ヤマケイ新書「山小屋クライシス」は「国立公園クライシス」だった③

今回は③ということで、登山道整備の話になります。

登山道整備問題

 本書では、登山道荒廃のメカニズムについて、一般社団法人大雪山・山守隊・岡崎哲三さんの話として次のように記載されている。

 「自然の状態では、地表に降り注いだ雨水は土壌に根ざした植物によって分散され、水量が多くなっても1ヵ所に集中せずに面としてゆっくり流れていきます。土壌と植物、流水のバランスが取れている状態です。それが、人に踏まれたり、植物を刈るなどして開かれた登山道では、凹地となった道に雨が降ると流水が集中して水路となり、侵食が進むようになります。また、水路で分断された登山道の山側と谷側では水の供給量が変わり、植生が変化する可能性も出てきます。さらに侵食が進むと、ぬかるんだり凹凸が大きくなったりして歩きにくくなり、登山者は登山道から外れて周囲の植物帯を歩くようになります。すると、踏み跡が何本にも分かれて複線になり、霜柱が発生を繰り返すことで土壌が崩れる凍結融解現象なども加わって、道が崩れる可能性が非常に高くなります。〔略〕」
(「山小屋クライシス」より)

 登山道は、例え人間による踏圧が無かったとしても崩れていくものだということを強く感じましたが、こうした登山道を管理しているのが登山道(歩道)の事業執行者であり、この登山道の事業執行者が不在(未執行)の登山道は管理が非常に曖昧になっているということです。
 驚くことに、大雪山国立公園では約55.8%が事業執行者が不在(未執行)ということです(この割合には林道・遊歩道含む)。
 事業執行者が不在の登山道では作業を行うことも難しく、また事業執行者が存在する登山道でも予算・人手・技術面で問題を抱えているということです。

 「それであれば、誰かが事業執行者になればいいのでは?」と素朴に思いますが、事故があった時に管理責任を問われる危険性があったり、整備する予算がないなどの理由で、普通は事業執行者にはなりたがらないということです。
 登山をする上では欠かせない「道」ですが、さまざまな問題を抱えながら、なんとかここまでやってきた、というものだということがよく分かりました。「登山道を直したい」と思ってくれる人たちがいるにも関わらず、事業執行者が不在で作業も行えないというのは悲しい現状ですね。

 現在大雪山国立公園では、次のような形になっているということです。たとえ不思議なことでもやらなければならないことなんですね。

 事業執行者がいない登山道を、山域で活動する関係者が募って協議会を作り、事業執行者のいないまま、協働で登山道管理の穴を埋めて修復しているという、ちょっと不思議な構造になっている。(「山小屋クライシス」より)

 本書に触れ、こういう現状を知ることができたのは大変勉強になりました。一登山者として、できることに協力してみたいと思いました。

 本書では細かく触れられてはいませんが、登山道整備の方法論などが良くまとまっていて大変参考になるのが、環境省が事務局で策定した下記の技術指針です。
 私自身今後読んで勉強させていただきたいと思いますが、大雪山以外でも多くが活用できる気がしています。こうした知識・技術を知った上で、現地で水の流れなどをよく確認しながら施工できるようになれたら嬉しいです。

●大雪山国立公園における登山道整備技術指針 2016年改訂版
http://www.env.go.jp/park/daisetsu/data/files/daisetsu2017_02_02.pdf

最後に各地の事例等を掲載

 上記のYahoo!ニュースで環境省から「財政支援」とありますが、難しいことは百も承知ですが、環境省の管理道を増やして欲しいところですね。
 そうしないと、財政支援が切れたらその登山道は荒廃してしまいます。

 次の④は、トイレ問題に入ります。

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