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大人のための生物学の教科書~高校生物教師必読の本  

 今まで野外の昆虫ネタと昆虫図鑑を紹介してきました。毎日寒いのでフィードに出るのがおっくうになってしまったこともあって、今回も本の紹介です。紹介する本は、2023年9月刊行の『ブルーバックス 大人のための生物学の教科書』(石川香・岩瀬哲・相馬融著)。

知っている人の名前を見つけた

 この本を買ったのは全く偶然で、上野駅ナカの書店の新書コーナで、知っている方の名前をみつけたからです。著者の一人、相馬融さんは学校はちがいましたが、初任の時からお世話になっている先輩生物教師です。

 「はじめに」を読んで、発刊の理由がわかりました。とてもいい話です。著者の一人、石川香(筑波大学生命環境系助教)さんに「教科書みたいな企画をやりませんか」と講談社のブルーバックスの企画から話があったことがきっかけです。生物沼にひきずりこんだ恩師相馬さん、同じように生物沼にはまった石川さんの先輩に当たる岩瀬哲(産業技術総合研究所上級研究員)さんを誘って、三名で執筆することになったそうです。  

内容が濃い新書

 書店でざっとみて、すぐに中身が濃い!ことがわかりました。そして即購入。生物学全般が上手くまとめられていて、高校の生物を終えた人、たとえば大学生、書名にあるようないわゆる大人にピッタリの本です。私的には、高校で生物を教えている先生方には、必読の本と言えます。

 内容は、「第1章 細胞から分子レベルの生物学」、「第2章 個体の継承と形成に関する生物学」、「第3章 個体の維持に関する生物学」、「第4章 生物の集団レベルの生物学」、「第5章 生物界の空間的・時間的広がりを考える生物学」という5つの章からなっています。
 現行の高校の生物の教科書も、いわゆる空間軸で小~大の順に構成されています。ただ、『生物基礎』を学んだ生徒が『生物』を選択するのですが、その分け方が微妙?相馬さんもこの本の「おわり」のところで「コンセプトがいまひとりわからない」と書いていますが、ホントにそうで、もし一緒にできるからこの本の5つの章のようになるのでしょう。

読んでいて楽しくためになる教科書

 高校の教科書は、新課程で多少は改善されたものの、淡々と記述してあり、わかっている人が読めばいいのですが、初学者である高校生が読んでも、わかったようでなんだかわかりにくいのではないと常々感じています。あまり興味を引く記述にはなっていないと思っています。魚料理に例えれば、干物。栄養はある身も凝集しているが・・・。教科書をただ薄く図表を多くすれば易しくなるとはかぎりません。むしろ、丁寧に語るように解説する、疑問を喚起するような記述にする、その分野の背景、研究の歴史、日常生活への応用や最新の内容も必要です。私なら魚料理なら干物より新鮮なお刺身の方が魅力を感じます。ただ、ぶ厚い教科書になってしまいますが。

 『大人のための生物学の教科書』は、こうした高校の教科書で不足した部分の補う点でも良い本です。私も授業の準備をする際に、必ず読んでおきます。例を挙げればきりがありませんが、コロナ対策でよく使用されたパルスオキシメーター、酸素飽和度を測定する器具ですが、この原理もこの本を読んでわかりました。日本の技術が貢献しているそうです。コラムも中々よいです。mRNAワクチンの話など、mRNAは高校の『生物基礎』でも登場するので、生徒も興味を持ってくれます。

どんな授業だったの?

 相馬さんの高校での授業を彷彿とする内容なのでしょうか。生徒たちを生物沼に引き目こむ授業、どんな授業だったのでしょうか。この本の「はじめに」で著者の一人石川さんが、遺伝の授業、特に、「ショウジョウバエの交配実験を通じて、本当に想定された比率通りに特徴を継承した子や孫がハエが得られることを自分の手で確認した感動を経て、私はすっかり生物沼にハマってしたった」と述べています。
 理科の中で生物分野は、覚えることが多くてと敬遠されることもあります。科学は仮説検証が基本、知識を教えるだけでなくWHYやHOWを織り交ぜた授業だったのではないでしょうか。
 「学者になる」より、「教え子100人がそれぞれくれるほうがずっと学問に資する」と、この本の「おわりに」で相馬さんが述べています。このことを実証した作品であるといえるのでしょう。同業の先輩として、良い刺激を受けた本になりました。改めた言いますが、高校で生物を教えている先生はぜひ手に取って読んでください。
 今、近所から書店が消えつつありますが、今回、本との出会いの場である書店の大切さを感じているところです。




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