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日本語教師日記その14. レッスンで味わうユーミン(下)


さて、端正な英国紳士のSさんに、

「この頃はSweet, bitter sweetを聞いております」

と言われ、松任谷由美が大好きな私は張り切りました。

でしょう?
やっぱり好きでしょう?
いいよねユーミン!
コンサートチケット 取れたためしないですけど。
中島みゆきも。

ユーミンは早熟な子で、
学校をサボって銀座の風月堂でアバンギャルドな大人と遊んでいたんですって。
実家は八王子の呉服屋さんだそうです。

訊かれてもいないのにお話していました。


歌詞のURLをお送りしてから、
ユーミン聴き続けで、思い出に浸りました。

私は、

「スキー場ではいつもユーミンがかかっていました!」

という世代より、ちょっとだけ下だと思うのですが、
でも本当に荒井由実、ユーミンが好きで、
子供たちがジブリを見るようになってからは、
「ルージュの伝言」とか、「優しさに包まれたなら」とか、
公園の行き帰りに一緒に歌っていました。


さて、準備怠りなく、レッスンを迎えました。

Sさん。全部わかりました?
難しかったでしょう!

舌なめずりをするような勢いで訊きましたら、

大体わかりました。

とのこと。

え〜まじか。

「ただ、2〜3 質問があります」

だそうです。

え、2〜3だけ?
素晴らしいです。

歌詞というのは、文法的に正しくないことも多いし、
なんとなくわかってもらう、という部分もありますから、
すごく難しいんですよね。

Sさんが「たいだいわかった」というのは、
今まで習った文法に引きずられすぎず、
(こんなことかな?)
と考えを至らせる訓練ができているということです。

やっぱり継続は力です。
苦節10年です。


夜のFMからニュースを流しながら
部屋の灯り消して窓辺に椅子を運ぶ

夜のFMからニュースを流しながら
部屋の灯り消して窓辺に椅子を運ぶ
小さなオペラグラスじっとのぞいたけど
月をすべる雲と柿の木ゆれてただけ

72年 10月9日
あなたの電話が少ないことに慣れてく・・・


Sさん:この日付は、彗星の日のことですか。
彼女は今現在のタイムテンスで彗星を見ているのですか?

私:いい質問です。
他のフレーズの文脈を見てください。
これ以前は現在形ですけど、
どこかに過去形が入っていますよね。
ですから・・

Sさん:あ、彗星はこの、歌っているより前の過去ですね?

私:そうそう。「あなたの電話が少ないことに慣れてく」っていうのは、
現在進行形ですけど、
彗星を見ながら、彼が冷たくなっていった時期を
思い出して「いた」わけでしょ?
そしてそのときのことを、「今」歌ってるわけです。
重層的ですよね、さすがユーミンです。

Sさん:なるほど! いやぁ、難しいです。

私:(あたぼうよ! と言いたいのを堪え)、
英語でもそうでしょうけれども、
詩や歌詞というのは、文法を軽く飛び越えて
独特な表現をしますからね、
散文と違って、なかなか理解しにくいです。
他には?
質問は?

Sさん:「慣れてく」の「く」とは?

私:「慣れていく」の口語ですね。
動詞+ての形+いく は?
なんでしたっけ?

S:あ〜、変化していくプロセス?

私:その通り。慣れました、じゃないんです。
彼の冷たさに慣れ始めて、
慣れていく最中なんですね。
これ、女にとって辛いですよね!
関係ないけど・・



私はひとりぼんやり待った
遠くよこぎる流星群

それはただどうでもいいことだったのに
空に近い場所へでかけてゆきたかった
いつか手をひかれて川原で見た花火
夢はつかの間だと自分に言いきかせて

シベリアからも見えなかったよと
よく朝弟が新聞ひろげつぶやく・・


Sさん:これはどういうことですか。わかりません。

私:「見えなかったよと」の、「と」は、なんですか? 
どこにかかりますか?

Sさん:わかりません。

私:見えなかったよ「と」、つぶやくんですね。
弟がつぶやいたわけです。
「翌朝弟が新聞広げ」が はさまって、
見えにくくなってますよね。

Sさん:あ、なるほど。いや〜、う〜む・・・



淋しくなればまた来るかしら
光る尾をひく流星群

この後、中央フリーウェイも一緒に解読できたところで時間切れ。


リリースされてから約40年の時代の変化は大きいです。
さすがのユーミンの歌詞も、古びてきたことに気がつきます。

「いつか手を引かれて河原で見た花火?」
手なんか引かれてないで、とっとと歩きなさい!

・・・と思ってしまう私は立派なおばさん。

男に頼り、保護されるのが嬉しかったころ・・

と 遠い目をしますけど、
いやいや、あの頃には別に戻りたくないかな?

次回はKiroroで、その後は中島みゆきです。
「ほ〜ら、足元を見てごらん」の次に、
「信じられないお前の最期を知る」と迫る。

この先も楽しみな、一緒に昭和ヒットソングの授業です。

なんか発音のためにはリエゾンがどうとか言ってたけど、
すごくずれてきてしまって、Sさんごめんなさいね。


ところで、上に掲げた写真ですけど、
ユーミンではなくて、友達のナオミちゃんです。
私は虎ノ門でOLをしていたころ、
六本木のケントスなどに通っていました。
そのころに追っかけていたバンドのメンバーで、
いろんな人のバックコーラスをやっていたのがナオミちゃん。
今、Youtubeで「中央フリーウェイ」を見ていたら
偶然見つけてびっくりしました。
もう軽く30年は連絡取ってないなぁ、どうしているかしら。
消息を知っている方、教えてください。


サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。