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ヒゲ面の兄ちゃんに託した僕らの未来 – PART2。 完結編


僕は最悪の気分に包まれた。

僕はその日、深夜まで選挙の開票報道をするテレビにかじりつき、日本の行く先を見つめた。そしてその選挙の結果は、支持をしていた三宅洋平氏は見事に惨敗し、参議院議会もまた改憲勢力に2/3の席を取られ最悪の結末となった。

僕からの見える世界では、参議院選の公示以来、三宅洋平氏を応援する声や、改憲勢力に反対する声は、日追うごとに大きくなっていって、それに伴い僕の周りでも多くの論争が巻き起こっていた。

ウェブ上を飛び交う論争や応援の熱気は、どこか革命の始まりの匂いさえ感じさせるもので、とりわけ三宅洋平氏が主催する選挙フェスの現場では、ここから時代が変わっていくんだという声を高らかに上げる人々が集っていた。

しかし蓋を開ければ、結局いつもと変わらぬ自民党の圧勝で、僕らの声は日本社会の大多数からすればとっても小さなマイノリティでしかなくて、それさえ気づかせてくれなかった己の情報の偏りにうんざりした。

テレビや新聞をはじめとするマスメディアの報道は、僕らから見るとかなり右に偏っていると感じていたが、でもその逆に、そこが右ならここは左で、フェイスブックやツイッター等の僕の目の前を過ぎ去るタイムラインにも大きく情報の偏りがあったみたいだ。

小さなコミュニティで盛り上がる情報に熱狂し、世界の全てが盛り上がっているとさえ感じていたのかもしれない。それは大海を知らない井の中の蛙と同じで、ここから見える景色が自分達の世界の全てだと大いなる勘違いをしていた事実に気づかされ、僕は落胆した。


選挙開票日の翌日、友人の農家を手伝いにとある街へ出かけた。

そこには雄大な山々囲まれた自然に溢れた美しい大地があり、豊かに実のった桃を収穫する人々の美しい生活があった。

収穫に追われる人々の生活は忙しく、朝は日の出から、夜は深夜まで自然の恵みを逃さないよう収穫と出荷の業務ににいそしんでいた。桃の収穫に追われる街には、あたりに桃の匂いは感じさせるけど、東京で感じた選挙の残り香は一切感じさせない。

それでも選挙の翌日という事もあり、休憩の時間に一瞬選挙の話が話題に上がった。僕はそこではよそ者なので、僕はひっそりと口をつぐんで静かに皆の言葉に耳を傾けた。

その美しい街では、当たり前のように原発の話や憲法改正の話は出なくて、街を助けてくれる議員の話になった。それは何だかとても当たり前のような気がして、よそ者の僕でも、この美しい場所では原発の不安や、憲法改正、右傾化する安倍政権の不安をなんて一切感じない。

東京で感じていた大きな不安感はここにはなくて、美しい明日が当たり前のようにまたやってくるとしか感じない。

その時、僕は思った。

実はこの世界は実は多次元的で、荘厳な山々に守られたこの場所には、原発や憲法改正の話、安倍内閣の暴走などはじめからなかったのではないだろうか?

東京で感じていた大きな不安の雲は、もう過ぎ去ってしまったのではないだろうか?


僕が東京に帰る頃には空が曇って霧が出はじめた。

この街を囲む雄大な山々にも大きな霧がかかり、荘厳な山の景色はより神秘性を持った。そんな山々の間を駆ける電車の窓の外は、深い霧に覆われていって、電車の窓にも細かな水滴が付きはじめた。

霧がかかった山々の間を走る電車の景色は、どこか別の世界を走っているようで、日が傾き辺りが暗くなり始めると山の神秘性は夜の闇の恐怖へと姿を変えていった。

すると山の谷間の小さな家に灯りがともり、窓の水滴に反射した。

また一つ、また一つと灯りが増えていく家の灯りを反射する。山の谷間に見える家々の灯りが僕の顔を照らして、闇への恐れに温もりを与えてくれた。

その温かい灯りは、人々の息づかいを感じさせた。

東京に近づくごとに増えてゆく家の灯りやビルの光は、すっかり曇った電車の窓を照らして、漆黒の窓の景色を色とりどりに染めあげた。


僕から見える世界では、今回の選挙の結果を通して、日本はまた一つ ”戦争をしかける国” へと歩みを進めたのは間違いはない。

憲法改正への一歩というのは僕の中でそれほどまでも大きかった。戦争で兄弟姉妹を多く失くしたおばぁちゃんに育てられた僕は、日本が戦後保持してきた平和憲法は世界に誇れる唯一のもので、この平和憲法の先に世界中が知らない未来があると信じていた。そんな未来があって欲しいと信じていた。

それでも僕らは気づかないうちに ”戦争をしかける国” へと続く未来へまた一つ歩を進めてしまった。

考え過ぎだと言われるかもしれない。

誇大妄想だと嘲笑われるかもしれない。

それでも、僕はどうしてもあの時感じた人々の温もりを守りたくて、大好きなこの国が危険な未来に近づいている事に気づいて欲しくて、僕は静かに反戦を謳っていこうと思います。

電車の窓に映る街の灯りや人々の息づかいと、

豊かな自然溢れる大地の人々の生活と、

東京雑踏と、

美しい日本と、

この蒼い星が愛おしくて。


もしかすると僕らの中には既に、に一つの時代の革命が静かに始まっているのです。










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