ヤマケイ新書「山小屋クライシス」は「国立公園クライシス」だった②

 今回は②ということで、本書の中身に入っていきたいと思います。

ヘリコプター問題

 この章では、山小屋の運営(ひいては登山文化の維持に)に欠かせない「ヘリコプター」について、①何が起きているのか、②当事者からの問題提起がなされています。
 本書で取り上げられているのは、雲ノ平山荘の以下3つの記事が情報源になっていますので、詳細はこちらを読んでいただくのが一番かと思います。

 私の理解ではざっくりとですが、採算の取れない山小屋輸送からの撤退、パイロット不足、輸送料金の高騰が複合的に関係し、山小屋の生命線であるヘリコプター輸送がままならなくなっているということです。ヘリコプターが飛ばないことで、山小屋での食事提供、トイレの維持管理、山小屋や登山道の修繕などが非常に困難になっています。

 そのため、(もちろん新型コロナウイルス感染症の影響もありますが、)ここ最近多くの山小屋で宿泊料金の値上げが行われているのです。

 この記事が拡散されて自分の目に留まった時、一人の山好きとして衝撃を受けたことを覚えています。正直、「いつかはそうなる」と思ってはいましたが、いざ実際に起きると驚いてしまいました。

 ただ凄いと思うのは、山小屋主人の発信をきっかけにして、さまざまなところで新たな検討・動きが始まっているということです。この辺りは、登山文化を守ろうというアルプス山系の人々の力強さを感じます。

 また、最近ではドローンを活用した山小屋への物資輸送のプロジェクトがいろいろと見られるようになっています。こうした取り組みは必要だと思いますが、ヘリコプターでないと輸送できない重い資材もあったりしますので、ヘリコプター輸送がより厳しい状況にならないか素人ながら心配しています。

 ただ、ヘリコプター輸送そのものを脱炭素などの文脈で考えると、回数などは抑えられると良いのかもしれません。そういう意味では、ドローンなどの技術革新や尾瀬などで見られる「歩荷(ぼっか)」は地球に優しい運搬で素晴らしいですね。

 最後に、この章で最も大切だと思ったことがこちら

それぞれの山小屋が魅力をもつ
「このヘリの問題はある意味、私たち山小屋の人間にとって自業自得だとも思っています。ヘリを飛ばす一社のシェアが大きくなり、もしそこが飛ばなくなったら山小屋、ひいては小屋がさまざまな機能を果たす国立公園の運営が立ち行かなくなってしまうことは分っていましたから。
〔中略〕
今までの山小屋運営は、しっかりとした社会システムに守られて機能してきたのではなく、たまたま登山ブームや好景気による登山人口の多さに支えられてきただけなのです。
〔中略〕
その中で、経営が行き詰ったからといって、ただ『助けて』と叫んでいるだけでは何も変わりません。本気でこの問題を乗り越えたいのなら、それぞれの山小屋が、登山者が行ってみたい、参加してみたいと思ってくれるような魅力を持たなければなりません。その上で互いの違いを認め合って意見を組み合わせていかないと、山小屋はお山の大将のままで孤立し、消滅していくことになるでしょう」
(「山小屋クライシス」より)

 雲ノ平山荘では、国立公園の未来を考えてさまざまな取り組みをスタートさせています。いろいろと学ぶことがたくさんありますので、ぜひ合わせてご覧ください。

 まだ雲ノ平山荘には行ったことがありませんが、すっかり雲ノ平山荘の取り組みを気にして、応援している自分がいます。
 口だけなく、自ら汗をかくことができるのは凄いことだと思います。

 次の③は登山道整備問題についてご紹介します。

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