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日本のゴミリサイクル率は低いのか?~歴史から紐解く欧州と日本のゴミ事情(Deeper寄稿記事転載)

※2021年7月15日にDeeperに寄稿した下記リンク記事の転載です。

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先日、コロナ禍のセルビアに一か月滞在した。AirBnBのアパートに滞在していたのだが、
オーナーにゴミの捨て方を尋ねると、「道路に置いてある大きなコンテナに放り投げればよい」という。

『ヨーロッパは環境意識が進んでいるのでは?』と思っていたが、東欧諸国はそうでもない。

セルビアでは、首都ベオグラードにおいても、ゴミの分別は行われていない。
燃えるゴミ、ビン、カン、プラスチックボトル、不燃ごみなど全てのゴミを一つのボックス(コンテナ)に投げ入れる。

集めたゴミは郊外の巨大な廃棄物埋立場に運ばれ、捨てられる。
覆土(ゴミの腐敗などを防ぐために土を被せる)もせずに放置しているようだ。

そんなセルビアにも、来年2022年には首都ベオグラードにも近代的な廃棄物処理施設がやってくる。伊藤忠、仏スエズが主導し、国際金融公社(IFC)などが融資を提供する処理場だ。


この動画を見ると、ベオグラードの現状の課題がわかる。


Zero-waste都市を標ぼうするスロベニア

同じ東欧諸国、旧ユーゴスラビア連邦の中でも廃棄物処理のレベルは様々だ。

例えば、一番原始的な方法(環境配慮されていない方法)は、埋立処分場に巨大な穴を掘りそのまま廃棄する方法だ。
地面との間に遮水シートも設けておらず、有害物質などがそのまま地面に垂れ流しとなる。(隣国のボスニアはこの状況)

地面に垂れ流しはマズイと、遮水シートなどでカバーするのが次の段階だ。

その次に、そのまま放置はマズイので、ゴミの上に土を被せる(覆土)をして被せる。これが一般的な埋立処分だろう。

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一方、日本の場合は焼却処分をする。そのまま廃棄をする埋立処分と比べ、体積を20-30分の1程度になるため、埋立量を大幅に減らすことが可能だ


同じ旧ユーゴスラビアでセルビア、ボスニアのような原始的な処分場を持つ国がある一方で、
スロベニアはヨーロッパ諸国でも最先端の取り組みをしている。

以下の記事にあるように、スロベニアの首都リュブリャナは、2014年に欧州で初めて「zero-waste(廃棄ゼロ)」都市を目標に設定した。

同施設はリュブリャナだけでなく周辺都市を含めた約70万人分のごみのリサイクルと処理を行っている。運ばれてくるのは分別後に残ったその他ごみと生ごみ。
先端技術が活用されており、ここで取り扱われるごみの97〜98%がアルミ、堆肥、燃料に生まれ変わっているという。埋め立てられるのは残りの2〜3%のみ。
リサイクル可能な、パッケージ、紙、プラスチック、ガラスは直接リサイクル企業に運ばれ処理されている。

目標を設定した2014年当時でも、1人あたりの年間ごみ排出量(residual waste)は150キログラム以下と驚異的な少なさになっている。
(日本の一人当たり年間ごみ排出量は330キログラム程度。一日あたりで900-1000グラム程度。それでも先進国の中では低いほうだ。)

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プラスチックリサイクルの基礎知識2021(一般社団法人プラスチック循環利用協会)より

焼却処分は悪なのか?

さて、上記の記事の中では、焼却処分を奨励していないような記載がある。

リュブリャナのごみ削減の取り組みで特筆すべきは「焼却炉」という選択肢を選ばなかったことだ。日本はリサイクル率が高いといわれているが、実際のところはほとんどが焼却処分されているとの指摘がある。
一方、リュブリャナでは「真のリサイクル/リユース」が実施されているのだ。
それを可能にしているのが2015年に開業したリサイクル施設「Regional Center for Waste Management(RCERO)」。

こちらの記事でも、熱回収(Thermal Recovery)を含めない場合、日本のリサイクル率は欧州諸国と比べて低いと指摘をする。

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※OECD iLibrary 『Environment at a Glance 2015』より、編集部作成

