ヤマケイ新書「山小屋クライシス」は「国立公園クライシス」だった⑤

 今回は⑤ということで、「国立公園の歴史と構造」になります。また、最後の章は手に取って読んだいただきたいので、この⑤で最後となります。

国立公園の歴史と構造

 1931(昭和6)年に「国立公園法」が施行され、1934(昭和9)年に雲仙天草、霧島錦江湾、瀬戸内海、阿寒摩周、大雪山、日光、中部山岳、阿蘇くじゅうの8ヵ所が指定を受け、日本に国立公園が誕生しました。
 次のとおり、外国人誘致という意味合いをかなり含んでいたようです。

国立公園選定方針
我が国の風景を代表する自然の大風景地にして、世界の観光客を誘致する魅力を有するもの
(第1回 国立公園満喫プロジェクト有識者会議 配布資料)

 また「国立公園法」は、1957(昭和32)年に「自然公園法」に引き継がれています。

自然公園法 第1章総則第1条
「この法律は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保険、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。」

地域制公園

 ここから本書では、国立公園の管理について、アメリカの「営造物公園」と日本やイギリスなどの「地域制公園」、特別保護地区と第1~3種特別地域などに分けて解説しています。

 アメリカの国立公園は「営造物公園」を採用し、内務省国立公園局が一括で土地を所有し公園専用地として利用しています。そのため、厳正できめ細やかな自然保護と利用規制が可能になっています。
 一方、日本やイギリス、イタリア、韓国などは「地域制公園」を採用し、土地所有を一元化せずに私有地などの土地も含んだまま区域を定めて指定し、行為規制によって保護を担保しようというものになっています。

 「営造物公園」の方が管理しやすいと思われるが、なぜ「地域制公園」が選ばれたかについては、愛甲先生が次のように話されています。

「日本の国立公園は、全体の約6割が国有地(ほとんどが林野庁の国有林)ですが、その他の都道府県などが持っている公有地が1割ちょっと、私有地が2割以上あります。これは、国立公園に指定される以前からその土地で農業や漁業をやっていたり、場合によっては住んでいたりしたためです。〔中略〕」できるだけ既得権を尊重しながら、風景や生態系の保護に重大な影響を及ぼすようなことだけはやめてください、そうしたことに影響が出ない範囲内で今までやっていることは続けていいですよということにした、それらの行為も風景をつくっている一部と考えた妥協の産物として誕生したものなんです」
(「山小屋クライシス」より)

少ない人員と予算

 ここで、日本の国立公園の人員と予算の少なさが、アメリカとイギリスの国立公園との比較でまとめられています。さまざまなことには対応できないことが一目瞭然ですね・・・

●アメリカ イエローストーン国立公園   
正規職員数  330人
面積     8991㎢
年間来訪者数 400万人
年間経済効果 380億円

●日本 中部山岳国立公園
正規職員数  10人
面積     1743㎢
年間来訪者数 880万人
年間経済効果 統計なし

●イギリス ピークディストリクト国立公園
正規職員数  280人
面積     1438㎢
年間来訪者数 870万人
年間経済効果 770億円

(「山小屋クライシス」より、表形式を改変)

ここから先は

 ここから先は(も)、かなり良いことがまとめられていて、読んでいて頷くばかり、どこも一緒なんだなと(ある意味悲しく)感じました。
 自分の記録に一部だけ引用しますが、ぜひ本書を手に取って読んでみて欲しいです。

愛甲先生のコメント
「国立公園を管理するための行政の窓口がバラバラになっていることが大きな要因だと思います。環境省、営林署、文化庁、都道府県、市町村、だれもキャスティングボード(議長決済)を取らないので綱引きになって、いつまで経っても『ここのところどうするんだ』と言い合って責任の所在がはっきりしないのです。でも、いい部分もあると思います。〔中略〕協議会のようなものを作ってきちんと全体で合意し、『こうやっていきましょう』という仕組みさえ作れれば、よい方向に進むと思います。」
(「山小屋クライシス」より)
愛甲先生のコメント
「ポイントは外圧だと思います。世界遺産やジオパークなどに指定されると、日本政府には国際機関に説明する責任が生まれます。そうなると、ちゃんとやるようになるんです。」
(「山小屋クライシス」より)
愛甲先生のコメント
国立公園を管理している他の国と日本を比較した時、日本で最も弱い部分は、やった結果をきちんとフィードバックしないことです。〔中略〕登山道の管理状況とか山小屋が置かれている状態も、ほとんどの国民が知らない。登山者さえも知らない。つまりは、批判もされない。〔中略〕今はアクションを起こしたり評価したりするには、エビデンスが求められる時代です。特に、国際的にはそれがとても大事と言われています。」
(「山小屋クライシス」より)
環境省自然保護官のコメント
「国立公園の構造を変える前に、現場がダメになってしまっています。山小屋の危機的な状況もそうですし、私たち自然保護官の職場でも、中堅クラスの人材が辞めていく傾向が全国的に止まりません。これでは若手を育てることもできない。そして、いくら私たちが『現場の要となっている山小屋が今こういう状況ですよ。なんらかの手を差し伸べていかないと、国立公園としての枠組みや機能が維持できなくなってしまいますよ』と訴えても、上部組織にはまったく響きません。実際に経営できない状態に陥り、国立公園の最前線で山小屋が機能しなくなった状況を目の当たりにしないと伝わらないのかもしれません。でも、そんな状況は、避けなくてはならないことです。」
(「山小屋クライシス」より)

 特に、環境省自然保護官のコメントは、かなり思い切ったコメントだなと思いました。組織内で何か面倒なことになっていないと良いですね。

 最後に、国立公園の協議会(協働型管理)の事例を掲載して終わりにします。

協議会(協働型管理)の事例

 本来であれば⑥ということで、本書の最後にある「対談『これからの国立公園』」をまとめたいところですが、これはぜひ、本書を手に取って読んだいただきたいと思います。

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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