エッセイ135. おうちでロスト・イン・トランスレーション(8)ういろう
外国人同士だけれど、お互いの母語が100%わかるカップル。
外国人同士だけれど、片方が相手の言葉を100%わかるカップル。
そんな人はきっと、たくさんいるのでしょうね。
汝らに幸いあれ、天国は汝らのものである。
と、イエス様もおっしゃいました。
嘘です。
コロナウイルス感染者の濃厚接触者である私は、
あと三日、家にこもっていなければなりませんが、
オンラインヨガのお試しでヨガをしたり、
野菜の種を植えたり、後で楽をするために料理の下拵えをしたり、
割と生産的に生活しています。
けれどやはりなんと言っても、Netflixをつい見過ぎるという毎日です。
なんだかんだ喋りながら誰かとドラマや映画を見るのは楽しいですので、
毎晩、何をなんエピソード見るかを相談して、旦那と見ています。
大抵はアメリカとイギリスのドラマなので、
音声は英語にして、自分用に日本語字幕をつけます。
私は、字幕を読んでいるので、
セリフをあまり聞かずに、ストーリーを追っています。
わかる部分は耳に飛び込んではきますが、あまり音に注意を向けていないため、
自分に言いたいことがあると、いきなり普通に話しかけてしまいます。
けれどももちろん夫には、それは大迷惑です。
「ちょちょっと、いきなり話さないでよ。
今のところ、わからなくなっちゃった」
と言って、よく巻き戻しをしています。
たまに、英語字幕付きの日本映画を見ることがあり、
そんなときは、同じことを夫がやります。
「あっ、犯人誰かわかった。知りたい?」
などとよく言ってきますので、
「知りたくない、今のところ巻き戻して」
ということになります。
ときどき、英語でない外国語映画を見ることがあります。
そのときは、英語の吹き替え+日本語字幕になります。
例えば、今大好きで見ている「ペーパー・ハウス」はスペイン映画なので、
出てくる人はほとんどみんなスペイン人で、なにかと情熱的です。
すごい巻き舌で、表情豊かにしゃべっているはずですが、
吹き替えの方は、とてもアメリカンなので、
なんとなくスペイン語ドラマの真髄が伝わってこないと感じます。
夫はそこは、全然気にならないそうです。
そこで、
「あなたが一人でスペイン語音声・英語字幕て見て、
私が一人でスペイン語音声・日本語字幕で見て、
あとで、一緒に見たっていうことにしませんか?」
と提案しましたが、却下されました。
さてその「ペーパー・ハウス」を見ていたときのことです。
悪徳警官が、賄賂をもらいそうになっている場面で夫が、
「その漢字なんて読むの、そのbraibingにあたるところの」
と訊いてきました。
「え、わいろ、だけど」と答えたら、
「でしょう? わいろでしょう? わいろはbribingでしょう?
なんでこの前、変な説明をしたの?」
と言うのでした。
「賄賂の話なんかした? いつした?」
「2、3日前、「ドクターX」の中で、わいろ、わいろと言っていたから、
わいろの意味は何? と君に訊いたら、変な説明をしたでしょう?」
「変とは?」
「一種のフラワーであると言っていました」
「フラワー? 外へ行って摘んでくるやつ?
まあ素敵なお花、ありがとう、の、あの お花?」
「違う違う。flour」
粉・・・粉の話といえば・・
そういえば「ういろうって何?」と訊いてきたことがあって、
ういろう?
粉・・米粉とか小麦粉とか片栗粉とか混ぜて、お砂糖やいろいろ入れて、
型に流して蒸すお菓子だよ。
名古屋の人は大好きで、大須ういろうとか、青柳ういろうとかあるけど、
私は三重県の「虎屋」のういろうが好き。
ということを、確かに話しました。
「話したね・・・・いつ話したっけ・・・」
「うん、ドクターXで、ういろ・ういろ、て言ったから訊いたんだよ」
「ああわかった!
あれね、たぶんあなた、
「わいろ」じゃなくて、「ういろう」って言ってたんだと思う。
なんで急に 『ういろうって何』って言うのかって思ったんだった。
わいろの意味を聞きたかったのね?」
「うん、そう!
でもぼくは、「うぃ〜ろぅ」とは、言わなかったです。
今ここで君が言ったように、ちゃんと、わいろ、と言いましたよ」
「うそだね〜、言ってませんね〜 (子供か?)
もしあなたが「わいろ」って言ってたら、私すぐ賄賂だとわかりますもの。
あなたが、「うい〜ろぅ」って言ったから、
「ういろう」だと思って、一生懸命説明したのよ?
私の時間を返してよ」
「いえいえ、ぼくは、君がさっき言った通り、わいろと言いました。
あくまで言っていないと言うのなら、その時僕がなんと言ったか、
今ここで、正確にexactlyに言ってご覧なさい!(子供か?)
「なななんですってぇ〜?!😡」
💥🌋 どっかーん! 💥💣
・・・・と、お互いに外国人でないカップルならありえないような、
ロスト・イン・トランスレーションっぷり。
その間、「ペーパー・ハウス」は一時停止のままです。
こんなことが、今でもあります。
適度のストレスは、人間を若くシャープに保つという説があります。
認知症にもなりにくいそうです。
我々夫婦はこのように、どうでもいいところでロストしていて、
脳に余計な負荷がかかっているので、余徳として、脳年齢は若い。
そういうことになっていたら いいですよね。
サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。