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日本語教師日記76.法則がわかれば怖くない(15)知ってみればなるほど:固いもの


ターゲット言語が日本語でも他の言語でも、
外国語学習者は、「母語の法則に引っ張られる」と言うことがあります。
中間言語の問題とか、「語学学習の化石化」とか、お話しし出すと面白いことがあるのですが、それはまたの楽しみとさせていただいて、
今日は「生徒にとって、法則がわかれば怖くない・楽になる」。
そんなことについて、書いてみたいと思います。


今日は、「硬いもの・固いもの」。

英語が母語の生徒は、
枝も、鉛筆も、窓ガラスも、腕時計も、
同じ break・be broken  で言うことが多いですね。

ところが、枝や鉛筆は「折る」で、
窓ガラスやクッキーは「割る」で、
腕時計やパソコンは「壊す」ものですよね。

私たちは考えないで言葉を使い分けますが、生徒はかなりの頻度で間違えます。

鉛筆が壊れました。

ーー折れました、です。

時計が割れました。

ーー壊れました、です。

いちいち直されますので、「じゃあ、法則を知りたい」と。

「間違えないように言いたいのですが」

と訴えてくるのは当然です。


ここでは、媒介語を使う翻訳法は使えません。
日本語では、こうなんだということを、ルールとともに教えます。

まさに、法則がわかれば怖くない、です。



【折る・折れる】
一本、二本で数えるものは、「折る・折れる」です。
これは、長くて細くて、筒型のもの。
(切り口が丸くないものもあります。鉛筆は六角形)

腕・脚・ペン・クイックルワイパー・柱

しかし、強風でやっと折れる大木は「折れる」ですが、
強風では折れなくて、何かの道具でむにゅ〜っとやっと曲げるものは、
長くても、形が同じでも、「曲がる」「曲げる」ですので、ご注意を。

同じ形なのに、同じように見えるのに、何が違うの?

生徒よ、そう思うのは当然です。

「曲がる」「曲げる」で大事なのは、
「曲がり角」を境にして二つに分かれるとか、
そこから中身が出て露出することはない、ということです。

「鉄の棒だって長いじゃないですか」と言い出す ひね・・
じゃなくて屁理・・・・じゃなくて、
そういうことを言う、可愛い生徒は割といますので、
ここでついでに「曲がる」を違いを教えてしまいましょうか。

「長くて細いという同じ形でも、曲がった結果・曲げた結果は、
形状は、一本のままです。
また、曲がっても、中身は外へ出ません。

・腰が曲がる。(中身、出てません)
・性格が曲がってしまった。(二つに分かれていません)
・盆栽は、長い時間をかけて、針金で枝をゆっくり曲げていく。
(壊れた状態ではないです)

先生!
わかりました!


よしよーし!

「いただきますが聞きたくて」という料理本がありましたが、
私たち日本語教師は、「わかりました! が聞きたくて」です。

ここでも鉄板ルール、「説明は少なく・例文は多く」で行きましょう。

【割る・割れる】
一枚、二枚で数えるもので、固いものは「割る・割れる」です。
平たくて薄いものです。
割れ方は「二つに」でも、「粉々に」でもいいですが、
有効なのはやっぱり例文を示しながらが、確実で近道です。

・子供が二人いました。お煎餅を「二つに」割って、あげました。
・高いところにあった鏡が落ちてきて、「粉々に」割れてしまった。

ちなみに、「バラバラに割れる」はなしです!
言葉に神経質な私は、常にカラオケで割と高得点が取れるレパートリーですが、「手紙ー拝啓十五の君へ」の中の、

♪ ひーとーつ、しかないこの胸が、なんども「バラバラに」割れて〜♪

のところは、受け止めかねます。
「胸」は、重かったり、傷んだり、高鳴ったりするものです。
英語では、My heart was brokenですので、
日本語で言おうとして、珍訳になることがあります。

「ばらばら」は、

・もともと別々のものが、散らばることだったり・・・
    例: 出来上がったジグソーを蹴っ飛ばして、ばらばらにしてしまった。

また。
  ・もともと一緒だった別々のものが、「ばらばらに」存在することだからです。
    例:これは、絵巻を切り離して装丁した十枚揃いだったが、
             今では日本全国にばらばらに散逸してしまった。
     

