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日本語教師日記33. 日本語学習者の身内の人々


日本人のご両親で、娘さんが外国籍の男性と結婚すると、
その夫となった人のマスオさん化傾向が、普通より著しく高く、
とても大事にするということを結構見ました。

一方、その逆ですと、女性のほうが大変そうに見えることが多いです。

10年近く前になりますが、海外で日本人男性と結婚し、
数年後に家族で日本に住むようになった女性たちを教えていました。
国籍も日本語学習歴も異なる、3人でした。

小さなお子さんのお母さんだったり、ご主人一家の家業を手伝っていたり、
そこもいろいろでしたが、皆さん日本語には苦労していらっしゃいました。


なるべく短期間で、日本語が流暢になる必要がある。
そうしろと義母や夫に言われている。

と3人ともおっしゃっていました。

日本に来て驚いたこととして、

・夫の勤務時間が非常に長くなり、夫婦の時間が減った。
・海外では優しかったのに、今は夫は実家寄りであり、
 自分に求めるものが次第に多くなってきた。
・日本で英語がほとんど通じないので驚いた。

ということを挙げていました。

そう言う中では、頼りになるのは夫一人。
夫のみなさん、頑張ってください!
全くお力になれませんが、応援しています。

ところが、夫ったら、日本語学習の費用は払ってくれていますが、
数ヶ月もすると、

「なんでまだ喋れないんだ」

などと酷いことをおっしゃる。
ちゃんと勉強しているのか、なんて。

俺は英語苦手だったけど、向こうでなんとか仕事できていたぞとか。

ここで私たち日本人が見逃しがちなのは、
「英語なら、日本人はすごいレベルまで ほとんどの人は来ている」
ということです。

そんなことない、全然しゃべれない!

と言う方も多いと思いますが、でも本当にすごいんですよ。

私たち日本人は、しゃべれないものの、
中学1年の1学期の段階で、読み書きはできるまでになっています。
まずこれがすごい。

そして、中高6年間の学校での勉強のおかげで、
英語が大嫌いでも、読めばなんとなく、
何を言っているかぐらいはわかるまでなっています。
言葉が口をついて出てこないだけで、
日常生活に必要な語彙もあり、短文であれば、自分の意思を伝えらます。

お腹がすきました。
ぼくはそれ、できません。
食べましょう。
今日は忙しいです。

これを英語で言えない人は少ないと思います。

その私たちが大人になって、初めての言語を、
文字まで含めて0から勉強したとしましょう。

三ヶ月や半年で、「会話」ができるようなるでしょうか。

私たちがある日いきなり、例えばアラビア語を習わなければならなくなった。
男性女性中性名詞があり、発音も聞いたこともなく、
一言も言葉を知らず、文字も全く違います。

半年ぐらいで、頼りの夫に、「なんでまだ喋れないんだ」
などと言われたら、絶望的な気分になると思いませんか?


それを考えずに、初めて日本語を習う人に対して、

まだ喋れないのか。
おかしいんじゃないか。

と言い出す人々が実際にいるのです。
天にかわってお仕置きをしてさしあげたいです。


特に、お義母さんと呼ばれる人たちの間に、それが顕著です。

あなた、子供と一緒にアニメを毎日見ればいいわよ。
そうしたら、だんだん話せるようになるわよ。
子供の日本語なんか簡単なんだから。

あるいは、

まんがを読んだらどう? 
ほら、ふりがなだってあるじゃないの。
毎日たくさんまんがを読めば、面白いし、
日本語なんてすぐペラペラになるでしょう。

と言うことを言う人が多いです。

下ですが、皆さんは皆さんの英語を使って、
これを外国人に教えてあげられますか?
口頭で、訊かれたらとっさに、ちゃんと伝わるように。

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「これは、大人の読む漫画じゃないか、こういうのを読めと言っていない」
とおっしゃる方へ。

では、小学生でも読んでいる名探偵コナンですが、
一生懸命毎日 日本語学校に通って、「です・ます」調で日本語を習って
やっと数ヶ月の人なら、コナンでも厳しいでしょう。

日本の子供たちは、大人の言葉であっても、
生まれたときから間断無く耳には入っていますから、これでわかるのです。
(ちなみに、「母語は、20%しか聞こえていなくても、文脈や経験で補ってだいたいわかるが、外国語では全集中しなければ無理」であるとも言われています)

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「テレビドラマなら、会話ばっかりなんだから、簡単じゃないか」
「面白いドラマをずっと見続ければ やがて少しずつわかってくるだろう」

という方は、教科書体と日本の話し言葉がどれほどかけ離れているかに
考えが及んでいないと思います。

日本語教師でない方に、わかりやすくお話ししますね。

日本語学習でとても広く使われている「みんなの日本語」という教科書があります。

上からそれぞれ、第1課、18課、25課です。25課が最終の課です。


第一課

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ここから始めて、同時にひらがな50弱、カタカナ50弱、
すぐに漢字も習い始めます。
拗音・撥音、という表記のルールも覚えます。


第十八課  もう153ページまで来ました。

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教科書の半ばでも、もちろん正しく、教科書体です。

なんの、どんな、どれ、どちら、〜ことができる
など、しっかりマスターしつつあります。
皆さんは、これを全部英語で言えますか?


第二十五課
200ページ以上の教科書を終える、最後の章の会話です。


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200ページ以上も、暗記とテストを繰り返し、時間をかけても、
一冊の教科書が終わった時点での会話のサンプルはこれです。


「簡単じゃないか」と思われましたか。
「これは大変なんだなぁ」という感想を持たれませんでしたか?

私たちには当たり前に考えずにできる動詞の語尾変化。
来ます、来る、来て、来ない、を一歩一歩学び、
それを使っての表現のバリエーションも習ってきた結果、これが理解できます。

食べてください。食べていてください。
もう食べました。まだ食べていません。
食べてもいいですか。食べてはいけません。
食べてしまった。

全て、決定的に意味が違います。
これが英語だったら、これだけのことを、
間違えずに使い分けることができるでしょうか。


慣れない環境で、母語でも英語でも日常生活が回せず、
歯医者さんにさえ、誰かと一緒に行ってもらわないとならない。
幼稚園ママだと、数の多いお便りが全く読めなくて、
持ち物、行動の全て、誰かに教えてもらわないといけない。
これは大変なストレスです。

少しの想像力をもってすれば、

もう半年勉強してるんだ、なんで話せないんだ。

なんて、言えないと思います。

頑張っている人の周りの皆さん、
長い目で優しく見守っていただきたいなぁと思っています。

本当にがんばっていますから。



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