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『アート・イン・ビジネス』刊行によせて(有斐閣・四竈佑介)

はじめまして。『アート・イン・ビジネス』の編集を担当しました、有斐閣の四竈(しかま)と申します。

「法律書の有斐閣からなぜアート?ビジネス?」と思われたとしたら、学生時代にしっかり勉学に励んだ方なのだろうと思います。私自身の専門は法学ではありませんが、ふだんはやはり大学の先生、おもに社会学者と仕事をしています。「そんな人(会社)がなぜアートの本を?」というのは、もっともな疑問でしょう。

シンプルにお答えするなら「おもしろい話だったから」です。私自身はひと月〜数カ月に一度程度、美術館やギャラリーに行くようなライトなアートファンですが、会社生活、いわゆるビジネスの中にアートの入り込む余地があるとは、あまり考えたことがありませんでした(勤め先は神保町で一番古い出版社ですし)。それが、美術回路の方々のお話によれば、ビジネスの世界でこそ、アートが盛り上がっているとのこと。

まず興味本位で食指が動いてしまったのは、編集者の性かもしれません。著者たちから企画の萌芽となるお話やさまざまな事例を伺うにつれ、世の中に「アート・イン・ビジネス」の時代が来ている、そう仮説を立てるようになります。じっさいに本をご覧になればおわかりいただけるように、いまビジネスの中にさまざまなかたちでアートの居場所ができています。

企画が進むにつれて、同じような方向を見ている類書が、書店のビジネス書のコーナーに並ぶようにもなりました。自分が感じている「おもしろみ」を、他社の編集者も感じているのだな、と思うと同時に、美術回路の『アート・イン・ビジネス』が紹介する多くの事例のおもしろさにも確信をもつようにもなりました。

じつは、5,6年前からでしょうか、学問・研究の界隈でもアートや美学についての名著の翻訳が続いたり、若い哲学研究者のあいだでもアートにかかわる議論を展開するひとが増えている印象があります。私が親しくしている社会学者のなかにも、地域アートや表現と規制の話など、広い意味で社会のなかでアートの「居場所」を問う人たちがいます。大きな流れとして考えると「アート・イン・ビジネス」もそれらの研究と視点を共有していると思います。これは、大きな社会の動きなのだと思うのです。

今回の「アート・イン・ビジネス」に唯一無二の強みがあるとすれば、それは議論が実践的である、ということに尽きるでしょう。写真も多く盛り込みましたが、じっさいの成功事例ほど伝わりやすいものはありません。マーケティングの世界で映画の脚本執筆法が参照される時代ですから、たとえばスープストックがスープをブランディングした際の戦略が「アートによってコンテクストを変えること」だったというのも、言われてみればとても納得のいくものでした。

本書は、書かれていることをヒントにアクションを起こして、はじめて一つの「プロジェクト」と言えるような、実践的な本です。読者のみなさんのオフィスにアートの居場所が生まれたり、アーティストとの協業やアートにインスパイアされた事業が生まれ、成功に結びつくことを願っています。

2019年11月20日校了日に
有斐閣書籍編集第二部・四竈佑介

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