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小さき者たちのクリスマス『オンネリとアンネリのふゆ』

 12月に入った途端に寒い冬がやってきました。アドベントも最終週となり、クリスマスが待ち遠しいですね。この時期、北欧はイルミネーションやクリスマスマーケットで賑わうのですが、今年のクリスマスは少し様子が違うようです。エネルギー高騰のため、各地のイルミネーションの時間が短縮されたり、暖房の温度が低く設定されたりしているようです。いつもとは少し違うクリスマスですが、厳しい冬を乗り越えるために楽しむ気持ちは大切にしたいものです。

 北欧映画には、クリスマス映画が多くあります。実は、このコラムの第1回目に紹介したデンマーク映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』もクリスマス映画です。タイトルからは想像できませんね。ぜひ、未見の方はこの時期にご覧になることをおすすめします。
 さて、今回は数多くある北欧のクリスマス映画から、フィンランド映画『オンネリとアンネリのふゆ』(2015)をご紹介したいと思います。前回紹介した『オンネリとアンネリのおうち』の続編です。

ストーリー

 バラの木通りの暮らしにすっかり慣れた様子のオンネリとアンネリ。クリスマス間近のある夜、二人のもとに小さな訪問者が現れます。それは、プティッチャネンと名乗る小さな家族でした。一家は、住む場所を失い、バラの木夫人に家を建ててもらうために遠くからやって来ました。
 オンネリとアンネリは、バラの木夫人の居場所が分かるまで、自分たちのドールハウスに滞在するよう一家に提案します。そして、クリスマスまでの数日、一家とともに、オンネリとアンネリはクリスマスの準備を始めます。
 二人は、クリスマスまでの日々が楽しく過ぎていくかと思っていました。しかし、プティッチャネン一家を狙う大人がオンネリとアンネリの家にやってきて、一家は窮地に陥ります。


『オンネリとアンネリのふゆ』トレーラー


フィンランドのクリスマス

 『オンネリとアンネリのふゆ』は、前作『オンネリとアンネリのおうち』と同様に、マリヤッタ・クレンニエミ(1918-2004)の児童文学『オンネリとアンネリのふゆ』が原作となっています。原作は、クリスマスを中心に冬から春にかけての物語ですが、映画はクリスマスだけにフォーカスされています。
 映画『オンネリとアンネリのふゆ』の見どころは、温もりのあるクリスマスの雰囲気が、可愛らしく色彩豊かに描かれているところです。ここに描かれる温かく明るい冬は、現実の寒く暗い冬を少し忘れさせてくれます。
 北欧のクリスマスはユール(フィンランド語はjoulu:ヨウル)と呼ばれ、家族みんなで過ごします。この時期の雰囲気は日本の大晦日から新年に似ています。オンネリとアンネリたちが母親たちから、クリスマスは家に帰ってくるのか、掃除は終わったのかと聞かれているところは、まさに年末っぽいですよね。
 北欧のクリスマスツリーは本物の木を使います。オンネリとアンネリたちのクリスマスツリーも本物の木です。水やりを忘れると葉が落ちてしまうらしいのですが、ツリーの世話をすることもクリスマス気分を盛り上げるイベントの一つなのかもしれません。
 そして、バラの木通りのみんなでプティッチャネン一家とクリスマスを祝うシーンは、本作でもっとも北欧のクリスマスを感じられる場面です。みんなで手をつなぎ、クリスマスツリーを囲んで輪になり、歌を歌いながら踊ります。このツリーのまわりでのダンスは、まさに北欧のクリスマスを代表する温かみのある光景です。

自分と異なる人々に向ける視線

 『オンネリとアンネリのふゆ』は、楽しいクリスマスだけが描かれているわけではありません。プティッチャネン一家への視線を通して、自分と異なる人々への偏見・差別がどのようなものなのかも描かれています。偏見・差別は、自分と異なる人々を同じ人間だと考えない態度から始まります。そして、この態度によって、自分と異なる人々をモノとして扱っていいと思ってしまうのです。
 本作では、オンネリとアンネリがプティッチャネン一家に向ける視線と、ガソリンスタンドを営むアデレが一家に向ける視線が異なる表現で映し出されています。これによって、自分と異なる人々に対する両者の態度の違いが明確になっています。
 オンネリとアンネリがプティッチャネン一家に向ける視線は対等です。また、その視線は、空間の共有をともなって表現されています。これは、二人がドールハウス内の一家と関わるシーンによく表れています。ここでは、アンネリとオンネリは、ドールハウスの壁を取り外し、同じ空間で同じ目線の高さで話をしています。この壁を取り外すという動作は、心理的な壁を取り外しているとも考えられるでしょう。また、夜は壁を元に戻す、壁を取り外す時はノックするなど、相手のプライバシーを尊重していることが分かります。オンネリとアンネリは、プティッチャネン一家を自分たちと違いはあるけれど、同じ人間として受け入れているのです。
 一方で、アデレが一家に向ける視線は窃視的、支配的です。これはアデレが一家を連れ去りに来たシーンによく表れています。ここでアデレは、ドールハウスの中を窓から覗き見します。大きく彼女の目だけが映し出されることによってグロテスクさも感じます。そして、彼女はドールハウスの屋根を取り外し、上から手を入れて一家をさらいます。この時の視線は上から見下ろす形となり、まさに支配的な視線です。また、屋根を取り外すという行為は、オンネリとアンネリたちの一家に対する行動と全く異なり暴力的です。アデレは、プティッチャネン一家を同じ人間と考えず、モノとして扱っているのです。彼女は、プティッチャネン一家のプティが自分と同じサイズになった時、ようやく自分の犯した間違いに気づきます。
 このようにプティッチャネン一家に対する視線は、自分と異なる人々に対する様々な視線を映しています。バラの木通りに暮らす人々がとびきり個性的でいられるのは、自分と違っていてもみんな同じ人間で、お互いに協力できると分かっているからなのでしょう。


基本情報
『オンネリとアンネリのふゆ』2015年製作|81分
製作国:フィンランド
原題:Onneli ja Anneli talvi
監督:サーラ・カンテル
原作:マリヤッタ・クレンニエミ
脚本:サーラ・カンテル、サミ・ケスキ=バハラ
出演:アーバ・メリカント、リリャ・レフト、エイヤ・アフボ、ヤッコ・サアリルアマ、ヨハンナ・アフ・シュルテン、エリナ・クニヒティラ、キティ・コッコネン他


気になる北欧映画
『コペンハーゲンに山を』(デンマーク、2023年1月14日公開予定)
 2023年最初に封切られる北欧映画は、デンマーク製作の『コペンハーゲンに山を』です。本作は、2019年にコペンハーゲンに誕生したゴミ焼却場「コペンヒル」を取り上げたドキュメンタリー映画です。「コペンヒル」は、発電所を兼ねていたり、屋上が人工スキー場になっていたり、ハイキングコースがあったりと、"普通"のゴミ焼却場とは一味違う施設なのです。本作を観れば、「コペンヒル」誕生の裏側がわかるかもしれません。
2023年1月14日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー。

『コペンハーゲンに山を』トレーラー

『コペンハーゲンに山を』公式サイト


著者紹介:米澤麻美(よねざわ あさみ)
秋田県生まれ。マッツ・ミケルセンの出演作からデンマーク映画と出会い、社会人を経て大学院でデンマーク映画を研究。法政大学大学院国際文化研究科修士課程修了。


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