ここで以下のような疑問が湧いてきた。

● なぜ、日本は焼却処分が前提なのか?(ヨーロッパは埋め立てが前提なのか?)
● 焼却処分は悪なのか?
● 本当に日本のリサイクル率は低いのか?
● ヨーロッパと日本でなぜ廃棄物処分方法が異なるのか

もう少し深ぼってみようと思う。

焼却処分が前提の日本、埋め立てが前提の欧州

日本の廃棄物処理は焼却が前提となっている。そこには、日本特有の事情がある。

日本は1960年代、高度経済成長に伴いゴミが増加。埋め立て処分地を圧迫した。
国土が狭い日本では、ごみを焼却する事により大幅に体積を圧縮し速やかに埋め立て処分する必要があった。(焼却すると体積は1/20程度になる)

また、日本特有の食文化や気候も関係する。

なぜ、日本はこのような、排出源分別、焼却処理、準好気性埋立という独自の技術を生み出したのでしょうか。それは、日本の食べ物に含まれる水の量が多く、気候が温暖で、生ごみが腐りやすく、他のものと混ぜてしまうと分けにくいからです。または、降水量が多く、埋立地への降水の浸透を完全に防ぐことができないからです。

「日本とアジアと世界のごみ処理」(2018年度 37巻4号)ー国立環境研究所・国環研ニュース 37巻より

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世界でいち早くゴミ焼却に乗り出した日本は、焼却関係のごみ処理技術で世界をリードしていく。

都市化や住民意識高まりとともに施設の建設が厳しくなり、周辺住民との合意形成のために、排ガス処理を強化して信頼を回復し、加えて熱回収などによる地域還元が求められるようになりました。
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現在では世界でも有数のごみ焼却施設を有する国となっている。その施設数は2011年度で1,211ヶ所であり、その処理方式にはストーカ炉、流動床炉、焼却灰のリサイクルを目的としたガス化溶融炉等があります
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現在では、高度な環境保全技術が導入されている他、高効率の発電への対応、自動燃焼装置や自動クレーンなど安定操業に係る技術が完成されています。また、建設が始まった当時の低カロリーのごみから現在の高カロリーごみに至るまで多様なごみへの対応技術も併せ持っており、アジア地域のごみ質に合わせたノウハウなども蓄積されています。

日本の廃棄物処理・リサイクル技術ー環境省より各所を抜粋

せっかく焼却するのだから、焼却熱を捨てるのはもったいない。再利用する熱回収(Thermal Recovery)の技術が発展した。また、焼却時に発生する排ガスや有毒物質の除去も世界トップレベルの技術力をほこる。


一つ例をあげると、6月に見学に伺った千葉県流山市の廃棄物処理施設では、流動床式ガス化炉という処理方式を用いており、ダイオキシンは国の基準値の1/100以下にまで下げている。
検査官が計測器では0.0000と検出できないほどの数値で驚いたとのことだ。同様に水銀も、2004年に竣工した時点で、2019年に更新された世界基準である0.03mg/m3Nを下回る基準値である。

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流山市クリーンセンター
出典:Wikipedia

一方のヨーロッパは1990年代まで埋め立て方式が主流だったが、その後、環境配慮の観点から埋め立て処分を減らす動きになっていった。

一方、ヨーロッパでは1990年代までは埋立処分が主流でした。1999年にEU埋立指令が制定され、EU加盟国は有機性ごみの埋立処分を大幅に削減することが求められ、以後、埋立処分からの脱却を目指すことになります。東ヨーロッパや南ヨーロッパではまだ埋立処分率が50%を超える国が多いのですが、多くの国で中間処理を導入することによって1990年代と比較すると埋立処分率が大幅に低下しました。

なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?(2020年8月)ー国立環境研究所
1990年代の終わり頃から、欧州で、有機物を埋め立てる前に減らす取り組みが始まりました。その際に導入された主な技術は、ふるいなどを用いた機械によるごみの選別と堆肥化やバイオガス化でした。燃えにくい生ごみを焼却処理するためには、排ガスを処理する設備や燃料が必要なため、建設や維持管理の費用が高くつくからです。

