠原諸島などの繁殖海域に到達するまでに、メスに出会う必要があるが、大海原でオスとメスが出会うのは、簡単なことではない。そこで、メスに気付いてもらうために、オスは自慢のソングを奏でて「ボクはここにいるよ」とメスにアピールする。
水中での音の伝搬速度は大気の4倍ともいわれ、ザトウクジラの歌声は、3000キロメートルまで響くと考えられている。
沖縄や小笠原諸島で素潜りをすると、生のソングをきくことが出来、奏でているクジラに近づいていくと、音だけでなく、身体に振動も伝わってくる。音には高低差や強弱があり、長い音や短い音のくりかえしで、著者によると、楽器に例えれば、ビオラやオーボエの音を彷彿させるらしい。
🐳深海のイカや甲殻類を海水ごと丸呑みするクジラの歯は、餌を咀嚼するためにあるのではない。アカボウクジラが歯を使うのは、繁殖期にメスをめぐってオス同士で闘うためである。
幾度もの闘いを勝ち抜いていくため、百戦錬磨の個体の体は傷だらけになる。体に刻まれた傷を「漢の勲章」として、メスへの求愛アピールに利用する。実際、傷跡が多いオスほど、体が大きい傾向があり、メスにもてる。
ちなみに、アカボウクジラの和名は、人間の赤ん坊に横顔が似ていることからきているという。「漢の勲章」とのギャップが微笑ましい。
海の生き物の求愛戦略は、他にも…
🐡1990年代半ば、奄美大島の海底で発見された砂のミステリーサークルの主が、2011年、小型のフグのオスが作る産卵巣と判明。新種のフグには地元の意向も入れ、アマミホシゾラフグと命名。
中心部から縁に向かって、多数の溝が放射状に走り、どの方角から海水が来ても、中心に集まり、常に酸素を含んだ新鮮な海水が卵に供給される。
メスは、卵を安心して産み育てられる環境を整えられる力を持つオスを、繁殖相手に選ぶのだ。
第二章 陸の哺乳類の求愛戦略
🦍ゴリラのオスは、第二次性徴て現れる背中の銀白色の体毛(シルバーバック)、後頭部の張り出し、ドラミングで求愛アピール。"強いオス"の誇示は、メスを惹きつけるだけでなく、競争相手のオスに、戦闘能力を見積もらせ、無駄な闘争を避けることにも繋がる。
🦌🐂🦒🦏の角…
👺🐒テングザルの鼻…
第三章 オスの繁殖戦略
🐳🐐🐎🦁🦭…涙ぐましくも愛おしくも
第四章 メスの繁殖戦略
🐒🦇🐴🐇🐬…したたかに選ぶ
第五章 子供の生存戦略
🐘🦘🦭🦒🦌🐋…可愛さには理由がある
オスとメスの戦略で生まれた子供が、様々なハードルを超え、生き抜いて初めて、命の継承が完成する。
🧐 🫢 🤭
📖…オスがメスに必死に求愛し、メスはクールにオスを見定めること。親が一生懸命、子供を育てること。子どもが、非力ながら必死に生きようとすること。そこには、「生命をつなぐ」というシンプルな目的があるだけである。…📖本書より
我がベランダのメダカの求愛行動は、シャチやザトウクジラに比べれば、遥かに地味だけれど、夜明けにメスに近づいては、相手の気分を伺い、諦めずに何度もタイミングをはかる、メダカのオスたちの慎ましいアプローチは、実に好ましく映るし、針子が、生まれた瞬間から、素早い運動能力と警戒心を備え、糸屑のようなか細い体で、懸命に生きようとする様子には、いつも感動を覚える。
残念ながら、"一生懸命子育て"は全く当てはまらない。何しろ、小さな動くものはみんな食べてしまうのだから。でも、それも、彼らにとって、何か意味のあることと思いたい。
著者は素潜りでザトウクジラの歌に耳を傾け、シャチの立派な背鰭を見てうっとりする、というから、本当に生き物が大好きで、好きな分野を仕事にされているんだなあ、と羨ましく思う。
生き物それぞれのやり方で命を繋ぐ必死さにほろりとさせられ、またクスリと笑える可笑しさもある、楽しい読書だった。
🐻🐻🐻
庭を訪れるwildlifeの様子を発信する、アメリカ合衆国ノースカロライナ州アッシュビルのPatrik Conley氏のYouTubeチャンネルから目が離せない。
鳥、鹿、アライグマ…Patrik の庭やポーチに一番多く来訪するのは、2017年より3代に渡ってやってくる、black bear のfamily。Patrik は、一頭一頭に名前を付け、彼らの気の済むまで庭やテラスで過ごさせ、映像をシェアさせてくれる。
投稿者は、元々彼らのテリトリーだった所に、自分達人間が居を構えたことを理解し、追い払ったり、近づき過ぎることはせず、静かに見守っている。テラスの高いところに吊るした、鳥の為のfeederの中身はかれらが楽しみにしているオヤツであり、唯一彼らに許される悪戯だ。
Black bear のfamilyが、住民や建物に危害を加えることは決してない。この家の主への信頼感は、仔熊の頃から母熊にくっついてきた次世代に受け継がれ、大人になってからは単独で、やがてそれぞれの子供を連れて訪れるようになる。
映像をシェアさせてもらうことで、通常決して見る機会のない、野生動物の驚くべき身体能力や知性を知ることができる。
映像に被さるPatrikの呟きが、野生の生き物に対する愛情とrespectに溢れ、観ているこちらも、ほっこりと満たされる。
みんな一緒に暮らそうよ!そんな夢を見させてくれる、心地良い時間である。
🐖🐖🐖
北海道で起きた悲惨な衝突事故。楽しい旅の途上、理不尽に命を絶たれた方々やご遺族の無念は如何許りか。
衝撃で荷台から弾き飛ばされ、累々と横たわる豚達の姿も痛ましい。屠殺場に送られる途上での事故とか。何という救いのない命だったろうか。
妊娠が確認されてから出産までの数ヶ月、母豚が、ケージ飼いの鶏同様、後ろを振り向けない程の、「妊娠ストール」と呼ばれる狭い囲いに入れられることを最近知った。猫や犬が家族同様に可愛がられるのに比べ、家畜、家禽への、彼らの本性に沿った生を奪う、酷い扱いは何なんだろう。
ドキュメンタリー映画"Gunda"は、切なく感情を揺さぶられる映像ではあったけれど、ノルウェーの農場の母豚は、少なくとも仔豚たちが出荷される日まで、清潔な藁を敷いた小屋と、水遊びの出来る農場を行き来して、のびのびと仔育てをしていた。
豚の飼育実習もされたという、「クジラの歌を聴け」の著者田島木綿子氏は、豚は清潔好きで、高度な社会性を持ち、好奇心が強く、賢い動物であるという。
我々人間たちの命を繋いでくれる彼らもまた命。親子の情愛や、様々な感情がある生き物を、人間にとっての効率優先で、生きているうちから、ただ消費するだけの"食糧"扱いする神経は、理解できない。
せめて、事故で投げ出された彼(女)らの苦痛が一瞬であったこと、現場から逃げ出し、初めて自由に走り回ることを知った一匹が、少しでも遠くへ行けたことを祈る。
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