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[オーディブル]ペッパーズゴースト(著:伊坂幸太郎)の感想

Amazonオーディブルで伊坂幸太郎の「ペッパーズゴースト」を聴き終えたのでその感想です。

オーディブルで一度聴いただけの記憶を頼りに書いていますので、所々の誤りはご容赦ください。

元々私は伊坂幸太郎のファンなのですが、今作品で改めて彼の発想は天才的だと思いました。

この作品は「檀先生」、「ロシアンブル」、「成海彪子」の3人の視点で構成されている作品です。

それぞれのについて簡単に説明すると

檀先生
中学教師。本作品の主人公。
飛沫感染により人の翌日の印象的な出来事を見ることができる「先行上映」という能力を持つ。
過去にSOSが発せられながらも何もできず非行に走ってしまった生徒に対する未練がある。
その生徒にかつて言われた「何もできないくせに」という言葉を今も悔やんでいる。

ロシアンブル
壇先生の生徒のフトウマリコが書いた小説の登場人物。
超悲観的で猫好き。
ネコジゴハンターをしている。
ネコジゴハンターとは、猫に虐待的な行為をする動画サイト「猫を地獄に落とす会」、通称「ネコジゴ」を懲らしめるハンターのこと。
超楽観的でおなじく猫好きのアメショーとコンビを組んでネコジゴを懲らしめている。

成海彪子
父の影響でカンフーが好きになり、幼少期からの特訓でカンフーの達人となった女性。
カフェダイアモンド事件という爆破テロ事件で両親を亡くしていて、その事件の遺族サークルに属している。

「先行上映」、「ネコジゴハンター」、「カンフーの達人」これだけでも設定詰め込みすぎてお腹いっぱい感があります。
しかしこれらが最終的に無駄なく絡み合っていきます。

私が今作品の人物設定についてすごいと思ったことをつらつら述べていくと、まずは壇先生の「先行上映」という能力。
この能力の設定は映画「アバウトタイム」から持ってきていると私は推測しています。

「アバウトタイム」は21歳の誕生日に父親から一家に生まれた男たちはタイムトラベル能力があることを知らされます。
主人公はそのタイムトラベル能力を使って恋人を得て、家族を持ち、最後には時間、人生の尊さを知るという映画です。
この映画もかなりおすすめの映画なので是非観てみてください。

話を戻しますがペッパーズゴーストの「先行上映」という能力も壇先生は父から教わります。
父の命日の前日、壇先生の家計は代々「先行上映」の能力を持っていることを説明されます。
これだけだと「アバウトタイム」のただのパクリとなりかねませんが、伊坂はここに彼ならではの設定を加えます。

それは伊坂特有の「能力を限定的」にしたこと。
「先行上映」は先に述べた通り飛沫感染から人の翌日の印象的な出来事を観る能力です。
普通のタイムトラベルは本人の意思で過去、未来へ飛ぶことができますが飛沫感染で、かつ翌日の出来事の一部のみというかなり限定的な能力にしています。

飛沫感染、これはコロナ禍でもはや一般的な言葉になったのですが、名作映画「アバウトタイム」とこの「飛沫感染」を掛け合わせるという発想。

発想は既存のものの組み合わせで生まれると言われますが、こんな組み合わせを平然とやってのけストーリーに組み込む伊坂は天才だな、と感じます。

また、ストーリーについて話すとこの話の根幹にある思想はニーチェ「ツァラストゥストラ」です。
この「ツァラストゥストラ」は作中でも何度も出てきます。

一度聞いただけなので解釈が間違っているかもしれませんが、ツァラストゥストラが言いたいのは「人は生まれ変わっても永劫同じ体験をし続ける。辛い体験をしたものはまた辛い体験をする。何度も繰り返す無意味な人生を「これが生だったのか、さあもう一度!」と受け入れる」ということだと思います。

壇先生は生徒を救えなかったトラウマを、鳴海彪子は両親を亡くした痛ましい事件をツァラストゥストラがいうには繰り返すことになります。
それでもそれを受け入れ再起し「さあもう一度」と思えるか。

逆にロシアンブルは過去猫の虐待に加担していた「ネコジゴ」たちを懲らしめ、過去を無かったことにさせず受け入れさせる役割を持っています。

この過去を、人生を受け止め「さあもう一度」と生きていけるかが物語全体のテーマなのかと思います。

ニーチェの本を私は読んだことがありませんが、哲学的な思想も多く理解するのは難しいものだと言われています。
その難解なニーチェが裏のテーマとしてあることによって、3人の共通点がなさそうな人物たちを最後に一貫したものにまとめ上げています。

登場人物の発想、難解で一般的には理解しづらいニーチェを取り入れそれを大衆小説に落とし込む。

やはり伊坂幸太郎は最高だし、伊坂作品は読んでて飽きないなあ。


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