「日本とアジアと世界のごみ処理」(2018年度 37巻4号)ー国立環境研究所・国環研ニュース 37巻より

埋め立てが前提で焼却施設をもたないヨーロッパ諸国。埋立処分場へ持っていくゴミを減らすために、リサイクル・リユースの動きが加速した。
また、リサイクル・リユースできないゴミは埋める前に固めて固形燃料にする。ヨーロッパでは、RDFと呼ばれる廃棄物固形燃料を活用する動きが広まっていった。

※RDF(Refuse Derived Fuel):
生ごみも水分を飛ばしカラカラにすれば燃える素材になる。その燃える素材を固めたものがRDFである。

※RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel):
一方、RPFはは古紙及びプラスチックを主原料とする固形燃料で、生ごみよりも燃えやすい。RDFと比べると比較的新しく日本で開発された技術で日本以外ではあまり使われていない様子。

詳細はこちら:廃棄物固形燃料化(RDF、RPF)ー環境展望台

廃棄物固形燃料のメリットは、化石燃料の代替となることだ。
廃棄物を燃やすことで、石炭、石油、天然ガス、灯油といった化石燃料の使用を抑える事ができる。

同じ熱回収でも、日本では焼却処理場がありきのため、焼却場の排気熱をどう利用するか?が重要な一方、埋立処分が前提だったヨーロッパでは、コストをかけて新たに焼却処理施設を建設せずに、持ち運び可能な廃棄物固形燃料を活用したほうが合理的であった。

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日本でも一時期流行った廃棄物固形燃料

とはいえ、日本でも廃棄物固形燃料が注目を浴びた時期はあった。
廃棄物固形燃料は、臭いが少なく、軽くて持ち運びがしやすい事、水分がないためそのまま燃やすよりも熱効率が良い

日本でも1990年代以降に、老朽化した可燃ごみ処理施設の代替施設として廃棄物固形燃料の製造施設が設置されるようになった。

しかし、当時の技術では実用化の中でいくつかの課題が出てきた。

例えば、1990年に我が国で初めて稼働した、奈良県榛原町の製造施設では、固形燃料の製造過程で塩化ビニルや塩類が混入することにより、燃料性状が悪化し、間欠運転の温水ボイラなどの燃焼装置が腐食されるという問題が生じた。また、燃料成形時の電力消費が大きすぎることも問題だった。さらに、固形燃料に適さないものは埋め立て処分されるため、ごみ問題の全面解決にならないことも判明した。
廃棄物固形燃料化(RDF、RPF)ー環境展望台

極めつけは、2003年の三重県での爆発死亡事故だ。この事故を契機に、日本では廃棄物固形燃料施設の建設は下火になっていった。

しかし、近年になり、日本でも再び廃棄物固形燃料の活用が注目され始めている。

再生可能エネルギーに焦点が当たる中で、すっかり忘れ去られていたRDF。なぜ、今、焦点を当てたのか。倶知安町の担当者はコスト面を最大のポイントにあげた。町の試算では15年間の維持管理費や補修費を加えても、焼却処理に比べて6割のコストで済むとはじいている

今後、老朽化により建替えが進む自治体の廃棄物処理施設。廃棄物固形燃料の利用が徐々に増え始めるかもしれない。

熱回収は悪なのか?

焼却処分が前提の日本。
『リサイクルせずに焼却処分されてしまう』とだけ聞くと、熱回収自体が悪いものに聞こえてしまう。

以下の記事でも、『焼却処分で熱回収している日本は遅れている。』という印象を持ってしまう。

しかし、焼却処分を悪いもの、時代遅れとするのは間違いだ。
埋め立てが前提であったヨーロッパ諸国でも、近年、焼却・廃棄物発電などによる熱回収は注目されている。

先月投稿の上記の記事でも、デンマーク、オーストリア、ベルギーでの廃棄物発電、暖房熱利用の事例が取り上げられている。

リサイクル出来ないゴミの活用として、そのまま埋めたり、焼却するのではなく、焼却熱を発電や暖房に利用したり、廃棄物固形燃料として再利用することは重要であることは指摘しておきたい。

今回は日本とヨーロッパの現状を比較した。

次回は、日本とヨーロッパのリサイクル率を比較するとともに、その違いの原因に迫る。
また、廃棄物処理先進国と思われがちなヨーロッパが抱える課題にも迫りたい。

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