ヤマケイ新書「山小屋クライシス」は「国立公園クライシス」だった④
今回は④ということで、トイレ問題の話になります。ちなみに、このトイレ問題の前には「山小屋改修問題」があったのですが、特段の意味はありませんが割愛させていただきます。
トイレ問題
本書で最初に取り上げられているのは、富士山のトイレ問題です。
富士山に限らず、全国各地で問題だったようですが、かつての富士山は酷かったようですね。
その後、環境配慮型トイレ(以下の4タイプ)の補助制度が始まったようです。
環境配慮型トイレの代表的な4タイプ
1 チップ式
おがくずやソバガラなどの植物系やプラスチック系の接触材を混合・攪拌し、微生物の働きによりし尿を分解、処理するもの。水を使用せずに処理できるのが特徴。
2 水循環式
微生物の力で生物学的にし尿を処理。さらに、多孔質で表面積が大きいカキ殻などを使用して浄化し、処理水は便器洗浄などに再利用するもの。
3 土壌式
微生物による前処理を行った後、土壌に汚水を通して土壌粒子による吸着や濾過・蒸発散作用を利用して浄化する方法。
4 燃料・乾燥式
し尿を燃焼、あるいは乾燥させて水分を蒸発させ、残った汚物を焼却する。灯油式や電気式があり、燃焼後の灰は無害で処理しやすいのが特徴。ただし、燃焼という方法には二酸化炭素を大量に排出するイメージがあり、近年、山ではあまり選択されない傾向にある。
(「山小屋クライシス」より)
また、トイレ設置時にポイントとなる4つの条件が記載されています。
トイレ設置時にポイントとなる4つの条件
1 自然環境
もし設置候補地が岩場だった場合、便槽などの処理システムを設置する穴を掘ることもままならず、地下に埋めるタイプは使用できない。また、微生物を使った処理方法の場合、日照時間や気温、積雪などの気象条件によって微生物の活動が左右されてしまうので、設置場所の環境を見極める必要がある。
2 利用者数や利用期間
利用者数とトイレのタンク容量のバランスが取れていないと、処理能力を超える利用者数が生じた場合に微生物が働かず、機能しない可能性が高くなる。利用者数が多いところではシーズンによって波があるので、増加時に予備タンクが稼働するタイプのものもあり、山小屋ごとの利用状況に応じて必要なシステムを見極めなければならない。また、冬季閉鎖する場合は、微生物を使ったものは閉館前に菌に休眠処理を施すか、それができなければ死滅してしまうので、来シーズンに新たなものを投入することになる。
3 メンテナンスとコスト
前述したように、微生物は気象の影響を受けやすいため、その条件にあわせて設備をコントロールする必要がある。そうした技術を持ったスタッフを確保しなければならない。また、故障時に必要な知識を持った技術者を呼ぶためのコストを用意できるのかが問われる。
4 アクセス
設置に必要な重機が現場に入れるのかどうか。入れるとしても、どのような方法か。これによって、建設時もメンテナンス時も、方法やコストが大きく変わってくる。特にアプローチが長い場所では、設置後のメンテナンスでも、保守・点検・修理のための技術者を呼んだり、交換が必要となった部品を取り寄せたりする時間がかかるため、場合によっては、その間をつなぐサブシステムを確保しておく必要も出てくる。
(「山小屋クライシス」より)
こうした難しさがあるため、「環境配慮型トイレを設置したくても、その費用や、設置後の維持管理を考えると手が出ない山小屋はまだまだあるのが現状」(「山小屋クライシス」より)のようです。
最後に取材を受けられている上 幸雄さんのご意見がありました。
「山小屋の経営は天候に左右され、そもそも安定したものではないですよね。トイレの設置場所を考えても厳しい条件です。山小屋は民営が多いですが、ある意味、公共施設と言えます。山に行けば、山小屋は登山者にとっての命綱。
〔中略〕
今、我々が山に行った時、公衆トイレがあまりない。そこを補うために、入山者が使わせてもらっているわけだから、設置費なり運営費の一部なりを行政が持ち、利用者が一定の負担をすることは必要だと思います。登山者の自己責任がよく問われる昨今、それも重要ですが、同様に行政責任もあってしかるべきです。山小屋の公共的役割を期待するのであれば、それに対応した予算や支援措置が必要なのです。」
(「山小屋クライシス」より)
調べてみると、各地の山岳トイレで「協力金」「維持管理協力金」という名前で利用者負担が進められていますが、条例等で定められているものではないのがほとんどですので、あくまで登山者としてのマナー。協力しない人が多いのが現状のようです。
国立公園等における山岳環境保全のあり方に係る検討会(令和元年度)
山岳トイレについて参考になりそうな環境省の報告書があったので掲載します。
携帯トイレに関する取り組み
しっかりとしたトイレの設置が難しいところでは、携帯トイレの活用が進められています。
次回の⑤は、国立公園の歴史と構造です。
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