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日本語教師日記52.法則がわかれば怖くない(11)名詞を修飾する練習

日本語は、

「名詞を説明する言葉(名詞修飾語・名詞修飾節)が、名詞のすぐ前につく」

ですよね。

昨日買った、明日着ていく服、のように、です。

逆に、名詞を先に言ってしまってから、説明(修飾)があと、
というのが、日本語以外の多くの言葉にあることです。

この違いのために、苦労している日本語学習者はとても多いです。
というか、全員、苦労していると思います。

私たちが日本語で、

「10年前にパリの蚤の市で見つけて、値段交渉して買ったのと同じものが、東京のデパートにあって、がっくりしました」

と聞いたら、ちょっと長いなと思うにしても、もちろん理解できます。

これが、日本語を学習している人には、とても難しい。
長過ぎるかと思って、2文に分けてみますね。

「10年前にパリの蚤の市で見つけたものがあります。でも、値段交渉して買えたのと同じものが、東京のデパートにあって、がっくりしました」

これでもまだ長い、とても難しい、と感じるそうです。

10年前パリで、誰が? 何を? と、つい思ってしまうそうです。
悩んでいるうちに、話は進み、終わってしまうと言うのです。

言いたいことを先に言うのが当たり前なので、それが見当たらないと、
探し始めてしまうのでしょう。

また、「文が長いと、最初に言われたことを忘れてしまう」
ということも、よく聞きます。

これは、逆に日本人の英語学習を考えてもわかりますね。

中学の頃、関係代名詞というのに苦しみました。

これはなになにです。
と最初に言っておいて、そのあとに、
今からwhich, that...で、説明しますから訳しなさい。
ということになり、その「後出し感」半端なし。

This is the glass that I bought in Europe.
これはグラスです。
that ・・買った・・えうろ・・ヨーロッパか、ヨーロッパ、の、なかで・・

と細切れに訳し始め、

有名なあの変な言葉、「ところの」を使うことになります。

これは、ヨーロッパで、買った、ところの、グラス、です。

と訳し終わる頃には、息切れしてしまいました。

受験用の英語で、who に whom に whose、正しいものを選べ、
も、散々やりましたね。


その私たちの舐めた苦しみと逆のことを、
非・日本語話者に教えるのが私の仕事です。

できるだけストレスの少ないように教えたいものです。

紙に書いたものを時間をかけて訳す練習も有効ですが、
会話では、相手言語を無理に自分の言葉と同じように「並べ替える」
と言うことは、しないほうがいいです。

というよりも、話したり聞いたりするときに、
無理に、後ろの方にある言葉を前に引っ張ってきて、
自分に納得の行く順番を作ってから理解しようとするのは無理なのです。
現実に、音は流れて消えていくものですから.


それはあきらめて、聞こえてくる順番に、聞いていくのが一番です。

これは、昨日お店で見たのと同じカップではないです。
This, yesterday, at the shop, saw, thing, the same cup, not.

生徒に「このように言ったら↑わかりますか?」
と聞いてみると、わかりますと言います。

しばらくこの、「ヨーダ話法」的なのが日本語なのだ、
と、呑み込みにくいところを飲み込んで、で我慢してもらいますと、
慣れてくるに従って、学習者は無理な翻訳をしようとしなくなり、

「聞こえてくる通りに、聞こえてくる」(変な日本語ですみません)

ということが起きてくるのです。


日本語の名詞修飾については、
一文を少しずつ伸ばしていく練習が有効だと思っています。

私:これはノートです。
生徒:はい。
私:昨日買いました。そのノートです。はいどうぞ。
生徒:これは、ノート・・じゃない、これは、昨日買いましたノートです。
私:悪くない。
        でも、一つの文に「ます」と「です」が入ってるとおかしいですね。
       どうするんでしたっけ?
生徒:これは・・・・昨日買い・・買った・・・ノートです。
私:いいですね。伊東屋で買いました。はいどうぞ。
生徒:これは、昨日、伊東屋で買いま・・伊東屋で買った・・ノートです。
私:いいですねぇ。もう一回、今度はもっと速く言ってください。
生徒:はい、これは昨日、伊東屋で買ったノートです。
私:とてもよくできました。じゃ次。

というように、じわじわと伸ばしていきます。
10文ぐらいは練習したほうがいいと思います。

レッスンの初めに、先週は何をした、何を買った、誰に会った・・
と、コロナ禍でも なにかしらはありますから、自由会話があります。
そのときに話してくれたことを材料に、
一文を長くしていく練習をすると楽しいです。

学習者が日本語を話そうとするときは、どういう順番に言葉を出していくか、
案外に不確かだったりします。
かなり上手に話せた後で、取り落としたものがあるのに気がついて、
この「先週末」は、どこに入れるんでしたっけ。
というふうに聞いてくる人はたくさんいます。

ですので、名詞を修飾する練習のために、
最短の文に、いろいろな要件を加えていく練習は、
言葉の順番を覚えるいい練習にもなります。

まだ語彙が少ないために、言いたいことが言えないという人は多いですので、
こんな会話をしながら、1レッスンに一つか二つは、
新しい言葉を覚えてもらうようにしています。






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