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デンマークでサッカーをする-1

 デンマークの保育園で働いているとき、園児の親たちに誘われサッカーの試合にでたことがある。ある日、ホーセンス(Horsens ユトランド半島中部にある人口51000人の街)に住む、デンマーク人男性と所帯をもつTさん訪ねていたとき、保育士のMartin(マーチン)からメールが入り、彼を介して誘われたのだ。もちろん二つ返事で参加を伝えた。デンマークでサッカーの試合に出るのは、約1年ぶり。楽しみであった。 
 そもそも私とデンマークの出会いはサッカーだった。テレビでデンマーク代表の戦い振りに感動したからだ。デンマーク代表から受けたパスを、私は足下から離さずドリブルを続け、デンマークに留学し保育士をするという人生の中の一つの「Gaal」に繋げることができた。
 

 サッカーはハンドボールとならびデンマークの国技といってもいいと思う。小国ながら優れたサッカー選手を毎年のように輩出し、彼らは欧州各国のクラブで活躍している。日本の浦和レッズにも現在、デンマークのユトラント半島Vejile(ヴァイレ)出身のアタッカーのKasper Junker(カスパー ユンカー)、同じくヴァイレ育ちのデフェンスのAlexander Scholz(アレクサンダー ショルツ)のデンマーク人2名が所属し、めざましい活躍をみせている。現状でいちばん知られている世界的サッカープレーヤーのChristian Eriksen [注](クリスティアン エリクセン)は、Middelfart(ミゼルファート)という人口17000人の街の出身だ。デンマーク代表としても通算100試合以上出場し38ゴールを決めるなど、デンマーク代表の攻撃の要となっている選手だ。

写真は本文と関係ありません。

  試合当日、マーチンのメールを読み返しながら、駅に向った。月曜日なのに駅は、人が少なく、店も開いていない。考えてみると今日は祝日聖霊降臨祭(せいれいこうれいさい)だった。午後にかかると帰宅ラッシュが予想されたので、早めに試合会場へ向かうことにした。
 マーチンがサッカ-場の最寄り駅まで買ったばかりの車で迎えに来てくれた。マーチンは新車を私に自慢したかったようで、車中では車の話しをずっとしていた。
 試合会場に到着。知っている顔が揃っていた。
 保育園の保護者であるエラちゃんのパパ Uffe(ウフェ)さんやエマちゃんのパパ Erik(エリック)さんがいた。
「いつも娘がユータローの話しをしているよ」
とエラちゃんのパパが私の顔を見て行った。園児の家族たちとプレ-するのが、いつも以上に楽しみになった。
 このサッカ-の集まりは週に1度、地域に住む住民、学生、先生たちなどが集まって活動している。中には60歳以上のメンバ-もいてバリバリ動いている。デンマークでは地域での交流はとても温かく、保育園、学校、介護施設、時にはスーパーの店員までも参加するのだ。基本的には集まったら走ったり、トレーニングをするのだが、4月5月は毎回のように試合をする。デンマークでは日本のような学校単位の部活動というのがない。デンマークの子どもたちがサッカーをするのは、校庭ではなく、住む地域にあるスポーツクラブに入会して公共施設の立派な芝生のサッカーグラウンドである。楽しんでサッカーを覚えていくのがデンマーク流。エリクセン選手も街のサッカークラブでのびのびサッカーしてきたのだろう。

写真は本文と関係ありません。

 日本で時々伝えられる勝利至上主義の行きすぎた部活動で、指導者による暴力や先輩のいじめなどというのは、デンマークで、少なくとも私は聞いたことがない。いまだに根性論でスポ-ツ指導する大人が日本で後を絶たないのは何故だろうと改めて思う。根の深い問題であることはわかるが、簡単に改善されることではないことも感じている。
デンマーク人がプレーする長閑でフェアなサッカー風景をあちこちみていて、ふとそんなことを考えた。
 
 さて、試合が始まった。
(以上)


 [注] エリクセンの名は、去年開催された2020欧州選手権で起きたアクシデントでさらに世界に知られることになった。デンマーク人が誰もが記憶した「悲劇」が起きたのは2021年6月12日、グループリーグ初戦のフィンランド戦の最中だ。エリクセンは突如ピッチに倒れてしまった。心停止だった。明らかにおかしな倒れ方をしたエリクセンの姿を見て、チームメイトがすぐさま駆け寄り、気道の確保を行い、蘇生し、なんとか一命をとりとめた。エリクセンは現在は回復し、「スローイングからボールをとりにいくまでは覚えている。それ以降覚えていない。僕はあの5分間は死んでいた」と冗談を言うくらい元気になり、今年から現役に復帰している。 


著者紹介 遠藤祐太郎(えんどう ゆうたろう)
1986年東京生まれ、20066年日本児童教育専門学校卒業。
2009年に保育士資格を取得。
立川市内の保育園に勤務した後、2014年8~12月までオレロップ体育アカデミー(フォルケホイスコーレ)留学。
2015年2月~8月までデンマークのベァネゴーン イ オレロップ保育園に勤務。同年8月帰国。2018年『デンマークで保育士-デンマークの子どもたちからもらったステキな時間』を出版。
現在は都内の私立保育園と学童に勤務。趣味はスポーツ。






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