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・

・・

🙄🙄🙄


あっ、すみません、また面倒くさい沼に。

生徒にはそんなことは教えません。
これは職業病です。

シャツやカーペットも「薄くて平たい」ですが、
硬くないことと、一瞬のインパクトで2つ以上に「割れる」ことはないので、
こっちには使えないことを、入れておきたいですね。

でも、生徒には、すっきりと。

一枚二枚と数えるもののうち、「やわらかいもの」には使えません。

と言いましょう。
十分です。
例も具体的にあげましょう。

割れるのは、

鏡、窓ガラス、クッキー、板など。

手で割れるもの、道具を使って割るもの とあります。

(破る も わる と読ませますが、使うことは稀です)


【壊す・壊れる】
機械的なもの・構造のあるものが機能しなくなるほどにダメージを受ける・ダメージを与えることです。


他動詞の「曲げる」「割る「折る」は、
それをする人が必要があって「やる」ことも含まれますが、
(・わっぱは火に当てて曲げる。
   ・コリアンダーの種は二つに割ってから植えないと発芽しません。
   ・長すぎるパスタを二つに折ってインスタントポットに入れました。
   など)

⭐️一方「壊す」「壊れる」は、
悪意であったり、うっかりであったりしても、
そのものにとっての、ダメージになります。


⭐️また、「壊す・壊れる」は、
そのものの外見が「変わらない」
ことが多いことも特徴です。

⭐️「壊す・壊れる」は、抽象的なものにも使えますので、
「人間関係」も「気分も」壊れたり、壊したりがあります。


無難なのは、・・・車・関係・トイレ

余談:
「先生、ペンも鉛筆も、同じ形です。長くて細いです。
なんで鉛筆が壊れたを言いませんか。
ペンが折れたはだめですか」

出たなぁ〜妖怪😠・・じゃなくて、可愛い生徒の言うことです。

ーーすごい! いいところに気づきましたね。
気づいてほしくなかったですが・・・

あなたの言うのは、
鉛筆の、どこが・どのように brokenですか?
鉛筆本体も芯も、「折れた」です。

ペンは?
車で踏んづけたとしたら、
プラスチックの軸なら、ぎりぎり「折れた」でいけるかもしれません。
金属のペンは、なかなか「折れ」ないでしょう。
本体へのダメージは、金属の万年筆なら「潰れた」「曲がった」ぐらいかな?

でもあなたが言いたいのは、ペン先の「機能」が壊れた、ということでは?

インクが出ないとか、漏れるとか・・

「そうです、そっちです」

ーーそれだと、ペン先が、と 特定して言及しておいて、「壊れた」でしょうね。

折れたペンを使おうとすれば、
ガムテープか何かで「あなたが」応急措置するかもしれませんが、
壊れたペン先は、「修理に出す」ですね。

壊れたものは、「修理するスキルのある人が扱うもの」です。

表現として、作家が書くのをやめるのを「ペンを折る」というのはあります。
昔にできた表現なので、竹の軸の筆とか、羽のついた木製のペンでしょう。
これは両手で持って、「うむ!」とやると、折れるので、許しましょう。


メカニックなものであっても、もっと複雑に壊れたものは、
「故障した」がいいいですよ。
エンジンとか、エアコンとか。

🙄🙄
ややこしい・・・・・・。

大丈夫です、クラスではこんなこと言ってたら終わりません。

オンライン・プライベートの私の生徒は、
私がこういうタチなのには慣れていて、このぐらいへいちゃらです。
というか、私以上に言葉にマニアックなので、
私の演説も面白がって聞いてくれているようです。
(辛いけど我慢してくれているの、みんな・・?)

実は、さっき投稿したものでは最初に「辞書を使うことの問題」
後半に、「柔らかいものに咥える変化」について書いていたのですが、
とても長くなってしまいましたので、
(これでもすごく長いですが)、
三つに分けることにして、書き換えました。

まさにリサイクルブログ♻️です。
さっき、先に全部読んでくださった方、ごめんなさい。


明日へ続きます。


サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。